21 / 64
第二章 ニコタマ文芸部
6
しおりを挟む
一九九四年五月。大型連休明け。二子玉川高校文芸部は四人で活動してた。
「篠田さんめっちゃ描いてんね」
「うん。夏にはイベントあるからね」
浩樹は楓子の原稿用紙を興味津々と覗き込んだ。
「楓子さー。一応、文芸部なんだけど……」
「分かってるよ。でも私はイラスト要員でしょ? 書くのは水貴くんと栞の担当じゃん」
このやりとりもすっかり見慣れた気がする。水貴としては楓子にも文芸をやってほしいらしい。
「川村さんからも言ってやってよ。これじゃ漫画研究会だよ」
「別にいいんじゃないの? 楓子ちゃんは好きにやって貰ってかまわないよ」
「そっか……。部長がそう言うなら……」
水貴は腑に落ちない様子で首を横に振る。
基本的に高校に上がっても文芸部は代わり映えしなかった。強いて言うなら浩樹が毎日来るようになったことぐらいだと思う。私が文章を書き、水貴が校正する。それだけ。
意外だったのは浩樹だ。中学時代はあまり口に出さなかったけれど、彼はかなりの読書家らしい。まぁ、読むジャンルは水貴とは真逆だけれど。
「連休前に浩樹くんが書いてくれた作品すごくよかったよね! トリックとかすごく緻密でさ」
「ん? ああ、まーね……。親父から色々話聞いてるから、それ参考にしたんだよ」
「やっぱり生の声聞けるのっていいよね。私にはあんな風に書けないから羨ましいよ」
浩樹の書く文章は良くも悪くも無駄がなかった。必要以上に感情描写も入れないし、完全に読者を想定したような文章だと思う。
私や水貴が書く作品が純文学寄りなのに対して浩樹が書くのはミステリー小説だった。彼の書くミステリーは精度が高く、プロットの破綻も一切ないと思う。きっとこれは浩樹の性格に寄るものだろう。浩樹は一見すると大雑把に見えるけれど、本当はとても繊細なのだ。
「それにしても……。やっぱり新入部員来ないね……。中学んときと一緒だ」
「うーん……。仕方ないんじゃないかな? それに創設したばっかだしすぐには来ないよ」
水貴としては新入部員がほしいようだ。もしかしたら部内で一番それを気にしているのは彼かもしれない。
「気長に待てばいいよ。そのうち来ると思うからさー」
浩樹はおどけたように言うと水貴に「な?」と同意を求めた。
「そうだね。まぁ……。気長に」
五月中旬。学内である事件が起きた。事件……。というよりは事故に近いかもしない。
「あれ? 救急車?」
私たちが部室で作業しているとグラウンドに救急隊員が担架をもって入ってきた。よく見ると陸上部員がグラウンドの端っこに集まって何やら人だかりができている。
「なんだろうね? ちょっと見てくるよ」
そう言うと浩樹はグラウンドへ走って行った。意外と野次馬気質らしい。
「誰か怪我したのかな?」
「たぶんね……。あれ?」
何かに気がついたのか水貴は窓ガラスから身を乗り出した。
「何? 知ってる人?」
「うん。たぶん同じクラスの子だよ。ほら、中学のときに都大会で優勝した御堂さん!」
御堂さん……。それを聞いて私も思い出した。たしかスポーツ推薦で入学した女の子だ。
御堂火憐。彼女は入学当時から有名人だ。都内最速の女子。そう言われるくらいのスプリンター。
「心配だね……。大したことないといいけど……」
「そうだね」
救急車はあっという間に御堂さんを乗せるとサイレンを鳴らして遠ざかっていった――。
「篠田さんめっちゃ描いてんね」
「うん。夏にはイベントあるからね」
浩樹は楓子の原稿用紙を興味津々と覗き込んだ。
「楓子さー。一応、文芸部なんだけど……」
「分かってるよ。でも私はイラスト要員でしょ? 書くのは水貴くんと栞の担当じゃん」
このやりとりもすっかり見慣れた気がする。水貴としては楓子にも文芸をやってほしいらしい。
「川村さんからも言ってやってよ。これじゃ漫画研究会だよ」
「別にいいんじゃないの? 楓子ちゃんは好きにやって貰ってかまわないよ」
「そっか……。部長がそう言うなら……」
水貴は腑に落ちない様子で首を横に振る。
基本的に高校に上がっても文芸部は代わり映えしなかった。強いて言うなら浩樹が毎日来るようになったことぐらいだと思う。私が文章を書き、水貴が校正する。それだけ。
意外だったのは浩樹だ。中学時代はあまり口に出さなかったけれど、彼はかなりの読書家らしい。まぁ、読むジャンルは水貴とは真逆だけれど。
「連休前に浩樹くんが書いてくれた作品すごくよかったよね! トリックとかすごく緻密でさ」
「ん? ああ、まーね……。親父から色々話聞いてるから、それ参考にしたんだよ」
「やっぱり生の声聞けるのっていいよね。私にはあんな風に書けないから羨ましいよ」
浩樹の書く文章は良くも悪くも無駄がなかった。必要以上に感情描写も入れないし、完全に読者を想定したような文章だと思う。
私や水貴が書く作品が純文学寄りなのに対して浩樹が書くのはミステリー小説だった。彼の書くミステリーは精度が高く、プロットの破綻も一切ないと思う。きっとこれは浩樹の性格に寄るものだろう。浩樹は一見すると大雑把に見えるけれど、本当はとても繊細なのだ。
「それにしても……。やっぱり新入部員来ないね……。中学んときと一緒だ」
「うーん……。仕方ないんじゃないかな? それに創設したばっかだしすぐには来ないよ」
水貴としては新入部員がほしいようだ。もしかしたら部内で一番それを気にしているのは彼かもしれない。
「気長に待てばいいよ。そのうち来ると思うからさー」
浩樹はおどけたように言うと水貴に「な?」と同意を求めた。
「そうだね。まぁ……。気長に」
五月中旬。学内である事件が起きた。事件……。というよりは事故に近いかもしない。
「あれ? 救急車?」
私たちが部室で作業しているとグラウンドに救急隊員が担架をもって入ってきた。よく見ると陸上部員がグラウンドの端っこに集まって何やら人だかりができている。
「なんだろうね? ちょっと見てくるよ」
そう言うと浩樹はグラウンドへ走って行った。意外と野次馬気質らしい。
「誰か怪我したのかな?」
「たぶんね……。あれ?」
何かに気がついたのか水貴は窓ガラスから身を乗り出した。
「何? 知ってる人?」
「うん。たぶん同じクラスの子だよ。ほら、中学のときに都大会で優勝した御堂さん!」
御堂さん……。それを聞いて私も思い出した。たしかスポーツ推薦で入学した女の子だ。
御堂火憐。彼女は入学当時から有名人だ。都内最速の女子。そう言われるくらいのスプリンター。
「心配だね……。大したことないといいけど……」
「そうだね」
救急車はあっという間に御堂さんを乗せるとサイレンを鳴らして遠ざかっていった――。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる