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第七章 水郷会児童福祉施設 あけぼし
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公演が始まると私を残して弥生さんと美鈴さんが先にステージに飛び出した。そして彼女たちは演技を始めた。……と言っても実際に演技っぽいことをしているのはてんびん座の劇団員と弥生さんだけだ。美鈴さんは素と大差ないように見える。
『現れたなマジカルマーチ!』
悪役の男性(おそらく悪の組織の幹部的な人)がそう言って弥生さんと対峙した。そんな彼の周りには手下っぽい人たちがポーズを決めて立っていた。彼らの演技は……。思いのほか本格的だ。もし客として見たとしたら結構感動すると思う。
そんな中、弥生さんがその場でクルッと綺麗にターンした。そして相手を指さして『あなたたちの好きにはさせない!』と力強く叫んだ。その口調は普段の彼女からは想像できないくらい力強い。まるで本当に悪の組織に挑む魔法少女みたいだ。……まぁ、今演じているのはまさにそんな役柄なのだけれど。
それから弥生さんと美鈴さんは雑魚敵をポコスカ倒していった。弥生さんはいかにも魔法少女っぽくキラキラした魔法を使って。美鈴さんはアクション俳優みたいな槍さばきで。それぞれ悪役をさばいていく。
「夏木さん。そろそろ出番だよ。次に香取ちゃんが舞台袖近くまで吹き飛んできたら出てね」
私が二人の演技に集中していると逢川さんにそう耳打ちされた。私は「はい」とだけ答える。
『ぐぬぬ……。こうなれば仕方ない。奥の手だ!』
ステージ上からそんな台詞が聞こえると奥から大量の煙が立ち上った。そしてその煙を照らすように青い光が下から照射された。その演出に客席からも歓声が上がる。
『フハハハ! これで終わりだ!』
煙が晴れるとそこにはさっき見た張りぼてドラゴンの姿があった。ドラゴンの口からは赤い煙が吐き出されている。
『遂に本性を現したな! 今日こそ決着を付けてやる!』
ステージ上の煙が落ち着くと美鈴さんがそんな台詞を言った。そして「おりゃぁー!!」と叫びながらドラゴンに突っ込んでいった。……そしてびっくりするほど見事に返り討ちに遭う。ここまで完全にシナリオ通りだ。
「よし……。じゃあ出番だよ夏木さん!」
逢川さんはそう言って私の背中を軽く押した――。
ステージに飛び出すと目の前に美鈴さんが横たわっていた。チャイナドレスから彼女の引き締まった足が投げ出されている。その様は本当にダメージを負って気絶しているようだ。
『セーナ! 私が食い止めるからメイのことをお願い!』
弥生さんはそう言うと張りぼてドラゴンの前でピンク色でハンドガン型のステッキを掲げた。見覚えのあるデザインのステッキ……。どうやら弥生さんは衣装だけではなくステッキも天沢さんのものを使っているらしい。
それから弥生さんは『はぁー!!』と叫びながら張りぼてドラゴンの吐き出す煙と対峙した。そしてその直後、ステージに仕込まれた花火が派手に火花を散らした。かなり激しい演出だ。あまりに煙たくて思わず目を覆いたくなる。
「聖那ちゃん。お願いヒーリング魔法……」
花火に見とれている私の耳元に美鈴さんの声が届いた。その瞬間、私は自身が魔法少女だったことを思い出した。そうだ。弥生さんの演技に見入っている場合じゃない。早く美鈴さんを治癒しなきゃ。どうやるんだっけ? と一瞬頭が真っ白になる。
「ご、ごめん。すぐやるよ」
私は美鈴さんに小声でそう伝えると気を取り直してその場でくるりと回った。そして美鈴さんに向けてポーズを決めた。今回は特に台詞はない。たぶんこれは出雲社長や諏訪さんからの厚意だと思う。初ステージで台詞ありは正直キツいので素直にありがたいと思う。
私がポーズを決めると美鈴さんの倒れている地面に魔方陣が出現した。そしてその魔方陣は次第に七色に光り始め、美鈴さんの身体を癒やし始めた。魔法名はマジカルリヴァイブ。……らしい。直訳すると癒やしの魔法だ。
『ありがとうセーナ!』
五秒ほど魔方陣が光ると美鈴さんはそう言って立ち上がった。そしてハルバートを手に取ると張りぼてドラゴンからの攻撃に耐える弥生さんの元に走り寄る。
『マーチ! サポートよろしく!』
そう言って美鈴さんは再び張りぼてドラゴンに突撃していった。そして弥生さんが呪文を唱え始める。
『大天使の名において神槍に力を与えよ……。スーパーエンハンス!』
弥生さんがそう唱え終わると同時に美鈴さんのハルバートが張りぼてドラゴンの喉仏に突き刺さった。そしてすぐに爆炎がステージを包み込む。
