22 / 37
21
しおりを挟む
「落ち着いたところで、ミレー、結婚してほしい」
「私が……グランと……?」
まだ心臓の動揺が止まらずドキドキと高鳴り続けている。
彼と一か月近く寝食をともにしてきたことが嘘だったように、ミレーはそれを恥ずかしがった。
そんなミレーの心情を察していないかのように、マルクが頭を振った。
「いや、グランとじゃないよ」
「え?」
話の流れ的にグランと結婚をするものかと思っていたが、それなら誰と結婚しろというのだろうかとミレーはマルクを見る。
「グランじゃない。グランディア公爵家の嫡男、オリヴァー・グランディアとだよ」
「え? ……グランとオリヴァーは同一人物だって」
「立場の問題だよ。『オリヴァー』と結婚したら、君はいずれ公爵夫人となる。君はしばらくの間グランと生活をともにしていたが、オリヴァーという側面を見ていないと思う。グランであってもオリヴァーであっても、君を愛することに変わりはないが、君は覚えなくてはいけないことや身に付けないといけないことがたくさんあると思う。なにより、オリヴァーとして生きる彼はグランとは違う人間かと思うほど話し方もなにもかも違う。そんな二重人格のような彼を愛してくれるかい?」
「……え、えっと……」
「なんでミレーの決心を鈍らせるようなこと言うんだよ! そんな脅しみたいなこと言って、もし気が変わっちまったらどうすんだ! あと、二重人格ってなんだよ、頑張ってオリヴァーを演じているだけだよ!」
マルクの発言に、グランが歯をむき出しにして食いつく。
「そんなだまし討ちみたいに何も告げずにミレーを囲み込んで、君は満足なのかい?」
「……ッッ」
マルクの鋭い言葉に、グランは悔しそうに奥歯を噛みしめて両拳を握りしめた。
「……オリヴァーで生きているグランは、そんなに違うの?」
「笑っちゃうくらいには」
「役者になれそうかと思うほどには」
ミレーの質問に、マルクとイリーが遠慮のない意見を返してきた。グランは一層悔しそうに歯噛みしていた。
「そんなに違うんだ……。その、ちょっとどんな感じか想像つかないけど、グランに変わりはないんでしょう? なら、良いんじゃない?」
「ミレー……。じゃあ、結婚、いいのか?」
先ほどまでマルクとイリーの背後で拳を握りしめていたグランが、今は顔を輝かせているのが見えた。
「え、っと……その、結婚は……。だ、だって、そういうのは家族の、親の許可を……きょか……」
グランとの結婚、という言葉に動揺して忘れていたが、結婚をするとなれば、当然家族に報告に行かなければならない。
すっかり下町の生活に馴染んでいたから、今更またあの家に戻ることになるなど、考えていなかったのだ。
「あぁ、ちゃんとミレーを嫁にもらいたいって言わないと。てか言いたい」
ワクワクと、悪巧みをしている少年のような笑みを浮かべるグランの顔を、ミレーは生気のない表情でただ見つめていた。
そんなミレーの様子にグランが首を傾げる。
「どした?」
「……や」
「え?」
「いや……ごめ、ごめんなさい……ごめんなさい、奪うなんてしないから、ごめ、許して……許して…………」
ガタガタと酷く身体を震わせながら、やや高い背を丸く縮こませてミレーは床に突っ伏し謝り続けた。
「どうした……? おい、ミレー!!」
尋常ならぬミレーの様子に、最初は遠慮するように声をかけていたグランだが、とうとう肩を掴んで自分の方へ顔を向けさせた。
「ミレー!」
「いやっ……いや、ころされる……殺される……!」
うわごとのようにそう呟くミレーの目には、グランが映っていないように見える。
「……誰がミレーを殺すっていうんだ」
「アリサ……アリサに、ころされる……」
身体を震わせ、顔を青ざめさせていくミレーの身体に、イリーがベッドから持ってきた毛布をかけて抱きしめた。
「大丈夫ですよ。ここにアリサ嬢はおりません。……大丈夫です」
イリーの鈴が鳴るような声に、ミレーの心が少しずつ穏やかになっていく。
「……ミレー、どうして殺されるなんて思ったんだ?」
正面からグランが目線を合わせるように屈んで、優しい声色で不安の原因を尋ねた。
粗忽な言葉遣いをする普段のグランからは想像が出来ないほど、穏やかで優しい声色に、ようやく自分の意思で呼吸をすることが出来てきた。
ミレーの両手を自分の手のひらで包み込んで温めてくれるグランの体温に安心して、ミレーは熱に浮かされたような頭でぽつりぽつりと話した。
「私が……グランと……?」
まだ心臓の動揺が止まらずドキドキと高鳴り続けている。
