43 / 60
42
「す、すみません。私、混乱して失礼な対応をしてしまって……」
「気持ちは分かるけど、気をつけてね。今回は王族の方々は目をつむってくれたけど、次はないと思って」
「本当にごめんなさい」
パーティー会場に戻ると、ミレーはすぐに家族へ頭を下げた。
代表してマルクがミレーの態度をいさめている間、ミレーはひたすら頭を下げていた。
「とはいえ、せっかくの祝いの席に頭を下げ続けることもないだろう。さ、ミレー。食事を楽しんできなさい」
まだ反省が足りないかと思っていたが、アンドロのひと言により、謝罪は中止を余儀なくされた。
「で、でも……」
「緊張して喉が渇いただろう? ドリンクを貰ってこよう。いくよ、ミレー」
そう言うと、ミレーの返事も待たずにマルクが手を引いてその場を離れてしまった。
マルクに手を引かれて着いた場所は、多数の食べ物が並んでおり、それをバンケットスタッフが取り分けて参加者に渡していた。
「ミレーは何を飲みたい?」
「あ、お、オレンジジュースを……」
「オレンジジュースね」
ミレーの要望を聞くと、マルクはスタッフにそれを頼んだ。
スタッフはオレンジを専用の器具で絞ると、それにシロップを入れて混ぜ、グラスに移し淹れたものをミレーに手渡してくれた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
ミレーはそのジュースを受け取り、邪魔にならない場所にマルクと一緒に移動してから、一口飲んだ。
あまりの美味しさに、ミレーは思わず口元を押さえてマルクを見た。
「おいしい!」
「喜んでもらえてよかったよ」
グランディア家で初めて飲んだ時も感動したものだが、その時とはまた格別な甘みにとても驚いた。
「マルクも飲んで、飲んで!」
興奮気味に持っていたグラスをマルクに渡すと、彼は冷静に断った。
「ありがたいけど、気持ちだけ受け取っておくよ。ミレーと同じグラスで飲んだと知れたら、オリヴァーにどんな嫌味を言われるかわかったもんじゃない」
マルクの言葉で、オリヴァーがどんな行動を取るか、何を言うか、安易に想像が出来て笑ってしまった。
「オリヴァーはまだ来ないのね?」
ミレー達が入城した後からはちらほらと入場する人はいたが、その流れも途中から止まったようだ。
「なんかあったのかな。そろそろグランディア家の入ってくる頃だと思うんだけど……」
「あの、マルク様!」
入り口を気にしていると、ふいに背後から可愛らしい女性の声がかけられた。
その時マルクの表情に影が差したように見えたが、背後を振り返る時にはいつもの優しい笑顔に戻っていた。
「なんでしょうか?」
オリヴァーはマルクのこういう礼儀正しい言葉遣いや態度を見習った方が良いのではないかと思うほど、マルクの対応は紳士的だ。
たまに意地悪な面を見せることもあるが、人間真面目なばかりでは面白みが半減するだろうと思うことにした。
マルクに倣ってミレーも後ろを振り向くと、華やかなドレスに身を包んだ、自分と大して変わらない年齢層の女性たちが背後を取り囲んでいた。
その光景にミレーは一瞬身を引いてしまったが、マルクはまったく動じた気配がない。
「突然声をかけてしまった失礼をお許しください。私はクリスティン子爵家のサーナと申します。どうぞお見知りおきを」
サーナと名乗った令嬢のカーテシーはとても堂々として、綺麗だった。
まだ自身のカーテシーの未熟さを恥じているミレーにとって、それはとても美しく、理想形であった。
「あの、失礼ですが……そちらのご令嬢は、マルク様とどういったご関係なのでしょう?」
サーナはちらりとミレーを見る。
その質問で、この令嬢がマルクと懇意になりたいのだと察し、ミレーはドキドキと胸をときめかせた。
(私が関係しない恋愛事情なんて初めて……!)
