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中編
夏の訪れと異変
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(※中編に入ります。虎谷というキャラは、前編の脆さと痛みの共鳴というエピソードで名無しで一度出てきています。また確認していただけたら嬉しいです!)
窓の外の風景に夏の訪れを感じた。
校庭の周りに植えられた木々の葉は濃い緑色に輝き、いきいきしている。
雲一つない青空が広がり、まだ朝なのにすでに強い日差しが教室に差し込んでいた。
昇降口に向かって歩く生徒達の中から、早川の姿を探したが見つけられなかった。
ここ数日、同じことを繰り返しては何もできずにいる自分に苛立って仕方なかった。
(水瀬太一 視点)
三好が屋上から突き落とされて亡くなってから一週間が経った。
犯人はA組の矢野で、屋上で座り込んだまま、正気を失った状態で見つかったらしい。
ある日の昼休み、廊下で矢野と喧嘩になりかけた時のこと。
睨みつける俺に小さな悲鳴を上げて怯えた矢野の姿を思い出す。
あの矢野が屋上から誰かを突き落とせるほどの度胸はないように思えた。
それでも、特に誰も疑うことはなかった。
普段から矢野は卑屈で愚痴っぽい生徒で、お世辞にも好かれていたとは言えない生徒だったからだ。
俺の悪口も人づてに何度も聞いた。
そんな矢野の犯行を疑うほど、周りは矢野に好意も関心も持っていなかった。
「うぅ~!!宵くん、ほんまやばいっっ!!
一人だけ放っとるオーラちゃうもんなぁ。」
朝のSHRが始まる前の時間に賑やかな教室で腐れ縁の虎谷が、まだ来てない後ろの早川の席に座り、足をジタバタさせながらスマホの画面に釘つけになっている。
早川の机に頬杖をつきながらその画面を覗くと、知らないインディーズらしきロックバンドの映像が流れていた。
明るいオレンジに近い猫っ毛を跳ねさせながら騒ぐ虎谷や、談笑するクラスメートを見ていると、まるで何もなかったかのようだ。
「太一、宵くんのギター聴いたことないやろ?
聴いたら最後やで。男でも惚れてまう。
もう、女の子とかどーでもええってなるくらい、痺れるくらいカッコええ…」
女好きの虎谷の信憑性のない言葉を聞き流しながら、俺は早川のことを考えてた。
一週間前、保健室の近くの廊下で、俺の上で涙でぐしゃぐしゃになった早川の顔が未だに脳裏に焼きついている。
俺の顔に降り注いでくる涙に、呆然としてしまった。
“助けて”と、初めて俺に救いを求めた早川の姿が一瞬、あの人と重なった。
あの人は俺に頼ることなんてなかったのに。
病室のベッドで痩せ細った背中を向けて座るあの人が浮かび上がってきて、胸が締め付けられた。思わず眉間に皺が寄り、慌てて表情を整えた。
「あの宵くんと同じステージに立てるってほんまっ、夢見たいやわ。
この記念すべき、対バンライブには太一を特別に招待したるわ。感謝しぃや。」
人の気なんて知らずに浮かれ気味にスラックスのポケットから数枚のチケットを取り出した虎谷が、目の前に突きつけてくる。
そのチケットを目で捉えながらも頭の中はまだ早川のことでいっぱいだった。
あの日、俺の言葉を受け入れるように真っ直ぐ見つめ返した早川は、ここ一週間、S H Rが始まる直前、ギリギリで教室に入ってくる。
そして授業の合間のわずかな休憩時間も昼休みも、どこかに姿を消す。
明らかに避けられていた。
いつも行動を共にしていた苗代とも、挨拶すら交わしてないようだった。
今度こそ、俺が守るって決めたのに。
あの人と早川の顔が重なる。
その時、意識の片隅にあった天羽の顔がふっと浮かんだ。
窓の外の風景に夏の訪れを感じた。
校庭の周りに植えられた木々の葉は濃い緑色に輝き、いきいきしている。
雲一つない青空が広がり、まだ朝なのにすでに強い日差しが教室に差し込んでいた。
昇降口に向かって歩く生徒達の中から、早川の姿を探したが見つけられなかった。
ここ数日、同じことを繰り返しては何もできずにいる自分に苛立って仕方なかった。
(水瀬太一 視点)
三好が屋上から突き落とされて亡くなってから一週間が経った。
犯人はA組の矢野で、屋上で座り込んだまま、正気を失った状態で見つかったらしい。
ある日の昼休み、廊下で矢野と喧嘩になりかけた時のこと。
睨みつける俺に小さな悲鳴を上げて怯えた矢野の姿を思い出す。
あの矢野が屋上から誰かを突き落とせるほどの度胸はないように思えた。
それでも、特に誰も疑うことはなかった。
普段から矢野は卑屈で愚痴っぽい生徒で、お世辞にも好かれていたとは言えない生徒だったからだ。
俺の悪口も人づてに何度も聞いた。
そんな矢野の犯行を疑うほど、周りは矢野に好意も関心も持っていなかった。
「うぅ~!!宵くん、ほんまやばいっっ!!
一人だけ放っとるオーラちゃうもんなぁ。」
朝のSHRが始まる前の時間に賑やかな教室で腐れ縁の虎谷が、まだ来てない後ろの早川の席に座り、足をジタバタさせながらスマホの画面に釘つけになっている。
早川の机に頬杖をつきながらその画面を覗くと、知らないインディーズらしきロックバンドの映像が流れていた。
明るいオレンジに近い猫っ毛を跳ねさせながら騒ぐ虎谷や、談笑するクラスメートを見ていると、まるで何もなかったかのようだ。
「太一、宵くんのギター聴いたことないやろ?
聴いたら最後やで。男でも惚れてまう。
もう、女の子とかどーでもええってなるくらい、痺れるくらいカッコええ…」
女好きの虎谷の信憑性のない言葉を聞き流しながら、俺は早川のことを考えてた。
一週間前、保健室の近くの廊下で、俺の上で涙でぐしゃぐしゃになった早川の顔が未だに脳裏に焼きついている。
俺の顔に降り注いでくる涙に、呆然としてしまった。
“助けて”と、初めて俺に救いを求めた早川の姿が一瞬、あの人と重なった。
あの人は俺に頼ることなんてなかったのに。
病室のベッドで痩せ細った背中を向けて座るあの人が浮かび上がってきて、胸が締め付けられた。思わず眉間に皺が寄り、慌てて表情を整えた。
「あの宵くんと同じステージに立てるってほんまっ、夢見たいやわ。
この記念すべき、対バンライブには太一を特別に招待したるわ。感謝しぃや。」
人の気なんて知らずに浮かれ気味にスラックスのポケットから数枚のチケットを取り出した虎谷が、目の前に突きつけてくる。
そのチケットを目で捉えながらも頭の中はまだ早川のことでいっぱいだった。
あの日、俺の言葉を受け入れるように真っ直ぐ見つめ返した早川は、ここ一週間、S H Rが始まる直前、ギリギリで教室に入ってくる。
そして授業の合間のわずかな休憩時間も昼休みも、どこかに姿を消す。
明らかに避けられていた。
いつも行動を共にしていた苗代とも、挨拶すら交わしてないようだった。
今度こそ、俺が守るって決めたのに。
あの人と早川の顔が重なる。
その時、意識の片隅にあった天羽の顔がふっと浮かんだ。
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