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「一か月後に行われるサージラ王太子殿下の誕生パーティーに、クローバー家の人間も呼ばれるようだ」
「そうだろうな。貴族全員が呼び出されるんだから」
マルクの報告を受け、オリヴァーが頷く。
「だが、問題が発生した」
「あ? 問題?」
「……あぁ。エドワード様が……オリヴァーとミレーの結婚は認めないって言われたんだ」
「なんで?!」
オリヴァーが仰天して立ち上がった。
ミレーも、マルクの言葉の意味が分からず目を丸くする。
「エドワード様って、国王の三番目のご子息の?」
公爵家で色々学ばせてもらったが、はじめに王族の名前を覚えさせられるのだ。
この国の王族の名前を覚えるのは、貴族として必須の知識だからだ。
今までミレーは、その貴族として身に付けなければならない知識も教養もなかったため、それを覚えるまでは王族の人間に謁見するのは避けたほうがいいと、マルクたちが判断した。
「そう。ミレーはまだ謁見したことなかったよね? ディザクライン侯爵家とミレーの養子縁組を結ぶ手続きも、グランディア公爵と父上とボクでしたからね」
本来なら、養子になるミレー本人が手続きに行くべきだが、王族の名前も覚えていない知識力では、侯爵家の養子にふさわしくないと認められない可能性もあったため、ミレーは虐待されて保護されたばかりで、とても人前に出せる状態ではないと嘘を吐いて免除されたらしい。
手続きが済み、ミレーは戸籍上クローバー男爵家の人間ではなくなった。
ミレーがグランディア公爵家で暮らした翌日には、マルクはもう養子縁組の手続きを進めていた。
まず、国王陛下に謁見し、ミレーがクローバー家で虐待されていたことを伝え、その証拠を裁判所に提出し、それが事実であると確認された後、ミレーはクローバー男爵家から除籍されることとなった。
普通ならばその時点でミレーは貴族ではなくなるのだが、ディザクライン侯爵家がミレーを養子にすることで、ミレーは侯爵令嬢となった。
『なぜオリヴァーの実家のグランディア公爵家ではなく、マルクの実家であるディザクライン侯爵家の養子になるの?』
そのミレーの問いに、マルクが丁寧に説明をした。
『オリヴァーの家の養子になったら、オリヴァーと結婚出来ないでしょう?』
『あ、そ、そっか……』
そんな会話をしている二人を、オリヴァーが呆れたような目で見ていた。
「養子縁組の承諾の場にエドワード様はいなかったけれど、ボクらは過去に招かれたパーティーなどで拝謁したことがあってね」
「そんな思い出話はどうでもいい! なんでオレとミレーの結婚が許されないのか、その理由を言ってほしいんだが!」
「理由はわからない。だが国王は、そんなエドワード様の意向を汲んで、この話は一旦保留にすると……」
「は……? は……!? はぁあぁ~~?!」
オリヴァーが何度も疑問形で声を上げた。
「あんな奴の我が儘で引き下げられたのか?!」
「口を慎めとさっき言ったばかりだろう。相手は、今は君と同じ公爵であっても当主だし、なにより王子であることは間違いないだろう。不敬で捕まっても仕方のない暴言だったぞ、今のは」
「ちっ」
マルクの指摘に言い返すことも出来ず、オリヴァーは舌打ちをして不満を露わにした。
ミレーは、当然まだエドワード王子にも会っていないが、話を聞く限り傍若無人な性格らしい。
「じゃ、じゃあ、私とオリヴァーは結婚できないの……?」
もしも結婚することが出来ないとなれば、今までのように一緒に暮らすことも出来なくなるのではないかと考えたら、胸がぎゅっと締め付けられるように痛くなった。
そんな痛みを和らげるように、胸元のドレスを緩く握りしめた。
「いや、マルクは一旦保留って言ったよな? 一旦、ってことは、取り下げられない案も出されたってことじゃないか?」
オリヴァーの問いに、マルクは残念そうな顔でゆるく頭を振る。
