純文学のブックマーク ~栞と五人の文芸部員~

海獺屋ぼの

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第二章 ニコタマ文芸部

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「おはよう」
 楓子が眠そうに登校してきた。彼女の目の下にはくっきりとしたクマがある。
「おはよう。また夜更かししたの?」
「うーん。貫徹したよ。もうすぐ即売会だからさ」
「あー。締め切り前はそうなっちゃうよね」
「そうなんだよね。はぁー」
 楓子は大あくびすると大きく背伸びをした。シャム猫のような背伸び。夏に漫画の同人即売会があるのでその準備に追われているらしい。
「さっき御堂さんに会ったよ。退院したみたいだね」
「へー。今日からなんだね。水貴くんも心配してたから良かったよ」
「そうだよねー。ちょこっと話したけどいい人だったよ」
「ふーん。まぁ早く怪我治るといいね」
 楓子は興味なさそうに言うともう一度あくびをした――。

 放課後。私たちはいつものように部室へ向かった。
「村田先生今日も来ないのかな?」
「来ないんじゃない? あのおじいちゃんやる気ないしさ」
「うーん……。一応顧問だからたまには来て欲しいなぁ」
 村田先生。名目上、文芸部顧問の先生だ。どうやら彼は私たちが入学する以前から文芸部の顧問だったらしい。これは私が創部申請に行って初めて知ったことだけれど。
「そう? 私はどっちでもいいかな」
「まぁ……。困りはしないんだけどさ。でも村田先生がいてくれたおかげで色々楽だったよね」
「それは……。まぁ、そうだね。部室は綺麗に片付いてたし、蔵書も整理されてたもんね」
 村田先生は放任主義の教師だった。そういった意味では母に近い気がする。村田先生曰く「僕がいなくても問題ないだろう?」ということらしい。
 部室のドアを開ける。中では水貴が一人で本棚の整理をしていた。
「お疲れ様」
「ああ、お疲れ様」
 彼は本棚にハタキを掛けていた。ついでにきちんと作家が五十音純になるように直している。水貴は几帳面な性格なのだ。浩樹が適当に戻した本を綺麗に並べるのは彼の日課になっている気がする。
「今日から御堂さん来たみたいだね」
「うん。まぁ、元気そうで良かったよ」
「そうだねー。朝ちょっとだけ話したよ」
「御堂さんから聞いたよ。今度部室遊び来るってさ」
 どうやら御堂さんは私との約束を水貴に話したようだ。
「あれ? そういえば浩樹くんは?」
「ああ、あいつは今日は来ないよ。なんか行くところあるんだってさ」
 私たちがそんな話をしている横で楓子は原稿用紙をテーブルに広げた。コマ割りされた漫画の原稿。
「楓子さぁ……。一応ここ文芸部なんだけど……」
「知ってるよ? でも好きにしていいって条件で入部したんだから今更文句言わないで」
 水貴と楓子のこの会話もすっかり定番化している。水貴としてはきちんと文芸部としての体裁が欲しいのだろう。
 部室の窓からグラウンドを見ると陸上部とサッカー部が部活動していた。陸上部の生徒たちはグラウンドの端っこで顧問の先生と何やら打ち合わせをしている。
「御堂さんも部活顔出したんだね」
「ああ、そうみたいだね。早く復帰したいらしいからね」
 打ち合わせしてる陸上部員から少し離れた芝生で御堂さんは座っていた。彼女の横には松葉杖が置かれている。
 穏やかな放課後だ。浩樹がいないので余計そんな風に感じる。
 事件が起こったのはそんなありふれた放課後だった――。
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