愛を忘れた令嬢が平民に扮した公爵子息様に娶られる話

rifa

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「じゃあ、ゆっくり入ってみろ。タオル巻いたままで良いから」
 その通りに、まずは痛かった右脚をゆっくり桶の中に入れてみる。
 若干ぴりっと痛んだが、先ほどの痛みに比べると耐えられる程度だった。
 そのままゆっくり腰を下ろし、胸元まで湯に浸かることが出来た。
「……はぁぁぁ」
 あたたかい湯に身を浸すと、こんなに身体の緊張がほぐれるものなのだろうかと、ホッとした。
 無意識に肩まで浸かっていたが、痛みより、身体がほぐれていく感覚のほうが強かった。
 湯のあたたかさにうっとりしているミレーを、手を握ってくれているグランが優しい眼差しで見つめていた。
「グランも入らないの?」
「……オレは後から一人で入る」
「そっか」
「ミレー、頭は怪我していないか?」
「うん。最近は顔から上は痛いことなかった」
「……じゃあ、桶から頭だけ出して上向きな?」
「こう?」
「そうそう。そのままじっとしていろよ」
 グランはそう言うと、ミレーの髪の毛に湯をかけて、わしゃわしゃと音を鳴らしながらかき乱した。
「な、なに?」
「髪を洗っているんだよ。目をつむっていろよ、石鹸が目に入るからな」
「石鹸? 石鹸って?」
「痒いところはないか?」
 質問に答えてもらえず、質問が返ってきた。
「痒いところは……あ、もうちょっと右……」
「ここか?」
 グランは指示されたところをしゃかしゃかと、リズミカルにかき乱していく。
「気持ち良ひ……」
「そいつはなにより」
 楽しそうな彼の声が耳に届く。
「グランの指が気持ちいい。それでいて、小刻みに動くから、頭がさっぱりしていくみたい……」
「湯をかけて洗い流すから、口と目に入らないようしっかり閉じておけよ?」
「ふぁい」
 うっかり眠りそうになっていたので、気を引き締め、口と目を閉じた。
 リズミカルに髪がかき乱されていたのも気持ち良かったが、湯で洗い流されるのもさっぱりとして気持ちが良かった。
「ミレー?」
 身体もほぐされていくようだ。
 これがお風呂……と感動しているミレーの頬を、グランのお湯に濡れたあたたかい手が優しく撫でた。
「ふゎ……」
「湯あたりしているな。もう出るぞ」
 グランに手を引かれて立ち上がると、世界がぐらりと回っていた。
「……れ?」
 バランスを崩して倒れかけたのを、グランが抱きとめてくれた。
 そうして大きなタオルをミレーの身体に巻きつけると、その身体をひょいと両腕で持ち上げた。
「……グランって、力持ち……」
「ミレーが軽すぎるんだよ」
 呆れたような声が返ってくる。軽すぎる、の意味をわかりかねて首をひねるが、グランの腕の中が気持ちよくて、他のコトはどうでもよく思えてしまった。
(……やっぱり、幸せだなぁ)
 うっとりとこの時間を味わっていると、今度は冷たい風がミレーの身体を包む。
(あ、きもちいい……)
 大気を冷やす冷たい季節の風が、火照ったミレーの身体を包んだ。
 浴室から出て、ミレーをベッドに横たわらせてすぐに、グランが部屋の窓を開けてくれたらしい。
 濡れ滴っている身体を、グランがタオルで拭ってくれている。
(こんなことしてもらっていいのかな……)
 赤ん坊のように扱われているような気もするが、それでも、これが心地よくてミレーは目を閉じた。
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