「それは出されていない。多分一時感情的になっているだけだろうから、エドワード様のお気持ちが落ち着くのを待とう、という……」
「反対した原因がわからないのに、心変わりしなかったらどうするっつーんだ!」
「オリヴァー、口調」
感情的になったからか、口調が乱れ始めているオリヴァーにマルクがぴしゃりと指摘をする。
「まぁ、さすがに何十年も待たされることはないと思うし、気長に待つしかないんじゃないか?」
マルクが困ったように妥協案を出す。
呑気な回答に、ミレーも焦った。
「で、でも、その期間、私はオリヴァーと一緒に暮らすことが出来ないっていうこと?」
「いや、そこは大丈夫。取り下げられたわけじゃなく、あくまで保留だから、オリヴァーとミレーが婚約関係であることはまだ変わらないよ。仮に何十年経っても、今まで通り当主が良いと言えば、良いんだよ」
「本当……?」
希望に満ちた目を向ければ、マルクは力強い笑みで頷いてくれた。
「もちろんさ!」
マルクは、人を安心させる天才だなと思わせるときがある。今がまさにそれだ。
だが、オリヴァーはまだ不服そうだ。
「そんなに結婚という形式にこだわらなくてもいいんじゃないか?」
そうマルクがフォローしても、オリヴァーは何故か不機嫌を解こうとしない。
(マルクの言うとおり、どうしてオリヴァーはそんなに結婚という形式に囚われるんだろう?)
ミレーの疑問に気づいたようで、マルクが耳打ちした。
「あいつ、きみが綺麗になっていく姿を見て焦っているんだよ。社交界で、他の男たちに取られまいかって内心ヒヤヒヤしている」
「なんで焦るの? 私、オリヴァー以外の人と一緒になる気はないわ」
「ミレー。世の中は広い。いろいろな人間に会えば、オリヴァーより魅力的な人が現れるかもしれない。あいつはそいつらに勝つ自信がないから、結婚っていう縛りでミレーを逃がすまいとして……」
「全部聞こえてんだよ!」
マルクと小声で囁き合っていたはずなのに、すべてオリヴァーの耳に届いていたことにミレーは驚いた。
「地獄耳……」
そしてマルクが呆れたように笑った。
「そうだろうな。貴族全員が呼び出されるんだから」
マルクの報告を受け、オリヴァーが頷く。
「だが、問題が発生した」
「あ? 問題?」
「……あぁ。エドワード様が……オリヴァーとミレーの結婚は認めないって言われたんだ」
「なんで?!」
オリヴァーが仰天して立ち上がった。
ミレーも、マルクの言葉の意味が分からず目を丸くする。
「エドワード様って、国王の三番目のご子息の?」
公爵家で色々学ばせてもらったが、はじめに王族の名前を覚えさせられるのだ。
この国の王族の名前を覚えるのは、貴族として必須の知識だからだ。
今までミレーは、その貴族として身に付けなければならない知識も教養もなかったため、それを覚えるまでは王族の人間に謁見するのは避けたほうがいいと、マルクたちが判断した。
「そう。ミレーはまだ謁見したことなかったよね? ディザクライン侯爵家とミレーの養子縁組を結ぶ手続きも、グランディア公爵と父上とボクでしたからね」
本来なら、養子になるミレー本人が手続きに行くべきだが、王族の名前も覚えていない知識力では、侯爵家の養子にふさわしくないと認められない可能性もあったため、ミレーは虐待されて保護されたばかりで、とても人前に出せる状態ではないと嘘を吐いて免除されたらしい。
手続きが済み、ミレーは戸籍上クローバー男爵家の人間ではなくなった。
ミレーがグランディア公爵家で暮らした翌日には、マルクはもう養子縁組の手続きを進めていた。
まず、国王陛下に謁見し、ミレーがクローバー家で虐待されていたことを伝え、その証拠を裁判所に提出し、それが事実であると確認された後、ミレーはクローバー男爵家から除籍されることとなった。
普通ならばその時点でミレーは貴族ではなくなるのだが、ディザクライン侯爵家がミレーを養子にすることで、ミレーは侯爵令嬢となった。
『なぜオリヴァーの実家のグランディア公爵家ではなく、マルクの実家であるディザクライン侯爵家の養子になるの?』
