愛を忘れた令嬢が平民に扮した公爵子息様に娶られる話

rifa

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 グランが、簡単な料理を四人分作る間に、ミレーとイリーが部屋の片づけをする。
「この家、どうなるの?」
 片づけながら不安に思ったことを口にすれば、朝食を作りながらグランが説明してくれた。
「別に捨てるわけじゃねえよ。今まで、公爵家に帰る時はこうして片づけをしているんだ。離れる期間が短かろうが長かろうが、傷みやすい食材や湿気やすい薪なんかを近所の人にあげたり、虫が沸かないようにゴミも捨てたりな」
「なるほど……」
 先ほど食材や薪を持ってマルクが出かけていったのは、そういう意味だったのだと理解した。
 食事が終わって出たゴミも、ここを出発する際にまとめて処分するらしい。
 いつもなら生ごみなどは火にくべて灰にするが、今マルクが薪を持って行ってしまったのでどうするのか聞くと、グランが少し躊躇したような仕草をした後、普通に話した。
「まとめたゴミや火が出そうなものは、あとで食材と薪を渡しに行った家に持っていって、代わりに焼いてもらう。その礼も含めて、食材と薪を渡しているのもある」
「いつものように自分たちで焼かなくて良いの?」
「……しばらく離れるからな。もし火の始末が甘くて火災が起きたら……困るだろう。わざわざ火の管理をさせるためだけに来てもらうより、預けた家のゴミと一緒に処分してもらったほうがいいじゃん?」
 その説明を、グランは平静を装ってしていたつもりだろうが、ミレーは彼のスープをかき混ぜるためのおたまを持つ手が少し震えているのに気づいた。
 だが、彼が懸命に平静を装おうとしているのだから、気づいた風は自分も見せないほうがいいなと考え、普通に返した。
「そうだね。でも、どこのお宅に食材と薪を渡しに行ったんだろう?」
「今回は、酒場のおばちゃんとこに世話になったから、そこにお願いした。あとで処分してもらうゴミを持っていく時、改めてお礼を言いたいしな」
「なんか、グランって効率的だね」
 色々考えているのだなと感心していると、グランはどう感じたのか、目を逸らしながら頬を掻いた。
「ミレー様、こちらの荷物はまとめ終わりました」
「え、わ、ごめんなさい、私のほうはまだでした! すぐやります!」
 おしゃべりに夢中になって作業がおろそかになっていたことを謝ると、グランがすぐにそれを窘めた。
「あやまんな!」
 ミレーが謝ることに、グランはやたら過剰に反応する気がするが、そちらに気を取られるとまた作業が止まってしまうと思い、「ごめんなさい!」と謝ってしまったことにまた謝って返してしまった。
 背後でグランが呆れているだろうなと思いながら、やはり作業の手を止めることが出来ず懸命に荷造りをしていた。
「ミレー様、あまり慌てなくても大丈夫です。先に私がまとめた荷物を馬車の荷台に積んできます。すぐに戻って手伝いますから」
「ありがとうございます!」
 イリーの優しさに感動しながら、ミレーは懸命に服を畳んでいた。
 この家はあまり物が無い。金目のものも、公爵家の息子が暮らしているとは思えないほど見当たらない。
 だが、質の良い衣類がたくさんあるのだ。
「全部置いて行ってもいいだろうが」
 グランはそう言うが、マルクとイリーが厳しい表情でダメだと告げる。
「それはグランディア公爵閣下が選んだ上等なものだからな。中長期の留守の間にそれらが盗まれないとも限らないだろう? 下町の見知った顔にそういうことを考える人はいなくとも、渡航者も多く訪れるこの町に紛れ込んだ『ならず者』が、この家を狙わないとも限らない。帰ってきた時に着る物がなかったらどうするつもりなんだ」
「ボロなら盗まれないだろうから、それを着ればいい」
「君の父上の気持ちも考えろ! ただでさえ大切な息子が下町に一人で暮らすことを、苦い顔でしぶしぶ了承してくれたんだ。でもせめて衣類くらいは肌に優しいものを着せてあげたい、寝具も仕事の疲れが取れるように少しでも質の良いものを取り揃えてあげたい、そういう気持ちでプレゼントしてくれた物なんだ。少しは大切にしようと思え!」
「正直余計なお世話なんだよな……」
 懇切丁寧なマルクの説明に、グランが嫌そうな顔をした。
 そんなグランの態度に、マルクの顔つきが険しくなっていく。
「いい年して、いつまで反抗期を続ける気だ!」
「反抗期って……!」
 グランが言い返そうとしたのを遮って、ミレーが思わず口を挟んでしまった。
「グランってお父様に愛されているのね……。羨ましい……」
 ぽつりと正直な感想が口から出てしまった。
 ミレーの記憶には、父に優しくされたことなど、ただの一度もなかったのだ。
 つい口から出てしまった感想を誤魔化すために、「じゃあ荷物をまとめるわね!」とその場を逃げ出し、イリーとともに荷造りをした。
 親にもらったものを大切にするのは大切だと思うが、思った以上に持っていくものが多く、グラン……もとい、オリヴァーの父の、息子に対する愛情の大きさを思い知らされた気がした。

「……オリヴァー」
「……悪かったよ。オレが悪かった」
 ミレーがイリーとともに荷造りをする後ろ姿を見てから、マルクがグランをじと目で見やった。
 そんな風に見やられたグランは、居心地が悪そうにしながらも、素直に己の考えと発言が軽率であったと反省した。
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