純文学のブックマーク ~栞と五人の文芸部員~

海獺屋ぼの

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第二章 ニコタマ文芸部

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 一九九四年五月。大型連休明け。二子玉川高校文芸部は四人で活動してた。
「篠田さんめっちゃ描いてんね」
「うん。夏にはイベントあるからね」
 浩樹は楓子の原稿用紙を興味津々と覗き込んだ。
「楓子さー。一応、文芸部なんだけど……」
「分かってるよ。でも私はイラスト要員でしょ? 書くのは水貴くんと栞の担当じゃん」
 このやりとりもすっかり見慣れた気がする。水貴としては楓子にも文芸をやってほしいらしい。
「川村さんからも言ってやってよ。これじゃ漫画研究会だよ」
「別にいいんじゃないの? 楓子ちゃんは好きにやって貰ってかまわないよ」
「そっか……。部長がそう言うなら……」
 水貴は腑に落ちない様子で首を横に振る。
 基本的に高校に上がっても文芸部は代わり映えしなかった。強いて言うなら浩樹が毎日来るようになったことぐらいだと思う。私が文章を書き、水貴が校正する。それだけ。
 意外だったのは浩樹だ。中学時代はあまり口に出さなかったけれど、彼はかなりの読書家らしい。まぁ、読むジャンルは水貴とは真逆だけれど。
「連休前に浩樹くんが書いてくれた作品すごくよかったよね! トリックとかすごく緻密でさ」
「ん? ああ、まーね……。親父から色々話聞いてるから、それ参考にしたんだよ」
「やっぱり生の声聞けるのっていいよね。私にはあんな風に書けないから羨ましいよ」
 浩樹の書く文章は良くも悪くも無駄がなかった。必要以上に感情描写も入れないし、完全に読者を想定したような文章だと思う。
 私や水貴が書く作品が純文学寄りなのに対して浩樹が書くのはミステリー小説だった。彼の書くミステリーは精度が高く、プロットの破綻も一切ないと思う。きっとこれは浩樹の性格に寄るものだろう。浩樹は一見すると大雑把に見えるけれど、本当はとても繊細なのだ。
「それにしても……。やっぱり新入部員来ないね……。中学んときと一緒だ」
「うーん……。仕方ないんじゃないかな? それに創設したばっかだしすぐには来ないよ」
 水貴としては新入部員がほしいようだ。もしかしたら部内で一番それを気にしているのは彼かもしれない。
「気長に待てばいいよ。そのうち来ると思うからさー」
 浩樹はおどけたように言うと水貴に「な?」と同意を求めた。
「そうだね。まぁ……。気長に」

 五月中旬。学内である事件が起きた。事件……。というよりは事故に近いかもしない。
「あれ? 救急車?」
 私たちが部室で作業しているとグラウンドに救急隊員が担架をもって入ってきた。よく見ると陸上部員がグラウンドの端っこに集まって何やら人だかりができている。
「なんだろうね? ちょっと見てくるよ」
 そう言うと浩樹はグラウンドへ走って行った。意外と野次馬気質らしい。
「誰か怪我したのかな?」
「たぶんね……。あれ?」
 何かに気がついたのか水貴は窓ガラスから身を乗り出した。
「何? 知ってる人?」
「うん。たぶん同じクラスの子だよ。ほら、中学のときに都大会で優勝した御堂さん!」
 御堂さん……。それを聞いて私も思い出した。たしかスポーツ推薦で入学した女の子だ。
 御堂火憐。彼女は入学当時から有名人だ。都内最速の女子。そう言われるくらいのスプリンター。
「心配だね……。大したことないといいけど……」
「そうだね」
 救急車はあっという間に御堂さんを乗せるとサイレンを鳴らして遠ざかっていった――。
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