純文学のブックマーク ~栞と五人の文芸部員~

海獺屋ぼの

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第三章 夏の花

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 七月上旬。連日の雨はアスファルトを濃い鼠色に染めていた。今年も織り姫と彦星は会えないかも知れない。そんな空模様。
「今日も降るねぇ」
 中原くんは窓ガラスを流れる水滴を眺めながら呟いた。
「だねぇ」
 私は原稿に目を落としたまま答えた。雨音から察するにこの雨はしばらくやまないと思う。
「川村さんって本当に原稿の虫だよね」
「んー? まぁ……。そうだね。一応文芸部だしね」
 私の返答に中原くんは「あ、そ」と興味なさそうな反応をした。まぁ、これもいつものことだ――。
 御堂さんのカンニング捏造事件から気がつけば一ヶ月。私たちの日常はごく平凡なものになっていた。これと言って変化はない。変わったことと言えば何人かの教職員が異動になったことぐらいだ。
 風の噂では事件に関わった教職員は皆教員を辞めたらしい。まぁこれは本当に風の噂だ。信憑性のないゴシップ。(ちなみにソース元は中原くんだ)
 そんな風評被害的な話を除けば二子玉川高校の日常はいたって普通だと思う。陸上部は普通に大会に出られるようだし、文芸部も高校生向けの文芸賞に向けて大忙し……。そんな感じだ。まぁ要は普通の高校生活に戻ったのだと思う。
「にしても今日も部活三人か……。御堂さんも瀬戸くんもクラスマッチの実行委員なんかやらなきゃいいのにさ」
 中原くんは愚打たれたように言うとパイプ椅子に逆に座った。最高にお行儀が悪い。
「仕方ないよ。浩樹くんはあのクラスではそういうポジションでしょ? それに御堂さんだって……」
 私はそこまで言って口を噤んだ。御堂さんのクラスでの現状。それはあまり言葉にしないほうが良いと思う。
「わからないな。まぁ瀬戸くんは分かるよ? 彼はとかくその手のことで目立ちたがるからさ。でもねぇ。御堂さんがやるのはどうかと思うよ? だってあれは他のクラスメイトからの圧に負けたような感じだからさ」
 中原くんは私が口にしなかったことをわざわざ言葉にしてくれた。ご丁寧に。思いっきり悪意を込めて。
「まぁ……そうね」
 私は曖昧に返した。
「そうだよ。御堂さんは優しすぎるんだ。二組の連中なんてほとんどがカンニング事件の加害者みたいなもんなのにさ」
 中原くんはまくし立てるように言うと「まったく」と言ってため息を吐いた。そして諦めたように本を読み始めた。彼はいつもこうなのだ。空気を読むつもりが微塵もない――。

 ここ一ヶ月はずっとこんな感じだ。水貴は週に二回程度、あとは私と楓子(会話に参加しないだけでいつも彼女は部室に居る)と中原くん。そんなメンツだ。
 まぁ仕方ない。元々は私と水貴と楓子だけの部活だ。部員が少し増えたぐらいじゃ何も変わらないと思う。
 窓の外に目を遣ると相変わらず雨が降っている。雨音と楓子のペンの音、それだけが部室にこだましていた。
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