愛を忘れた令嬢が平民に扮した公爵子息様に娶られる話

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「す、すみません。私、混乱して失礼な対応をしてしまって……」
「気持ちは分かるけど、気をつけてね。今回は王族の方々は目をつむってくれたけど、次はないと思って」
「本当にごめんなさい」
 パーティー会場に戻ると、ミレーはすぐに家族へ頭を下げた。
 代表してマルクがミレーの態度をいさめている間、ミレーはひたすら頭を下げていた。
「とはいえ、せっかくの祝いの席に頭を下げ続けることもないだろう。さ、ミレー。食事を楽しんできなさい」
 まだ反省が足りないかと思っていたが、アンドロのひと言により、謝罪は中止を余儀なくされた。
「で、でも……」
「緊張して喉が渇いただろう? ドリンクを貰ってこよう。いくよ、ミレー」
 そう言うと、ミレーの返事も待たずにマルクが手を引いてその場を離れてしまった。
 マルクに手を引かれて着いた場所は、多数の食べ物が並んでおり、それをバンケットスタッフが取り分けて参加者に渡していた。
「ミレーは何を飲みたい?」
「あ、お、オレンジジュースを……」
「オレンジジュースね」
 ミレーの要望を聞くと、マルクはスタッフにそれを頼んだ。
 スタッフはオレンジを専用の器具で絞ると、それにシロップを入れて混ぜ、グラスに移し淹れたものをミレーに手渡してくれた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
 ミレーはそのジュースを受け取り、邪魔にならない場所にマルクと一緒に移動してから、一口飲んだ。
 あまりの美味しさに、ミレーは思わず口元を押さえてマルクを見た。
「おいしい!」
「喜んでもらえてよかったよ」
 グランディア家で初めて飲んだ時も感動したものだが、その時とはまた格別な甘みにとても驚いた。
「マルクも飲んで、飲んで!」
 興奮気味に持っていたグラスをマルクに渡すと、彼は冷静に断った。
「ありがたいけど、気持ちだけ受け取っておくよ。ミレーと同じグラスで飲んだと知れたら、オリヴァーにどんな嫌味を言われるかわかったもんじゃない」
 マルクの言葉で、オリヴァーがどんな行動を取るか、何を言うか、安易に想像が出来て笑ってしまった。
「オリヴァーはまだ来ないのね?」
 ミレー達が入城した後からはちらほらと入場する人はいたが、その流れも途中から止まったようだ。
「なんかあったのかな。そろそろグランディア家の入ってくる頃だと思うんだけど……」
「あの、マルク様!」
 入り口を気にしていると、ふいに背後から可愛らしい女性の声がかけられた。
 その時マルクの表情に影が差したように見えたが、背後を振り返る時にはいつもの優しい笑顔に戻っていた。
「なんでしょうか?」
 オリヴァーはマルクのこういう礼儀正しい言葉遣いや態度を見習った方が良いのではないかと思うほど、マルクの対応は紳士的だ。
たまに意地悪な面を見せることもあるが、人間真面目なばかりでは面白みが半減するだろうと思うことにした。
 マルクに倣ってミレーも後ろを振り向くと、華やかなドレスに身を包んだ、自分と大して変わらない年齢層の女性たちが背後を取り囲んでいた。
 その光景にミレーは一瞬身を引いてしまったが、マルクはまったく動じた気配がない。
「突然声をかけてしまった失礼をお許しください。私はクリスティン子爵家のサーナと申します。どうぞお見知りおきを」
 サーナと名乗った令嬢のカーテシーはとても堂々として、綺麗だった。
 まだ自身のカーテシーの未熟さを恥じているミレーにとって、それはとても美しく、理想形であった。
「あの、失礼ですが……そちらのご令嬢は、マルク様とどういったご関係なのでしょう?」
 サーナはちらりとミレーを見る。
 その質問で、この令嬢がマルクと懇意になりたいのだと察し、ミレーはドキドキと胸をときめかせた。
(私が関係しない恋愛事情なんて初めて……!)
 しかしマルクはまるで心動かされた様子もなく、軽く流すように答えた。
「彼女は私の妹だよ」
 すると次の瞬間、マルクとミレーを囲んでいた令嬢たちが一斉にざわめきだした。
「い、妹君?!」
「マルク様にご兄妹が?!」
「ディザクライン侯爵家の御子はマルク様おひとりじゃなかったの!?」
 困惑した様子の令嬢たちに、マルクに促され、ミレーも覚えたてのカーテシーを披露した。
「ディザクライン侯爵のミレーと申します。どうぞ、お見知りおきください」
 そうして顔を上げたが、ミレーを見やる令嬢たちの視線がどこか冷ややかだ。
(なにか、私のカーテシーに問題があったかしら?)
 先ほど、とても綺麗なカーテシーを見た後だったから、なおさら不安になった。
 不安になっているミレーに、サーナが先ほどよりトーンを落とした声で聞いた。
「ですが、マルク様の御父君とも御母君ともマルク様とも、御髪の色が似ておりませんわね」
 それに目の色も、と冷ややかな視線を向けられた。
 どうやらあまりいい印象を与えられなかったようだとやや不安に思っていると、マルクはいつもの優しい声の温度を下げ、令嬢たちに言い放った。
「そんなことを言うために、わざわざ話しかけてこられたのですか?」
 令嬢たちの冷ややかな声にも負けないくらい冷たい声だった。
 いつも陽だまりのようにあたたかな彼の印象が消えたことに、ミレーは怖くなった。
 そしてそれはミレーだけでなく、周囲を囲んでいた令嬢たちも同じだったようだ。
 一番前に出ていたサーナも、若干顔色を悪くさせていたが、彼女が一番早く切り替えられたようだ。
「し、失礼をいたしました。その、オリヴァー様は、まだいらしていないので?」
 突然出たオリヴァーの名前に驚いた。
 だがマルクはその問いが予想通りだったというように、台本でも読み上げるように答えた。
「今回はまだお会いしていませんね」
 そう答えるマルクの表情は微笑んでいるが、全然笑っているようには見えなかった。
 呆気に取られていると、マルクは「では失礼します」と令嬢たちに頭を下げて、ミレーの手を引いて会場のひと気のない場所まで移動した。
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