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「イリー、だ」
「あ、失礼しました、イリーさん。そ、その、もしかして私、何かしてしまったでしょうか?」
そう問うと、グランとイリーはぽかんと口を開けてから、示し合ったわけでもないのに同時に頭を振った。
「いや……ミレーに関係ないことではないが、ミレーのせいではないから、安心しろよ」
「なんでそういう言い方しか出来ないんですか! ミレー様は関係ない、で良いでしょう!」
グランの説明に不備があったというように噛みついてくる。
それを面倒くさそうに受け流すグランに、状況が読めないでいるミレーがようやく本題に入った。
「あの……! 王国の紋章の鎧を身につけているということは、騎士の方、ですか?」
「あぁ……まぁ、そんなものですね、はい」
曖昧な言い方が引っかかるが、とりあえず横道に逸れないようにした。
「そのような方が、何故ここへ……」
「…………」
イリーはグランの顔を伺い見ると、視線を向けられたグランは力なく頷いてみせた。
「グランディア公爵家から、正式にお二人をお迎えにあがるように、と当主から仰せつかった次第です」
「?」
グランディア公爵家とは、と首をひねると、その先の説明を求めるように、イリーはグランを細めた目でじっと見やった。
「……オレの実家だ」
「……………………え?」
何を言われたのかわからず、思考が停止してしまったミレー。
「……今、公爵家って聞こえた気がするけれど……」
「あぁ。公爵家の嫡男だ」
「……誰が?」
「……オレが」
「……グランが?」
「い、いや……あの……」
グランがどう説明すべきかと言いよどんでいると、見かねたようにイリーが説明をしてくれた。
「彼の本名はオリヴァー・グランディアと申します。グランというのは、この下町で暮らす際の名前として使い分けておられます」
「……じゃあ、平民って言ったのは……」
「……すまん、ウソだ」
「…………うそ?」
「………………はい」
やや声が小さくなった気がするが、その自身のない声量が、平民のグランと名乗っていた青年が実は平民ではなく貴族でしかも公爵家……つまり自分の実家より爵位が断然上の存在なのではないか?
混乱した頭が状況を整理処理しようと高速で回転しているが、そろそろショートしそうだ。つむじ辺りから煙が噴き出るかもしれない。
「……つ、つまり私は、遊ばれていた、っていうこと? い、いままでやさしくしてくれたのも、全部、全部……私を騙して弄ぶために……?」
そう考えたら耐えきれなくなり、目から止めることが出来ない涙がボロボロあふれ出した。
指で拭おうとしても拭いきれず、イリーがハンカチを渡そうとしてくれたがそれより先に、両手で自分の顔を覆い隠した。
「わたし……わたしはほんとうにグランが……グランのことが……」
「違う!」
突然、グランが大きな声で先ほどのミレーの疑問を否定した。
「……黙っていたのは、悪かった。嘘を吐いていたのも悪かった。どう説明したらいいか、わからなくて……説明しよう、しよう、と思いながら、どこかで、ミレーがオレを好きでいてくれるのは、下町にいるグランのことが好きなわけで、もし貴族だって知ったら、離れていってしまうんじゃないかって思って、怖くなっちまったんだ。悪ぃ……」
「……? なんで貴族だってわかったら離れるの? 私も、こんなんでも一応貴族なのに」
「…………」
よほど説明に困る話だったらしい。黙ってしまったグランの代わりに、またイリーが説明をしてくれた。この場にイリーがいなかったら話はここまで進んでいなかったのではないかというほどに、頼れる存在だ。
「グラン……いえ、オリヴァー様は、公爵家の者でありながら、物心ついた頃からこの下町に住んでおられました。8歳の時に公爵家に戻られてからも、それまで住まれていた下町のほうが馴染みあると、絶対にオリヴァー様が参加されないとならない時以外はだいたいここにおられます。それも、貴族にはどうしても馴染めない、という理由で。……こちらとしては、そろそろ公爵家に戻ってきて定着してほしいのですが」
じっとイリーに抗議の目を向けられても、グランは平然としていた。
「グランは貴族が嫌いなの?」
「い、いや、嫌いじゃないぞ? というか貴族の全員が嫌な奴じゃないし。ミレーのことだって好きだし、貴族にも友だちはいるし。あ、男だけど」
最後のはお前の余計な誤解を招かないように言った、と付け足すグラン。
「……絶対にお前を遊び目的で抱いたなんて思っていない。オレと結婚してほしい気持ちは変わらないが……ミレーはどうなんだ? オレが貴族だと知って、気が変わったりは……」
「え、それはないけど?」
あっさりと答えると、何故か呆気に取られるグラン。
「……じゃあ、良いのか?」
「ただ……私はあなたのことをなんて呼べば良いの? 本名がオリヴァーなら、オリヴァー様と?」
「この町にいる間はグランで頼む。あと、様は要らねえよ」
「いや、いります」
「要らねえって」
「必要です!」
「あの、お二方。いつまでも玄関で立ち話もなんですし、こちらも時間が押しております。町民が起きる前に出発をしたいので、続きは公爵家の馬車の中でお願いできますか?」
「わーったよ。今回は何日戻れば良いんだ?」
「公爵閣下は、一か月は滞在してほしいと仰っておりました」
「却下だ。こっちの仕事もあるんだ。一週間が限界だ」
「しかし……結婚をなさるんですよね? ミレー様と」