そのミレーの問いに、マルクが丁寧に説明をした。
『オリヴァーの家の養子になったら、オリヴァーと結婚出来ないでしょう?』
『あ、そ、そっか……』
そんな会話をしている二人を、オリヴァーが呆れたような目で見ていた。
「養子縁組の承諾の場にエドワード様はいなかったけれど、ボクらは過去に招かれたパーティーなどで拝謁したことがあってね」
「そんな思い出話はどうでもいい! なんでオレとミレーの結婚が許されないのか、その理由を言ってほしいんだが!」
「理由はわからない。だが国王は、そんなエドワード様の意向を汲んで、この話は一旦保留にすると……」
「は……? は……!? はぁあぁ~~?!」
オリヴァーが何度も疑問形で声を上げた。
「あんな奴の我が儘で引き下げられたのか?!」
「口を慎めとさっき言ったばかりだろう。相手は、今は君と同じ公爵であっても当主だし、なにより王子であることは間違いないだろう。不敬で捕まっても仕方のない暴言だったぞ、今のは」
「ちっ」
マルクの指摘に言い返すことも出来ず、オリヴァーは舌打ちをして不満を露わにした。
ミレーは、当然まだエドワード王子にも会っていないが、話を聞く限り傍若無人な性格らしい。
「じゃ、じゃあ、私とオリヴァーは結婚できないの……?」
もしも結婚することが出来ないとなれば、今までのように一緒に暮らすことも出来なくなるのではないかと考えたら、胸がぎゅっと締め付けられるように痛くなった。
そんな痛みを和らげるように、胸元のドレスを緩く握りしめた。
「いや、マルクは一旦保留って言ったよな? 一旦、ってことは、取り下げられない案も出されたってことじゃないか?」
オリヴァーの問いに、マルクは残念そうな顔でゆるく頭を振る。
「それは出されていない。多分一時感情的になっているだけだろうから、エドワード様のお気持ちが落ち着くのを待とう、という……」
「反対した原因がわからないのに、心変わりしなかったらどうするっつーんだ!」
「オリヴァー、口調」
感情的になったからか、口調が乱れ始めているオリヴァーにマルクがぴしゃりと指摘をする。
「まぁ、さすがに何十年も待たされることはないと思うし、気長に待つしかないんじゃないか?」
マルクが困ったように妥協案を出す。
呑気な回答に、ミレーも焦った。
「で、でも、その期間、私はオリヴァーと一緒に暮らすことが出来ないっていうこと?」
「いや、そこは大丈夫。取り下げられたわけじゃなく、あくまで保留だから、オリヴァーとミレーが婚約関係であることはまだ変わらないよ。仮に何十年経っても、今まで通り当主が良いと言えば、良いんだよ」
「本当……?」
希望に満ちた目を向ければ、マルクは力強い笑みで頷いてくれた。
「もちろんさ!」
マルクは、人を安心させる天才だなと思わせるときがある。今がまさにそれだ。
だが、オリヴァーはまだ不服そうだ。
「そんなに結婚という形式にこだわらなくてもいいんじゃないか?」
そうマルクがフォローしても、オリヴァーは何故か不機嫌を解こうとしない。
(マルクの言うとおり、どうしてオリヴァーはそんなに結婚という形式に囚われるんだろう?)
ミレーの疑問に気づいたようで、マルクが耳打ちした。
「あいつ、きみが綺麗になっていく姿を見て焦っているんだよ。社交界で、他の男たちに取られまいかって内心ヒヤヒヤしている」
「なんで焦るの? 私、オリヴァー以外の人と一緒になる気はないわ」
「ミレー。世の中は広い。いろいろな人間に会えば、オリヴァーより魅力的な人が現れるかもしれない。あいつはそいつらに勝つ自信がないから、結婚っていう縛りでミレーを逃がすまいとして……」
「全部聞こえてんだよ!」
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「地獄耳……」
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