私はその様子を彼女たちの後ろから黙って眺めることしかできなかった。足下にはさっき私が掛けた魔方陣が七色に光っていた――。
『現れたなマジカルマーチ!』
悪役の男性(おそらく悪の組織の幹部的な人)がそう言って弥生さんと対峙した。そんな彼の周りには手下っぽい人たちがポーズを決めて立っていた。彼らの演技は……。思いのほか本格的だ。もし客として見たとしたら結構感動すると思う。
そんな中、弥生さんがその場でクルッと綺麗にターンした。そして相手を指さして『あなたたちの好きにはさせない!』と力強く叫んだ。その口調は普段の彼女からは想像できないくらい力強い。まるで本当に悪の組織に挑む魔法少女みたいだ。……まぁ、今演じているのはまさにそんな役柄なのだけれど。
それから弥生さんと美鈴さんは雑魚敵をポコスカ倒していった。弥生さんはいかにも魔法少女っぽくキラキラした魔法を使って。美鈴さんはアクション俳優みたいな槍さばきで。それぞれ悪役をさばいていく。
「夏木さん。そろそろ出番だよ。次に香取ちゃんが舞台袖近くまで吹き飛んできたら出てね」
私が二人の演技に集中していると逢川さんにそう耳打ちされた。私は「はい」とだけ答える。
『ぐぬぬ……。こうなれば仕方ない。奥の手だ!』
ステージ上からそんな台詞が聞こえると奥から大量の煙が立ち上った。そしてその煙を照らすように青い光が下から照射された。その演出に客席からも歓声が上がる。
『フハハハ! これで終わりだ!』
煙が晴れるとそこにはさっき見た張りぼてドラゴンの姿があった。ドラゴンの口からは赤い煙が吐き出されている。
『遂に本性を現したな! 今日こそ決着を付けてやる!』
ステージ上の煙が落ち着くと美鈴さんがそんな台詞を言った。そして「おりゃぁー!!」と叫びながらドラゴンに突っ込んでいった。……そしてびっくりするほど見事に返り討ちに遭う。ここまで完全にシナリオ通りだ。
「よし……。じゃあ出番だよ夏木さん!」
逢川さんはそう言って私の背中を軽く押した――。
ステージに飛び出すと目の前に美鈴さんが横たわっていた。チャイナドレスから彼女の引き締まった足が投げ出されている。その様は本当にダメージを負って気絶しているようだ。
『セーナ! 私が食い止めるからメイのことをお願い!』
弥生さんはそう言うと張りぼてドラゴンの前でピンク色でハンドガン型のステッキを掲げた。見覚えのあるデザインのステッキ……。どうやら弥生さんは衣装だけではなくステッキも天沢さんのものを使っているらしい。
それから弥生さんは『はぁー!!』と叫びながら張りぼてドラゴンの吐き出す煙と対峙した。そしてその直後、ステージに仕込まれた花火が派手に火花を散らした。かなり激しい演出だ。あまりに煙たくて思わず目を覆いたくなる。
「聖那ちゃん。お願いヒーリング魔法……」
花火に見とれている私の耳元に美鈴さんの声が届いた。その瞬間、私は自身が魔法少女だったことを思い出した。そうだ。弥生さんの演技に見入っている場合じゃない。早く美鈴さんを治癒しなきゃ。どうやるんだっけ? と一瞬頭が真っ白になる。
「ご、ごめん。すぐやるよ」
私は美鈴さんに小声でそう伝えると気を取り直してその場でくるりと回った。そして美鈴さんに向けてポーズを決めた。今回は特に台詞はない。たぶんこれは出雲社長や諏訪さんからの厚意だと思う。初ステージで台詞ありは正直キツいので素直にありがたいと思う。
私がポーズを決めると美鈴さんの倒れている地面に魔方陣が出現した。そしてその魔方陣は次第に七色に光り始め、美鈴さんの身体を癒やし始めた。魔法名はマジカルリヴァイブ。……らしい。直訳すると癒やしの魔法だ。
『ありがとうセーナ!』
五秒ほど魔方陣が光ると美鈴さんはそう言って立ち上がった。そしてハルバートを手に取ると張りぼてドラゴンからの攻撃に耐える弥生さんの元に走り寄る。
『マーチ! サポートよろしく!』
そう言って美鈴さんは再び張りぼてドラゴンに突撃していった。そして弥生さんが呪文を唱え始める。
『大天使の名において神槍に力を与えよ……。スーパーエンハンス!』
弥生さんがそう唱え終わると同時に美鈴さんのハルバートが張りぼてドラゴンの喉仏に突き刺さった。そしてすぐに爆炎がステージを包み込む。
私はその様子を彼女たちの後ろから黙って眺めることしかできなかった。足下にはさっき私が掛けた魔方陣が七色に光っていた――。
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