イリーが念を押すように訊ねると、グランは「う」と声を詰まらせた。
「あ、失礼しました、イリーさん。そ、その、もしかして私、何かしてしまったでしょうか?」
そう問うと、グランとイリーはぽかんと口を開けてから、示し合ったわけでもないのに同時に頭を振った。
「いや……ミレーに関係ないことではないが、ミレーのせいではないから、安心しろよ」
「なんでそういう言い方しか出来ないんですか! ミレー様は関係ない、で良いでしょう!」
グランの説明に不備があったというように噛みついてくる。
それを面倒くさそうに受け流すグランに、状況が読めないでいるミレーがようやく本題に入った。
「あの……! 王国の紋章の鎧を身につけているということは、騎士の方、ですか?」
「あぁ……まぁ、そんなものですね、はい」
曖昧な言い方が引っかかるが、とりあえず横道に逸れないようにした。
「そのような方が、何故ここへ……」
「…………」
イリーはグランの顔を伺い見ると、視線を向けられたグランは力なく頷いてみせた。
「グランディア公爵家から、正式にお二人をお迎えにあがるように、と当主から仰せつかった次第です」
「?」
グランディア公爵家とは、と首をひねると、その先の説明を求めるように、イリーはグランを細めた目でじっと見やった。
「……オレの実家だ」
「……………………え?」
何を言われたのかわからず、思考が停止してしまったミレー。
「……今、公爵家って聞こえた気がするけれど……」
「あぁ。公爵家の嫡男だ」
「……誰が?」
「……オレが」
「……グランが?」
「い、いや……あの……」
グランがどう説明すべきかと言いよどんでいると、見かねたようにイリーが説明をしてくれた。
「彼の本名はオリヴァー・グランディアと申します。グランというのは、この下町で暮らす際の名前として使い分けておられます」
「……じゃあ、平民って言ったのは……」
「……すまん、ウソだ」
「…………うそ?」
「………………はい」
やや声が小さくなった気がするが、その自身のない声量が、平民のグランと名乗っていた青年が実は平民ではなく貴族でしかも公爵家……つまり自分の実家より爵位が断然上の存在なのではないか?
混乱した頭が状況を整理処理しようと高速で回転しているが、そろそろショートしそうだ。つむじ辺りから煙が噴き出るかもしれない。
「……つ、つまり私は、遊ばれていた、っていうこと? い、いままでやさしくしてくれたのも、全部、全部……私を騙して弄ぶために……?」
そう考えたら耐えきれなくなり、目から止めることが出来ない涙がボロボロあふれ出した。
指で拭おうとしても拭いきれず、イリーがハンカチを渡そうとしてくれたがそれより先に、両手で自分の顔を覆い隠した。
「わたし……わたしはほんとうにグランが……グランのことが……」
「違う!」
突然、グランが大きな声で先ほどのミレーの疑問を否定した。
「……黙っていたのは、悪かった。嘘を吐いていたのも悪かった。どう説明したらいいか、わからなくて……説明しよう、しよう、と思いながら、どこかで、ミレーがオレを好きでいてくれるのは、下町にいるグランのことが好きなわけで、もし貴族だって知ったら、離れていってしまうんじゃないかって思って、怖くなっちまったんだ。悪ぃ……」
「……? なんで貴族だってわかったら離れるの? 私も、こんなんでも一応貴族なのに」
「…………」
よほど説明に困る話だったらしい。黙ってしまったグランの代わりに、またイリーが説明をしてくれた。この場にイリーがいなかったら話はここまで進んでいなかったのではないかというほどに、頼れる存在だ。
「グラン……いえ、オリヴァー様は、公爵家の者でありながら、物心ついた頃からこの下町に住んでおられました。8歳の時に公爵家に戻られてからも、それまで住まれていた下町のほうが馴染みあると、絶対にオリヴァー様が参加されないとならない時以外はだいたいここにおられます。それも、貴族にはどうしても馴染めない、という理由で。……こちらとしては、そろそろ公爵家に戻ってきて定着してほしいのですが」
じっとイリーに抗議の目を向けられても、グランは平然としていた。
「グランは貴族が嫌いなの?」
「い、いや、嫌いじゃないぞ? というか貴族の全員が嫌な奴じゃないし。ミレーのことだって好きだし、貴族にも友だちはいるし。あ、男だけど」
最後のはお前の余計な誤解を招かないように言った、と付け足すグラン。
「……絶対にお前を遊び目的で抱いたなんて思っていない。オレと結婚してほしい気持ちは変わらないが……ミレーはどうなんだ? オレが貴族だと知って、気が変わったりは……」
「え、それはないけど?」
あっさりと答えると、何故か呆気に取られるグラン。
「……じゃあ、良いのか?」
「ただ……私はあなたのことをなんて呼べば良いの? 本名がオリヴァーなら、オリヴァー様と?」
「この町にいる間はグランで頼む。あと、様は要らねえよ」
「いや、いります」
「要らねえって」
「必要です!」
「あの、お二方。いつまでも玄関で立ち話もなんですし、こちらも時間が押しております。町民が起きる前に出発をしたいので、続きは公爵家の馬車の中でお願いできますか?」
「わーったよ。今回は何日戻れば良いんだ?」
「公爵閣下は、一か月は滞在してほしいと仰っておりました」
「却下だ。こっちの仕事もあるんだ。一週間が限界だ」
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