35 / 58
34
「……ひどいな」
オリヴァーは自室に帰る前に、執務室で、見送りの前にマルクから受け取っていた書類に目を通していた。
『クローバー家の報告書』
下町に滞在していた間も、オリヴァーはクローバー家の調査をさせていた。
報告書によると、ミレーの実母であるルイーザ・クローバーは他殺であったことがわかった。
オリヴァーとマルクはずっと、クローバー家を監視していた。
『虐待の疑いもある』ということで、ちゃんと王家の許可も得ている。
クラウドは国王からの信頼が厚いので、彼から事情を説明してもらうことで、わりとすんなりと許可を貰えた。
だがそういう貸しもあり、オリヴァーは反抗的な態度は見せつつ、オリヴァーであり続けなければならない。
『ルイーザ・クローバー、他殺の疑い』
これは疑っていたことだが、決定的な証拠がなかった。
疑っていた理由は、ミレーが虐待されていたからだ。
4歳のミレーを連れて下町を訪れた彼女の母ルイーザは、グランとマルクの目からだけではなく、誰の目から見ても、娘を虐待するような人間ではなかった。
下町で見せた『娘を溺愛する姿』というのが偽りでなければだが、その可能性はグランの勘が「ありえない」と訴え続けていた。
だからたびたびクローバー家に、グランディア家とディザクライン家からメイドとして諜報員を紛れ込ませていた。
しかし、それもミレーが7歳の時には打ち切られた。
『あの屋敷でのミレー嬢への対応があまりにもひどかったために、つい擁護してしまいました。それで、解雇されました』
悔しそうにそう報告する諜報員たちに、オリヴァーは労いの言葉をかけながら、グランディア家の仕事に戻ってもらうことにした。
『……ありがとう。ミレーを助けようとしてくれたこと、感謝する』
オリヴァーも、それ以上は言えなかった。
当時受けた報告だけでも、ミレーを虐待していたクローバー家の人間へ殴り込みに行きたい衝動に駆られていたからだ。
悔しさで言葉が出なかったのだ。
しかしそこで、『ミレーを虐待していたのは、実母ではなく継母である』ことがわかった。
義妹とミレーの年齢差を考えると、ミレーが下町に来た際には、すでに義妹は生まれていることになる。
それは秘匿されたことではなく、ルイーザも知っていたと思われる。
ミレーとアリサの父・アレンは、ルイーザとミレーよりも、アリサと彼女の母・カレンを溺愛していた。
戸籍上、ルイーザが正妻であることは間違いなかった。
その正妻と子どもを蔑ろにして、屋敷内で堂々と愛人とその子供を見せびらかすように生活させていたという。
(……ルイーザさんも虐待されていた可能性があるな)
だが、ルイーザの情報は調べてもなかなか証拠が出てこなかった。
新しくメイドとして赴任させた諜報員がミレーに手を貸すことが多いと思われたのか、新しいメイドを送りこもうとしても、クローバー家は新しいメイドを雇うことをしなくなった。
そのため、ミレーが虐待をされていた証拠を集めて彼女を救うことは出来なくなったが、代わりに『ルイーザ』についての調査が進みだした。
(どんな形にせよ、あの家を訴えることが出来れば、ミレーを助けることが出来る)
社交パーティーにミレーが参加してくれれば、そこで彼女を攫ってやることも、求婚して助け出してやることも出来ると思っていた。
だが、過去参加した社交パーティーでミレーを見かけることはなかった。
彼女の義妹は、義妹の父と母と見られる男女とともに、着飾った姿で頻繁に社交パーティーへ参加していた。
そこでオリヴァーは、社交パーティーに参加することを面倒くさく思うようになった。
(どうせミレーはいないんだ)
義妹は参加しているのに、ミレーが参加していない意味を考え、オリヴァーはそう思っていた。
最悪な事態も考えて、気は焦っていた。
その都度マルクから「大丈夫だ」と励まされたが、オリヴァーはミレーの義妹に絡まれるたび、その顔を殴りつけそうになる衝動を抑えるのに苦労した。
「……貴族ってめんどうくせぇな……」
下町にいた頃ならば、失うものなんてなにも無いと思っていた。だからとりあえず口より先に手が出る。
だが貴族は、恩恵を受けるものはたくさんあるが、それと同じくらい制限や責任も大きかった。
(もしあの並木通りで会えなかったら、その前にミレーが殺されていたら、オレは盲動的にクローバー家に乗り込み、やつらを全員皆殺しにする自信があった)
そして、その後で自分も後を追うように自害しただろう。
そのようなことはなんの意味も為さないと分かっていたが、それでも、きっとそうしていただろうと思ったのだ。
だが、結果的にミレーは生きて、グランと会うことが出来た。
「だから……まぁ、殺すことはしない。……『貴族らしく』、お前らに報復してやるよ」
オリヴァーはそう呟き、報告書の束をまとめて引き出しに仕舞った。
「……さて、寝るか」
自室の横の部屋で、ミレーが眠っている。そう考えると緊張しないこともないが、そこは根性を出して寝るしかなかった。
「……おやすみ、ミレー」
部屋に入る前に、愛おしい子の眠る部屋の扉に向けて、言葉をかける。
そんな自分の行動に照れくささを感じながら、オリヴァーは眠る支度をした。
オリヴァーは自室に帰る前に、執務室で、見送りの前にマルクから受け取っていた書類に目を通していた。
『クローバー家の報告書』
下町に滞在していた間も、オリヴァーはクローバー家の調査をさせていた。
報告書によると、ミレーの実母であるルイーザ・クローバーは他殺であったことがわかった。
オリヴァーとマルクはずっと、クローバー家を監視していた。
『虐待の疑いもある』ということで、ちゃんと王家の許可も得ている。
クラウドは国王からの信頼が厚いので、彼から事情を説明してもらうことで、わりとすんなりと許可を貰えた。
だがそういう貸しもあり、オリヴァーは反抗的な態度は見せつつ、オリヴァーであり続けなければならない。
『ルイーザ・クローバー、他殺の疑い』
これは疑っていたことだが、決定的な証拠がなかった。
疑っていた理由は、ミレーが虐待されていたからだ。
4歳のミレーを連れて下町を訪れた彼女の母ルイーザは、グランとマルクの目からだけではなく、誰の目から見ても、娘を虐待するような人間ではなかった。
下町で見せた『娘を溺愛する姿』というのが偽りでなければだが、その可能性はグランの勘が「ありえない」と訴え続けていた。
だからたびたびクローバー家に、グランディア家とディザクライン家からメイドとして諜報員を紛れ込ませていた。
しかし、それもミレーが7歳の時には打ち切られた。
『あの屋敷でのミレー嬢への対応があまりにもひどかったために、つい擁護してしまいました。それで、解雇されました』
悔しそうにそう報告する諜報員たちに、オリヴァーは労いの言葉をかけながら、グランディア家の仕事に戻ってもらうことにした。
