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第二章 ニコタマ文芸部
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中間テスト期間がやってきた。テスト期間の三日間は午前中授業で、部活動も禁止されていた。当然、文芸部も休業状態で、私たちはテスト後すぐに家路についた。
「御堂さんどうだった?」
帰り道。私は御堂さんにテストの手応えについて尋ねた。
「うん! バッチリだと思う!」
「よかった! 結果が楽しみだね」
御堂さんはすっかり明るさを取り戻したようだ。相変わらずクラスでは孤立しているようだけれど、彼女自身はいい意味で諦めがついたのかあまり気にしていない様子だ。
「本当は自己採点ぐらいした方がいいんだけど、今回は明日の対策をしよう」
「うん! 浩樹くんありがとね!」
浩樹は隙を作りたくないようだ。今日もみっちり勉強会をするつもりらしい。
「明日は数学と化学があるからね。特に気合い入れないとさ」
「そうだね……。私も理系苦手だから勉強しなきゃ」
私も御堂さんのことは言えないのだ。特に数学は苦手で中学時代はいつも平均点前後だった。国語一〇〇点、日本史八〇点、数学六五点。そんなアンバランスな点数。
「ハハハ。でも今回はみんな勉強したから結果いいかもね……。悪いけど今日は川村さんち使える?」
「大丈夫だよー。でも喫茶店じゃなくてリビングがいいかな? 平日は混むからさ」
「りょうかい! じゃあ、今回も川村さんちでやらせて貰おう」
すっかり私の家は勉強会の会場になってしまった。まぁ、祖母も母も喜んでくれているし、問題はないと思う。気のせいか、最近、母は服装に気を遣ってくれているようだ。若い男性が来るから……。というわけではないだろうけれど。
帰り道で植栽の紫陽花が紫色に咲いていた。木々は新緑から幾らか、色濃い緑に変わったようだ。毎年この季節になると月子のことを思い出す。紫陽花……。だけではないけれど、花を見ると彼女を思い出さずにはいられない。
鴨川月子の家には少しだけ大きな庭があった。綺麗に整備された日本庭園。池には錦鯉が泳ぎ、庭師が綺麗に手入れしているであろう花木が植えられていた。
春にはしだれ桜が咲き乱れ、初夏には紫陽花が花を付けた。秋には紅葉が鮮やかな朱色に色づいき、冬は雪が降り積もった。そして……。雪が溶ける頃になると福寿草が顔を覗かせた。
福寿草が咲く季節を過ぎると春が近いと、彼女の祖母はよく言っていた。黄色い花だ。寒い季節に咲く強い花。
控えめに言って、鴨川家は資産家なのだと思う。家屋の作りや彼らの服装からそれは容易に推測できた。
こうして東京に戻って思うけれど、やはり彼女の家は特別だったのだ。都内では家々が密集し、大型の団地でどうにか生活している。まぁ、京都府内でも彼女の家は特別だったのかもしれないけれど……。
「川村さん?」
物思いに耽っていると水貴に声を掛けられた。
「ん? ごめん。何?」
「いや、なんか考え込んでたからさ」
水貴は心配そうに私の顔を覗き込む。
「大丈夫だよ。ちょっと昔のこと思い出してただけ」
「そっか」
水貴はそれだけ言うとそれ以上、何も詮索しないでくれた。
私は水貴のこういうところが気に入っている。彼は口数こそ少ないけれど、非常に思慮深いのだ。
月子はどうしているだろう? ひさしぶりにそんなことを思った。きっと彼女のことだから元気にしているだろうけれど……。
「御堂さんどうだった?」
帰り道。私は御堂さんにテストの手応えについて尋ねた。
「うん! バッチリだと思う!」
「よかった! 結果が楽しみだね」
御堂さんはすっかり明るさを取り戻したようだ。相変わらずクラスでは孤立しているようだけれど、彼女自身はいい意味で諦めがついたのかあまり気にしていない様子だ。
「本当は自己採点ぐらいした方がいいんだけど、今回は明日の対策をしよう」
「うん! 浩樹くんありがとね!」
浩樹は隙を作りたくないようだ。今日もみっちり勉強会をするつもりらしい。
「明日は数学と化学があるからね。特に気合い入れないとさ」
「そうだね……。私も理系苦手だから勉強しなきゃ」
私も御堂さんのことは言えないのだ。特に数学は苦手で中学時代はいつも平均点前後だった。国語一〇〇点、日本史八〇点、数学六五点。そんなアンバランスな点数。
「ハハハ。でも今回はみんな勉強したから結果いいかもね……。悪いけど今日は川村さんち使える?」
「大丈夫だよー。でも喫茶店じゃなくてリビングがいいかな? 平日は混むからさ」
「りょうかい! じゃあ、今回も川村さんちでやらせて貰おう」
すっかり私の家は勉強会の会場になってしまった。まぁ、祖母も母も喜んでくれているし、問題はないと思う。気のせいか、最近、母は服装に気を遣ってくれているようだ。若い男性が来るから……。というわけではないだろうけれど。
帰り道で植栽の紫陽花が紫色に咲いていた。木々は新緑から幾らか、色濃い緑に変わったようだ。毎年この季節になると月子のことを思い出す。紫陽花……。だけではないけれど、花を見ると彼女を思い出さずにはいられない。
鴨川月子の家には少しだけ大きな庭があった。綺麗に整備された日本庭園。池には錦鯉が泳ぎ、庭師が綺麗に手入れしているであろう花木が植えられていた。
春にはしだれ桜が咲き乱れ、初夏には紫陽花が花を付けた。秋には紅葉が鮮やかな朱色に色づいき、冬は雪が降り積もった。そして……。雪が溶ける頃になると福寿草が顔を覗かせた。
福寿草が咲く季節を過ぎると春が近いと、彼女の祖母はよく言っていた。黄色い花だ。寒い季節に咲く強い花。
控えめに言って、鴨川家は資産家なのだと思う。家屋の作りや彼らの服装からそれは容易に推測できた。
こうして東京に戻って思うけれど、やはり彼女の家は特別だったのだ。都内では家々が密集し、大型の団地でどうにか生活している。まぁ、京都府内でも彼女の家は特別だったのかもしれないけれど……。
「川村さん?」
物思いに耽っていると水貴に声を掛けられた。
「ん? ごめん。何?」
「いや、なんか考え込んでたからさ」
水貴は心配そうに私の顔を覗き込む。
「大丈夫だよ。ちょっと昔のこと思い出してただけ」
「そっか」
水貴はそれだけ言うとそれ以上、何も詮索しないでくれた。
私は水貴のこういうところが気に入っている。彼は口数こそ少ないけれど、非常に思慮深いのだ。
月子はどうしているだろう? ひさしぶりにそんなことを思った。きっと彼女のことだから元気にしているだろうけれど……。
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