愛を忘れた令嬢が平民に扮した公爵子息様に娶られる話

rifa

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「み、道でも聞きに来たんじゃねえの?」
 イリーにした質問を、何故か傍に立っていたグランが咄嗟に返してきた。
「なんでグランが答え……」
「こちらにお住いの、グランディア公爵家嫡男であられるオリヴァー様に用事があり出向きました」
「……公爵家、嫡男?」
「イリー!!!」
 公爵家の関係者などいないので、家を間違えたのではないかと伝えようとしたのを、またもやグランの声が遮った。
 突然真横で叫んだ彼の声で、わずかに脳が揺れた気がした。
「いい加減お話になったらどうなんですか? こそこそ逃げ回るおつもりですか、男らしくもない」
「……い、今言うコトじゃ……」
「今お伝えするもあとでお伝えするも、変わりません。いえ、なんなら後回しにするほうが問題は複雑になります。今お伝えすることを強くお勧めします」
「…………」
「あなたにお伝えする勇気がないのでしたら、私が代わりに伝えさせていただきます」
「え、ちょ、ま……!」
「ミレー様」
 慌てて制止を呼びかけるグランを無視して、イリーがミレーのほうに向きなおった。
 なんだろうと緊張し、背筋を伸ばして姿勢を正した。
 イリーは揃えた指先をグランに向け、うやうやしく口を開いた。
「こちら、グランと名乗っております殿方の本名は、オリヴァー・グランディアと申します」
「……本名?」
「はい。私はグランディア公爵家の要望で、正式にお二人をお迎えにあがるように、と当主から仰せつかった次第です」
「……はい?」
 グランが本名はオリヴァー・グランディアで、公爵で。
「……? ん? え?」
 理解できずにいた。否、今まで不可思議だった些細なことが、今まさに綺麗に紐解かれるように理解できそうだったが、気持ちが追い付かなかった。
「……グラン。あなたは平民だって。ここがあなたの家だって……」
「グランというのは、この下町で暮らす際の名前として使い分けておられます」
 イリーの説明に、ミレーの心が激しくかき乱されていく。
 震える声をなんとか絞り出しながら、グランのほうを見た。
「……じゃあ、平民って言ったのは……」
「……すまん、ウソだ」
 気まずそうに目を逸らせる、それがイリーの説明の信ぴょう性を増していった。
「…………うそ?」
「………………はい」
 やや声が小さくなった気がするが、今はそのようなことは問題ではなかった。
平民のグランと名乗っていた青年が実は平民ではなく貴族で、しかも公爵家……つまり自分の実家より爵位が断然上の存在なのではないか?
 混乱した頭が状況を整理処理しようと高速で回転しているが、そろそろショートしそうだ。つむじ辺りから煙が噴き出るかもしれない。
「な、なんでそんなウソを……?」
 混乱している頭をなんとか落ち着かせながら、グランに問う。
 グランは何やら視線を彷徨わせて、いつもの威勢の良さがどこかへ行ってしまったように頼りない仕草をしていた。
「……い」
「い?」
「……言い出すタイミングを失って……」
「……?」
 タイミングを窺うような話であろうかと首をひねる。
 今のグランに質問をしても、要領のいい答えが返ってきそうもないと考え、イリーに話を振った。
「先ほど、二人を迎えに……って言っていましたが、その二人っていうのは……」
「グランもといオリヴァー様と、ミレー様のことです」
「なんで私も?」
「……オリヴァー様から、なにも聞かされていないようなので、僭越ながら私から説明を」
「いいから! オレが言う!」
 今まで影の薄くなっていたグランが突然叫ぶように声を荒げて、会話に入り込んできた。
 そんなグランを、イリーがじっと見やる。
「ご説明、出来るのですか?」
「バカにすんな。他の奴に説明されるくらいならちゃんと自分でするっつーの」
「…………失礼いたしました。では」
 そう言うとイリーは一歩後方へ下がり、グランがミレーに向き合った。
「……まず、ミレー、今まで黙っていて悪かった。オレの本名はオリヴァー・グランディア。グランディアっていう公爵家の息子だ」
「公爵家のご子息が、なんで平民?」
「……少し話は長くなるが……。オレは8歳までこの下町で『グラン』っていう名前で、今はいない母親と二人で暮らしていたんだ。オレにとっては、この下町が実家で、グランが本名なんだが、戸籍上グランという人間はいない。だから本名はオリヴァー、っていうだけだ」
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