しかしマルクはまるで心動かされた様子もなく、軽く流すように答えた。
「彼女は私の妹だよ」
すると次の瞬間、マルクとミレーを囲んでいた令嬢たちが一斉にざわめきだした。
「い、妹君?!」
「マルク様にご兄妹が?!」
「ディザクライン侯爵家の御子はマルク様おひとりじゃなかったの!?」
困惑した様子の令嬢たちに、マルクに促され、ミレーも覚えたてのカーテシーを披露した。
「ディザクライン侯爵のミレーと申します。どうぞ、お見知りおきください」
そうして顔を上げたが、ミレーを見やる令嬢たちの視線がどこか冷ややかだ。
(なにか、私のカーテシーに問題があったかしら?)
先ほど、とても綺麗なカーテシーを見た後だったから、なおさら不安になった。
不安になっているミレーに、サーナが先ほどよりトーンを落とした声で聞いた。
「ですが、マルク様の御父君とも御母君ともマルク様とも、御髪の色が似ておりませんわね」
それに目の色も、と冷ややかな視線を向けられた。
どうやらあまりいい印象を与えられなかったようだとやや不安に思っていると、マルクはいつもの優しい声の温度を下げ、令嬢たちに言い放った。
「そんなことを言うために、わざわざ話しかけてこられたのですか?」
令嬢たちの冷ややかな声にも負けないくらい冷たい声だった。
いつも陽だまりのようにあたたかな彼の印象が消えたことに、ミレーは怖くなった。
そしてそれはミレーだけでなく、周囲を囲んでいた令嬢たちも同じだったようだ。
一番前に出ていたサーナも、若干顔色を悪くさせていたが、彼女が一番早く切り替えられたようだ。
「し、失礼をいたしました。その、オリヴァー様は、まだいらしていないので?」
突然出たオリヴァーの名前に驚いた。
だがマルクはその問いが予想通りだったというように、台本でも読み上げるように答えた。
「今回はまだお会いしていませんね」
そう答えるマルクの表情は微笑んでいるが、全然笑っているようには見えなかった。
呆気に取られていると、マルクは「では失礼します」と令嬢たちに頭を下げて、ミレーの手を引いて会場のひと気のない場所まで移動した。
「気持ちは分かるけど、気をつけてね。今回は王族の方々は目をつむってくれたけど、次はないと思って」
「本当にごめんなさい」
パーティー会場に戻ると、ミレーはすぐに家族へ頭を下げた。
代表してマルクがミレーの態度をいさめている間、ミレーはひたすら頭を下げていた。
「とはいえ、せっかくの祝いの席に頭を下げ続けることもないだろう。さ、ミレー。食事を楽しんできなさい」
まだ反省が足りないかと思っていたが、アンドロのひと言により、謝罪は中止を余儀なくされた。
「で、でも……」
「緊張して喉が渇いただろう? ドリンクを貰ってこよう。いくよ、ミレー」
そう言うと、ミレーの返事も待たずにマルクが手を引いてその場を離れてしまった。
マルクに手を引かれて着いた場所は、多数の食べ物が並んでおり、それをバンケットスタッフが取り分けて参加者に渡していた。
「ミレーは何を飲みたい?」
「あ、お、オレンジジュースを……」
「オレンジジュースね」
ミレーの要望を聞くと、マルクはスタッフにそれを頼んだ。
スタッフはオレンジを専用の器具で絞ると、それにシロップを入れて混ぜ、グラスに移し淹れたものをミレーに手渡してくれた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
ミレーはそのジュースを受け取り、邪魔にならない場所にマルクと一緒に移動してから、一口飲んだ。
あまりの美味しさに、ミレーは思わず口元を押さえてマルクを見た。
「おいしい!」
「喜んでもらえてよかったよ」
グランディア家で初めて飲んだ時も感動したものだが、その時とはまた格別な甘みにとても驚いた。
「マルクも飲んで、飲んで!」
興奮気味に持っていたグラスをマルクに渡すと、彼は冷静に断った。
「ありがたいけど、気持ちだけ受け取っておくよ。ミレーと同じグラスで飲んだと知れたら、オリヴァーにどんな嫌味を言われるかわかったもんじゃない」
