ツキヒメエホン ~Four deaths, four stories~ 第一部

海獺屋ぼの

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ウサギとカメのデットヒート

聖子 変態の居ぬ間に洗濯

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 非番の日。
 私は自宅の掃除に精を出していた。
 一気に溜まっていた洗濯物を片付け、水回りを磨き上げる。
 部屋全体に掃除機をかけると久しぶりにすっきりとした気分になった。
 やっぱり私はこうやってお掃除している時が一番安らげる。
 私は自分の住むアパートが大好きだった。
 お気に入りの家具に囲まれて過ごすのは最高だと思う。
 誰にも侵されたくない私だけの部屋。
 異物を混入させたくない聖域。
 洗濯は鬼が居ぬ間に……。いや、変態が居ぬ間にするに限る。
 残念ながら非番でも邪魔が入る事はあるけれど……。
 案の定、その日も邪魔が入った。
『おーす! せーこたん! 非番の日に悪いねー』
 電話の主は鑑識の勇作さんだ。
「お疲れ様です! 部屋の掃除も終わって暇してたんで大丈夫ですよー」
『おお、綺麗好きだなー。なぁ。せーこたんさー、実はこの前の土左衛門の事で判った事あったから連絡したんだー。やっぱり事故じゃねーみてーだぞ?』
 勇作さんは簡単に検死報告を説明してくれた。
 京極大輔の遺体から微量ながら毒物が検出されたらしい。
 被害者の身元調査から心臓に疾患があった事も判ったようだ。
「心疾患だったんですね……」
『そうだ! 普通ならこの量で死ぬような毒物じゃねーけど、心疾患があったんなら話は別だ。おそらく誰かが被害者の病気を知っていて毒を盛ったんだろうよ』
「そうですか……。連絡ありがとうございました」
『おぉ! じゃあまた明日詳しく教えっからなー!』
 私は勇作さんにもう一度よく礼を言うと電話を切った。
 伊瀬さんにも連絡しなければ……。確か彼も今日は非番だ……。
 私は携帯の電話帳から伊瀬さんの電話番号を呼び出した。
 数回呼び出したが彼は出ない。
 私が出ないと怒るクセにに自分では掛け直してさえ来ない……。
「ま、いいか」
 私は独り言のように呟くと諦めて携帯をソファーに放り投げた。
 私は仕事の事は忘れて録り溜めておいたテレビドラマを見始めた――。
 自分の職業柄もあるけれど、私は刑事ドラマを見るのが好きなのだ。
 ジャニーズのタレントが主演してる刑事ドラマを見るのは、私の数少ない趣味の一つだ。
 だいたい非番の日はこれで一日が終わってしまう。
 まだ刑事になる前、私は猛烈なジャニオタだった。
 ネット上で知り合ったジャニオタ仲間と連んだり、コンサートに行ったりするのに必死だった……。
 実際にはファンクラブに入っていてもチケットを手に入れる事は難しく、泣き寝入りする事が多かったけれど……。
 ドラマを一通り見終わる頃には既に外は暗くなっていた。
 今日も無事、一日を無駄遣いする事が出来たようだ。
 有り難くも残念な事に……。
 夕飯を作るのが面倒だった私は近所にあるコンビニに行った。
 クリームパスタとホットスナックを買ってきて簡単な夕食にしよう。
 以前はきちんと自炊していた時期もあったけれど、今は外食かコンビニ飯で済ませている。
 料理していたのは、当時付き合っていたヒモに食わせるためだった。
 自分のためにわざわざ料理なんかしたくない。
 私はつくづく男運がないのだ。
 好きになる相手は例に漏れる事無く全員がクズだった。
 ヒモ男なんて何人も居たし、ほぼ全ての男が異常性癖を持った奴だった。
 中には既婚者も何人か居た。
 世間一般で言うところの『不倫』というモノも数回してきた。
 不貞行為による損害賠償請求をされた事ないのが不幸中の幸いだけれど……。
 これは自慢ではないのだけれど、落とそうと思って落ちなかった男は一人も居なかった。
 この事を友人に話すと「聖子は魔性の女」呼ばわりされる。
 でも……。私だって幸せになりたいのだ。
 お金持ちのイケメンで、私を甘やかしてくれて、家事もしないで良いって言ってくれる素敵なダーリンが欲しい。
 ごめんなさい。
 我が儘言いすぎました。
 そんな下らない事を考えながらその日は終わった。
 明日にはあの変態と京極大輔の話をしなければならないだろう……。
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