『……ありがとう。ミレーを助けようとしてくれたこと、感謝する』
オリヴァーも、それ以上は言えなかった。
当時受けた報告だけでも、ミレーを虐待していたクローバー家の人間へ殴り込みに行きたい衝動に駆られていたからだ。
悔しさで言葉が出なかったのだ。
しかしそこで、『ミレーを虐待していたのは、実母ではなく継母である』ことがわかった。
義妹とミレーの年齢差を考えると、ミレーが下町に来た際には、すでに義妹は生まれていることになる。
それは秘匿されたことではなく、ルイーザも知っていたと思われる。
ミレーとアリサの父・アレンは、ルイーザとミレーよりも、アリサと彼女の母・カレンを溺愛していた。
戸籍上、ルイーザが正妻であることは間違いなかった。
その正妻と子どもを蔑ろにして、屋敷内で堂々と愛人とその子供を見せびらかすように生活させていたという。
(……ルイーザさんも虐待されていた可能性があるな)
だが、ルイーザの情報は調べてもなかなか証拠が出てこなかった。
新しくメイドとして赴任させた諜報員がミレーに手を貸すことが多いと思われたのか、新しいメイドを送りこもうとしても、クローバー家は新しいメイドを雇うことをしなくなった。
そのため、ミレーが虐待をされていた証拠を集めて彼女を救うことは出来なくなったが、代わりに『ルイーザ』についての調査が進みだした。
(どんな形にせよ、あの家を訴えることが出来れば、ミレーを助けることが出来る)
社交パーティーにミレーが参加してくれれば、そこで彼女を攫ってやることも、求婚して助け出してやることも出来ると思っていた。
だが、過去参加した社交パーティーでミレーを見かけることはなかった。
彼女の義妹は、義妹の父と母と見られる男女とともに、着飾った姿で頻繁に社交パーティーへ参加していた。
そこでオリヴァーは、社交パーティーに参加することを面倒くさく思うようになった。
(どうせミレーはいないんだ)
義妹は参加しているのに、ミレーが参加していない意味を考え、オリヴァーはそう思っていた。
最悪な事態も考えて、気は焦っていた。
その都度マルクから「大丈夫だ」と励まされたが、オリヴァーはミレーの義妹に絡まれるたび、その顔を殴りつけそうになる衝動を抑えるのに苦労した。
「……貴族ってめんどうくせぇな……」
下町にいた頃ならば、失うものなんてなにも無いと思っていた。だからとりあえず口より先に手が出る。
だが貴族は、恩恵を受けるものはたくさんあるが、それと同じくらい制限や責任も大きかった。
(もしあの並木通りで会えなかったら、その前にミレーが殺されていたら、オレは盲動的にクローバー家に乗り込み、やつらを全員皆殺しにする自信があった)
そして、その後で自分も後を追うように自害しただろう。
そのようなことはなんの意味も為さないと分かっていたが、それでも、きっとそうしていただろうと思ったのだ。
だが、結果的にミレーは生きて、グランと会うことが出来た。
「だから……まぁ、殺すことはしない。……『貴族らしく』、お前らに報復してやるよ」
オリヴァーはそう呟き、報告書の束をまとめて引き出しに仕舞った。
「……さて、寝るか」
自室の横の部屋で、ミレーが眠っている。そう考えると緊張しないこともないが、そこは根性を出して寝るしかなかった。
「……おやすみ、ミレー」
部屋に入る前に、愛おしい子の眠る部屋の扉に向けて、言葉をかける。
そんな自分の行動に照れくささを感じながら、オリヴァーは眠る支度をした。
あなたにおすすめの小説
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。
橘ハルシ
恋愛
ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!
リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。
怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。
しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。
全21話(本編20話+番外編1話)です。
お姉様。ずっと隠していたことをお伝えしますね ~私は不幸ではなく幸せですよ~
柚木ゆず
恋愛
今日は私が、ラファオール伯爵家に嫁ぐ日。ついにハーオット子爵邸を出られる時が訪れましたので、これまで隠していたことをお伝えします。
お姉様たちは私を苦しめるために、私が苦手にしていたクロード様と政略結婚をさせましたよね?
ですがそれは大きな間違いで、私はずっとクロード様のことが――
初めから離婚ありきの結婚ですよ
ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。
嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。
ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ!
ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。
【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?
氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。
しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。
夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。
小説家なろうにも投稿中
無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています
如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」
何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。
しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。
様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。
この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが……
男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。