彼と一か月近く寝食をともにしてきたことが嘘だったように、ミレーはそれを恥ずかしがった。
そんなミレーの心情を察していないかのように、マルクが頭を振った。
「いや、グランとじゃないよ」
「え?」
話の流れ的にグランと結婚をするものかと思っていたが、それなら誰と結婚しろというのだろうかとミレーはマルクを見る。
「グランじゃない。グランディア公爵家の嫡男、オリヴァー・グランディアとだよ」
「え? ……グランとオリヴァーは同一人物だって」
「立場の問題だよ。『オリヴァー』と結婚したら、君はいずれ公爵夫人となる。君はしばらくの間グランと生活をともにしていたが、オリヴァーという側面を見ていないと思う。グランであってもオリヴァーであっても、君を愛することに変わりはないが、君は覚えなくてはいけないことや身に付けないといけないことがたくさんあると思う。なにより、オリヴァーとして生きる彼はグランとは違う人間かと思うほど話し方もなにもかも違う。そんな二重人格のような彼を愛してくれるかい?」
「……え、えっと……」
「なんでミレーの決心を鈍らせるようなこと言うんだよ! そんな脅しみたいなこと言って、もし気が変わっちまったらどうすんだ! あと、二重人格ってなんだよ、頑張ってオリヴァーを演じているだけだよ!」
マルクの発言に、グランが歯をむき出しにして食いつく。
「そんなだまし討ちみたいに何も告げずにミレーを囲み込んで、君は満足なのかい?」
「……ッッ」
マルクの鋭い言葉に、グランは悔しそうに奥歯を噛みしめて両拳を握りしめた。
「……オリヴァーで生きているグランは、そんなに違うの?」
「笑っちゃうくらいには」
「役者になれそうかと思うほどには」
ミレーの質問に、マルクとイリーが遠慮のない意見を返してきた。グランは一層悔しそうに歯噛みしていた。
「そんなに違うんだ……。その、ちょっとどんな感じか想像つかないけど、グランに変わりはないんでしょう? なら、良いんじゃない?」
「ミレー……。じゃあ、結婚、いいのか?」
先ほどまでマルクとイリーの背後で拳を握りしめていたグランが、今は顔を輝かせているのが見えた。
「え、っと……その、結婚は……。だ、だって、そういうのは家族の、親の許可を……きょか……」
グランとの結婚、という言葉に動揺して忘れていたが、結婚をするとなれば、当然家族に報告に行かなければならない。
すっかり下町の生活に馴染んでいたから、今更またあの家に戻ることになるなど、考えていなかったのだ。
「あぁ、ちゃんとミレーを嫁にもらいたいって言わないと。てか言いたい」
ワクワクと、悪巧みをしている少年のような笑みを浮かべるグランの顔を、ミレーは生気のない表情でただ見つめていた。
そんなミレーの様子にグランが首を傾げる。
「どした?」
「……や」
「え?」
「いや……ごめ、ごめんなさい……ごめんなさい、奪うなんてしないから、ごめ、許して……許して…………」
ガタガタと酷く身体を震わせながら、やや高い背を丸く縮こませてミレーは床に突っ伏し謝り続けた。
「どうした……? おい、ミレー!!」
尋常ならぬミレーの様子に、最初は遠慮するように声をかけていたグランだが、とうとう肩を掴んで自分の方へ顔を向けさせた。
「ミレー!」
「いやっ……いや、ころされる……殺される……!」
うわごとのようにそう呟くミレーの目には、グランが映っていないように見える。
「……誰がミレーを殺すっていうんだ」
「アリサ……アリサに、ころされる……」
身体を震わせ、顔を青ざめさせていくミレーの身体に、イリーがベッドから持ってきた毛布をかけて抱きしめた。
「大丈夫ですよ。ここにアリサ嬢はおりません。……大丈夫です」
イリーの鈴が鳴るような声に、ミレーの心が少しずつ穏やかになっていく。
「……ミレー、どうして殺されるなんて思ったんだ?」
正面からグランが目線を合わせるように屈んで、優しい声色で不安の原因を尋ねた。
粗忽な言葉遣いをする普段のグランからは想像が出来ないほど、穏やかで優しい声色に、ようやく自分の意思で呼吸をすることが出来てきた。
ミレーの両手を自分の手のひらで包み込んで温めてくれるグランの体温に安心して、ミレーは熱に浮かされたような頭でぽつりぽつりと話した。
3
あなたにおすすめの小説
差し出された毒杯
しろねこ。
恋愛
深い森の中。
一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。
「あなたのその表情が見たかった」
毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。
王妃は少女の美しさが妬ましかった。
そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。
スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。
お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。
か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。
ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。
同名キャラで複数の作品を書いています。
立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。
ところどころリンクもしています。
※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!
僕の婚約者は今日も麗しい
蒼あかり
恋愛
公爵家嫡男のクラウスは王命により、隣国の王女と婚約を結ぶことになった。王家の血を引く者として、政略結婚も厭わないと覚悟を決めていたのに、それなのに。まさか相手が子供だとは......。
婚約相手の王女ローザもまた、国の安定のためにその身を使う事を使命としていたが、早い婚約に戸惑っていた。
そんなふたりが色々あって、少しづつ関係を深めていく。そんなお話。
変わり者の作者が、頑張ってハッピーエンドを目指します。
たぶん。きっと。幸せにしたい、です。
※予想外に多くの皆様に読んでいただき、驚いております。
心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。
ご覧いただいた皆様に幸せの光が降り注ぎますように。
ありがとうございました。
好きだと先に言ったのはあなたなのに?
みみぢあん
恋愛
スタッドリー男爵令嬢ニーナは、友人にレブデール子爵令息のケインを紹介される。
出会ったばかりのケインに『好きだ』と告白された。それ以来、ニーナは毎日のように求愛され続けた。
明るくてさわやかなケインが好きになってゆき、ニーナは“秘密の恋人”となった。
――だが、しだいにケインから避けられるようになり、ニーナは自分の他にも“秘密の恋人”がケインにはいると知る。
婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします
たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。
荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。
「この猫に構うな。人間嫌いだから」
冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。
猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。
【王国内屈指の公爵家の令嬢ですが、婚約破棄される前に婚約破棄しました。元婚約者は没落したそうですが、そんなの知りません】
はくら(仮名)
恋愛
更新はマイペースです。
本作は別名義で『小説家になろう』にも掲載しています。
一途に愛した1周目は殺されて終わったので、2周目は王子様を嫌いたいのに、なぜか婚約者がヤンデレ化して離してくれません!
夢咲 アメ
恋愛
「君の愛が煩わしいんだ」
婚約者である王太子の冷たい言葉に、私の心は砕け散った。
それから間もなく、私は謎の襲撃者に命を奪われ死んだ――はずだった。
死の間際に見えたのは、絶望に顔を歪ませ、私の名を叫びながら駆け寄る彼の姿。
……けれど、次に目を覚ました時、私は18歳の自分に戻っていた。
「今世こそ、彼を愛するのを辞めよう」
そう決意して距離を置く私。しかし、1周目であれほど冷酷だった彼は、なぜか焦ったように私を追いかけ、甘い言葉で縛り付けようとしてきて……?
「どこへ行くつもり? 君が愛してくれるまで、僕は君を離さないよ」
不器用すぎて愛を間違えたヤンデレ王子×今世こそ静かに暮らしたい令嬢。
死から始まる、執着愛の二周目が幕を開ける!
あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる