純文学のブックマーク ~栞と五人の文芸部員~

海獺屋ぼの

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第二章 ニコタマ文芸部

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 理科室に向かう。村田先生曰く、唯一誰も居ない教室らしい。
「まあ座りなさい。コーヒーでも飲むかね?」
「いただきます」
「ふむ。では煎れようか」
 村田先生は上機嫌に笑うと実験器具の棚からロートと濾紙を取り出した。
「それ使うんですか?」
「ああ、大丈夫だよ。これは僕が自分で持ち込んだコーヒー専用のものだからね。えーと……。ブルマンとケニア産あるけどどちらがいいかな?」
「……。じゃあケニアで」
 村田先生は「そうか」と言うとミルを取り出した。非常識な教師だとは思っていたけど思った以上にイカれているらしい。
 それから村田先生は鼻歌交じりにお湯を沸かし始めた。当然ケトルなんてない。実験用のビーカーとアルコールランプ。
「そういえば君のテスト結果素晴らしいものだったよ」
 沸騰しかけのビーカーを眺めながら彼はポツリと言った。
「え? ああ……。そうだったんですね」
「おや? あまり興味がなかったかね」
 興味がない。というのは当たりだと思う。最終試験を終わった段階で結果は分かりきっている。
「いえ……。おそらく不正解はなかったと思うので」
 我ながら酷い言い草だ。もし、僕が教師だったら頭を小突くかもしれない。
「ハハハ、さすがだね。当校創立以来の天才だよ君は。ま、隠しても仕方ないからいうけれど、君は満点だ。君には簡単すぎたかな?」
 何を持って簡単と言うのだろう? 知識を詰め込むことが難しいのか。教師の出す範囲を把握するのが難しいのか。それによって変わると思う。まぁ、どちらも時間と労力でなんとかなる話だけれど。
「古文だけは少し難しかったですね……。正答がない問題だったので」
「ああ、あれか。うむ……。少し意地が悪かったかな? でも……。優等生でも悩むように作った甲斐があったよ」
 正直な気持ちを言おう。このオッサンはかなりイカれている。教師以前に人間として。
 そんな話をしているとビーカーがコトコトと沸騰し始めた。ガラス容器を揺らしながら水蒸気が立ち上っている。
「さて、ではドリップしようか……」
 村田先生は実験用のトングを掴むとビーカーを持ち上げた。理系学生のコーヒータイム――。
 ドリップするとケニア産コーヒーの香りが教室中に広がる。酸味のある香りだ。人によっては嫌いな匂いだと思う。
「いただきます……。それで? 今日は何の話ですか?」
「ん? ああ、そうだったね。じゃあ単刀直入に……」
 単刀直入という言葉に違和感を覚える。単刀直入な言い方をする人間は理科室で実験器具を使ってドリップコーヒーなんてしない。
「御堂火憐さんは知ってるね? 君のクラスの?」
「え? あ、はい」
「うむ。実は御堂さんにカンニング疑惑があってね……。目撃した生徒の言い分だと君の答案を盗み見たらしい」
 村田先生の話を聞いた瞬間、僕はすぐにそれがどういう意味か理解した。明らかなねつ造。それ以外あり得ない。
「証拠はあるんですか?」
 僕は思いきり顔をしかめて村田先生に質問した。質問と言うより八つ当たりに近いと思う。
 村田先生は僕のそんな態度を見て安心したように笑った。
「いや、ないね。だから僕はこれがねつ造だと思っているよ」
「え?」
「うん。だから君を呼んだんだ。このままじゃあ御堂さんがあまりにも不憫だからね。どうだろう? 君さえ良ければ協力してくれないかな? 報酬は出せないのが申し訳ないが……」
 不思議な人だ。素直にそう思った。今まで会ったどんな教員とも違う。まともぶった聖職者もどきとは違う。でも……。気がつくと僕は返事していた。
「こちらこそお願いします」
 こうして僕の計画が始まった――。
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