マルクの言葉で、オリヴァーがどんな行動を取るか、何を言うか、安易に想像が出来て笑ってしまった。
「オリヴァーはまだ来ないのね?」
ミレー達が入城した後からはちらほらと入場する人はいたが、その流れも途中から止まったようだ。
「なんかあったのかな。そろそろグランディア家の入ってくる頃だと思うんだけど……」
「あの、マルク様!」
入り口を気にしていると、ふいに背後から可愛らしい女性の声がかけられた。
その時マルクの表情に影が差したように見えたが、背後を振り返る時にはいつもの優しい笑顔に戻っていた。
「なんでしょうか?」
オリヴァーはマルクのこういう礼儀正しい言葉遣いや態度を見習った方が良いのではないかと思うほど、マルクの対応は紳士的だ。
たまに意地悪な面を見せることもあるが、人間真面目なばかりでは面白みが半減するだろうと思うことにした。
マルクに倣ってミレーも後ろを振り向くと、華やかなドレスに身を包んだ、自分と大して変わらない年齢層の女性たちが背後を取り囲んでいた。
その光景にミレーは一瞬身を引いてしまったが、マルクはまったく動じた気配がない。
「突然声をかけてしまった失礼をお許しください。私はクリスティン子爵家のサーナと申します。どうぞお見知りおきを」
サーナと名乗った令嬢のカーテシーはとても堂々として、綺麗だった。
まだ自身のカーテシーの未熟さを恥じているミレーにとって、それはとても美しく、理想形であった。
「あの、失礼ですが……そちらのご令嬢は、マルク様とどういったご関係なのでしょう?」
サーナはちらりとミレーを見る。
その質問で、この令嬢がマルクと懇意になりたいのだと察し、ミレーはドキドキと胸をときめかせた。
(私が関係しない恋愛事情なんて初めて……!)
しかしマルクはまるで心動かされた様子もなく、軽く流すように答えた。
「彼女は私の妹だよ」
すると次の瞬間、マルクとミレーを囲んでいた令嬢たちが一斉にざわめきだした。
「い、妹君?!」
「マルク様にご兄妹が?!」
「ディザクライン侯爵家の御子はマルク様おひとりじゃなかったの!?」
困惑した様子の令嬢たちに、マルクに促され、ミレーも覚えたてのカーテシーを披露した。
「ディザクライン侯爵のミレーと申します。どうぞ、お見知りおきください」
そうして顔を上げたが、ミレーを見やる令嬢たちの視線がどこか冷ややかだ。
(なにか、私のカーテシーに問題があったかしら?)
先ほど、とても綺麗なカーテシーを見た後だったから、なおさら不安になった。
不安になっているミレーに、サーナが先ほどよりトーンを落とした声で聞いた。
「ですが、マルク様の御父君とも御母君ともマルク様とも、御髪の色が似ておりませんわね」
それに目の色も、と冷ややかな視線を向けられた。
どうやらあまりいい印象を与えられなかったようだとやや不安に思っていると、マルクはいつもの優しい声の温度を下げ、令嬢たちに言い放った。
「そんなことを言うために、わざわざ話しかけてこられたのですか?」
令嬢たちの冷ややかな声にも負けないくらい冷たい声だった。
いつも陽だまりのようにあたたかな彼の印象が消えたことに、ミレーは怖くなった。
そしてそれはミレーだけでなく、周囲を囲んでいた令嬢たちも同じだったようだ。
一番前に出ていたサーナも、若干顔色を悪くさせていたが、彼女が一番早く切り替えられたようだ。
「し、失礼をいたしました。その、オリヴァー様は、まだいらしていないので?」
突然出たオリヴァーの名前に驚いた。
だがマルクはその問いが予想通りだったというように、台本でも読み上げるように答えた。
「今回はまだお会いしていませんね」
そう答えるマルクの表情は微笑んでいるが、全然笑っているようには見えなかった。
呆気に取られていると、マルクは「では失礼します」と令嬢たちに頭を下げて、ミレーの手を引いて会場のひと気のない場所まで移動した。
あなたにおすすめの小説
愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……
ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。
ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。
そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
亡き姉の身代わりとして嫁いだ私ですが、離縁状を置いた翌朝、夫が私の「真実」に気づいたようです』
まさき
恋愛
「サインはもう、いただきました。あとは私がこの屋敷を出るだけです」
五年間の結婚生活。侯爵令嬢エルゼが演じ続けたのは、亡き姉・ロザリーの「身代わり」という配役だった。
夫であるカイル公爵が愛していたのは、かつて雪の中で自分を救ってくれた初恋の少女・ロザリー。
生き写しの妹であるエルゼを娶りながらも、彼は一度も彼女を「エルゼ」と呼ぶことはなかった。
冷淡な視線、姉と比較される日々。
「君はどこまでいっても、ロザリーの代わりにはなれない」
その言葉を最後に、エルゼは静かに離縁状を置き、屋敷を去る決意をする。
しかし、彼女が消えた翌朝。
カイルは、エルゼが大切に遺していった古い小箱を見つける。
そこにあったのは、十五年前のあの日、彼が「命の恩人」に預けたはずの片方のカフスボタン。
そして、幼いエルゼが綴った、あまりにも切ない真実の日記だった。
――「あの日、雪の中で貴方を抱きしめていたのは、お姉様ではなく、私だったのです」
真実を知り、絶望の中でエルゼを追うカイル。
だが、すべてを捨てて「自分」を取り戻したエルゼは、もう二度と、彼の隣で微笑む仮面の妻には戻らない。
これは、名前を奪われた女が自由を掴み、愚かな夫が真実の愛を失うまでの、静かで鮮やかな再生の物語。
実家も国も私を捨てたが、私を愛さないと国が滅びる。絶望する人々を特等席で眺め、冷徹な王子の腕の中で思考停止する。
唯崎りいち
恋愛
持参金がないという理由で家族と祖国から追放された私は、実はこの国を支える“加護”そのものだった。
私が去った瞬間、王都の結界は崩れ、国は崩壊へ向かい始める。
そんな私を拾ったのは、冷徹と噂される隣国の王子。
「やっと見つけた。お前は俺のものだ」
捨てられたはずの私は、気づけば滅びゆく祖国を背に、彼の腕の中で溺愛されていた。
私と義弟の安全は確保出来たので、ゆっくり恋人を探そうと思います
織り子
恋愛
18歳で処刑された大公家の令嬢、セレノア・グレイス。
目を覚ますと――あの日の6年前に戻っていた。
まだ無邪気な弟ルシアン、笑う両親。
再び訪れる“反逆の運命”を知るのは、彼女だけ。
――大公家に産まれた時点で、自由な恋愛は諦めていた。だが、本当は他の令嬢達の話を聞くたびにうらやましかった。人生1度きり。もう少し花のある人生を送りたかった。一度でいいから、恋愛をしてみたい。
限られた6年の中で、セレノアは動き出す。
愛する家族を守るため、未来を変えるために。
そして本当の願い(恋愛)を叶えるために。
好きでした、婚約破棄を受け入れます
たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……?
※十章を改稿しました。エンディングが変わりました。
巻き戻った妻、愛する夫と子どもを今度こそ守ります
ミカン♬
恋愛
公爵令嬢フィリスの愛する婚約者、第一王子ジルナードが事故で体が不自由となった。
それで王太子候補は側妃の子、第二王子のサイラスに決まった。
父親の計略でフィリスはサイラスとの婚姻を余儀なくされる。悲しむフィリスとジルナード。
「必ずジルナード様を王にします。貴方の元に戻ってきます」
ジルナードに誓い、王妃から渡された毒薬を胸に、フィリスはサイラスに嫁いだ。
挙式前に魔女に魅了を掛けられて。愛する人はサイラスだと思い込んだまま、幸福な時間を過ごす。
やがて魅了は解けて……
サクッとハッピーエンドまで進みます。