愛を忘れた令嬢が平民に扮した公爵子息様に娶られる話

rifa

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「……ひどいな」
 オリヴァーは自室に帰る前に、執務室で、見送りの前にマルクから受け取っていた書類に目を通していた。
『クローバー家の報告書』
 下町に滞在していた間も、オリヴァーはクローバー家の調査をさせていた。
 報告書によると、ミレーの実母であるルイーザ・クローバーは他殺であったことがわかった。
 オリヴァーとマルクはずっと、クローバー家を監視していた。
『虐待の疑いもある』ということで、ちゃんと王家の許可も得ている。
 クラウドは国王からの信頼が厚いので、彼から事情を説明してもらうことで、わりとすんなりと許可を貰えた。
 だがそういう貸しもあり、オリヴァーは反抗的な態度は見せつつ、オリヴァーであり続けなければならない。
『ルイーザ・クローバー、他殺の疑い』
 これは疑っていたことだが、決定的な証拠がなかった。
 疑っていた理由は、ミレーが虐待されていたからだ。
 4歳のミレーを連れて下町を訪れた彼女の母ルイーザは、グランとマルクの目からだけではなく、誰の目から見ても、娘を虐待するような人間ではなかった。
 下町で見せた『娘を溺愛する姿』というのが偽りでなければだが、その可能性はグランの勘が「ありえない」と訴え続けていた。
 だからたびたびクローバー家に、グランディア家とディザクライン家からメイドとして諜報員を紛れ込ませていた。
 しかし、それもミレーが7歳の時には打ち切られた。
『あの屋敷でのミレー嬢への対応があまりにもひどかったために、つい擁護してしまいました。それで、解雇されました』
 悔しそうにそう報告する諜報員たちに、オリヴァーは労いの言葉をかけながら、グランディア家の仕事に戻ってもらうことにした。
『……ありがとう。ミレーを助けようとしてくれたこと、感謝する』
 オリヴァーも、それ以上は言えなかった。
 当時受けた報告だけでも、ミレーを虐待していたクローバー家の人間へ殴り込みに行きたい衝動に駆られていたからだ。
 悔しさで言葉が出なかったのだ。
 しかしそこで、『ミレーを虐待していたのは、実母ではなく継母である』ことがわかった。
 義妹とミレーの年齢差を考えると、ミレーが下町に来た際には、すでに義妹は生まれていることになる。
 それは秘匿されたことではなく、ルイーザも知っていたと思われる。
 ミレーとアリサの父・アレンは、ルイーザとミレーよりも、アリサと彼女の母・カレンを溺愛していた。
 戸籍上、ルイーザが正妻であることは間違いなかった。
 その正妻と子どもを蔑ろにして、屋敷内で堂々と愛人とその子供を見せびらかすように生活させていたという。
(……ルイーザさんも虐待されていた可能性があるな)
 だが、ルイーザの情報は調べてもなかなか証拠が出てこなかった。
 新しくメイドとして赴任させた諜報員がミレーに手を貸すことが多いと思われたのか、新しいメイドを送りこもうとしても、クローバー家は新しいメイドを雇うことをしなくなった。
そのため、ミレーが虐待をされていた証拠を集めて彼女を救うことは出来なくなったが、代わりに『ルイーザ』についての調査が進みだした。
(どんな形にせよ、あの家を訴えることが出来れば、ミレーを助けることが出来る)
 社交パーティーにミレーが参加してくれれば、そこで彼女を攫ってやることも、求婚して助け出してやることも出来ると思っていた。
 だが、過去参加した社交パーティーでミレーを見かけることはなかった。
 彼女の義妹は、義妹の父と母と見られる男女とともに、着飾った姿で頻繁に社交パーティーへ参加していた。
 そこでオリヴァーは、社交パーティーに参加することを面倒くさく思うようになった。
(どうせミレーはいないんだ)
 義妹は参加しているのに、ミレーが参加していない意味を考え、オリヴァーはそう思っていた。
 最悪な事態も考えて、気は焦っていた。
 その都度マルクから「大丈夫だ」と励まされたが、オリヴァーはミレーの義妹に絡まれるたび、その顔を殴りつけそうになる衝動を抑えるのに苦労した。
「……貴族ってめんどうくせぇな……」
 下町にいた頃ならば、失うものなんてなにも無いと思っていた。だからとりあえず口より先に手が出る。
 だが貴族は、恩恵を受けるものはたくさんあるが、それと同じくらい制限や責任も大きかった。
(もしあの並木通りで会えなかったら、その前にミレーが殺されていたら、オレは盲動的にクローバー家に乗り込み、やつらを全員皆殺しにする自信があった)
 そして、その後で自分も後を追うように自害しただろう。
 そのようなことはなんの意味も為さないと分かっていたが、それでも、きっとそうしていただろうと思ったのだ。

 だが、結果的にミレーは生きて、グランと会うことが出来た。
「だから……まぁ、殺すことはしない。……『貴族らしく』、お前らに報復してやるよ」
 オリヴァーはそう呟き、報告書の束をまとめて引き出しに仕舞った。
「……さて、寝るか」
 自室の横の部屋で、ミレーが眠っている。そう考えると緊張しないこともないが、そこは根性を出して寝るしかなかった。
「……おやすみ、ミレー」
 部屋に入る前に、愛おしい子の眠る部屋の扉に向けて、言葉をかける。
 そんな自分の行動に照れくささを感じながら、オリヴァーは眠る支度をした。
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