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「アリサ・バークスファー伯爵夫人は、バークスファー伯爵に離縁され、身一つで伯爵邸を追い出されたらしいよ」
オリヴァーの部屋のティーテーブルでお茶を啜りながら、マルクが報告する。
報告を聞いたオリヴァーは、自分の前に置かれたカップに手を付けようとしない。マルクの報告に、なにやら考え込んでいる様子だ。
食堂や庭園のガゼボではなく、オリヴァーの部屋に通されたのは、ミレーがうっかり通ってこの会話を聞いてしまうことがないようにという配慮からだ。
ミレーに、このような話は聞かせられない。
それがマルクとオリヴァーの気持ちであった。
だがこの報告を聞いた時、マルクの脳裏に、エドワードから聞いた言葉がよぎる。
(無自覚であっても、自覚ありであっても、ミレーが『こうなる』ように誘導した……か)
別にその話を悪く捉えるつもりはない。エドワードにも言ったが、それが結果的にミレーの誘導であったとしても、貴族として必要なスキルだからだ。
(まぁ正直、講義を受けただけでミレーにその技術が身についたのだとしたら、驚くべきことだけど?)
妹の成長を誇らしく思っていると、ようやくオリヴァーが口を開いた。
「ま、いいんじゃねえの? 遅かれ早かれ、ってとこだろ」
「どうする、ミレーに知らせる?」
「絶対に知らせるな。これ以上、クローバー家の人間をミレーに関わらせねえ。あいつらが社交界からつまはじきにされたのは、全部やつらの自業自得だろう。アリサに関しては、さっきも言ったように遅かれ早かれ、だ。それを、ミレーは全部自分の発言のせいだって思うだろう。……これ以上あいつらのせいで、ミレーが追い詰められたら、オレの気がどうにかなる」
「……遅かれ早かれ、そうだね」
バークスファー伯爵は、今年45になる。彼はこの年まで、多数の結婚経歴がある。アリサが初めて妻に迎え入れられた女性というわけではない。
伯爵は、若い女性を好む。
『若ければ若いほど良い』が彼の公言する性癖だ。
産まれたばかりの赤ん坊にさえ性的な感情を持つというので、これに関してはオリヴァーが口にした『変態野郎』という言葉に同意をする。
若い女性を好む彼は、奉仕活動と称して、孤児院に行っては幼い少女ばかり可愛がっていたと聞く。
彼は、結婚にはまだ早いのではないかという少女を娶っては、毎晩、未発達の少女の身体を性的に弄ぶのが趣味だという。
それでも、戸籍上夫婦であるし、夜の営みを毎夜確認できるわけではないから、妻側の少女の意見だけでは虐待の証拠にはならず、法的に伯爵を罰することは出来ない。
そして、少女の見た目が成熟すると、伯爵の妻だった女性たちは皆、原因不明の死に方をしている。
これも証拠がなく、伯爵を処することが出来ていないが、『バークスファー伯爵の下へ嫁いだ女は早死にする』と噂されている。
それでも伯爵に娘を嫁がせるのは、伯爵が財政的に貧窮している家柄を狙って『多額の結納金を渡しているから』だ。
「あんな変態野郎のところにミレーを嫁がせようとしていやがったのが、マジで許せねえ」
オリヴァーは腕を組んで椅子に寄りかかり、必死に怒りを抑えている。
「でも、ミレーじゃバークスファーの条件には合わなかったと思うが、どうやって騙したんだか」
「クローバー家が伯爵に売り込んだんじゃないよ。クローバー家には年齢のわりに幼い見た目の可愛らしい令嬢がいる、って噂を伯爵が聞いたらしい。ミレーは家に幽閉され、存在を秘匿とされていたから、娘はアリサ一人だと思ったんだって。伯爵もまさかミレーを差し出されるとは思っていなかったらしい。……つまり、ミレーが暴漢に襲われたのが原因で破棄されたのではなく、成熟した見た目のミレーを差し出そうとしたクローバー家に、騙されたと思ったかららしい」
「クローバー家は、バークスファー家当主がどんな性癖か知らなかった、なんてわけないよな」
「若い女の子が好き、とだけ知っていたらしい。幼い容姿の子が好き、だとは思わなかったんだろうね。だからミレーの年齢でも間違いではないから、……厄介払いできたうえに、多額のお金まで貰えるのならありがたい、って言っていたって」
「…………」
オリヴァーが手を組んだまま、むすっと顔をしかめて黙った。
マルクは、『厄介払い』と言い換えたが、諜報員の調べによると『ゴミの処分が出来た』と言っていたらしい。
この報告を受けた時、マルクでさえ怒りを抑えられずに、近くにあった椅子へ八つ当たりをしてしまったのだ。
オリヴァーが聞いたら、椅子が宙を舞うだけでは済まないだろう。
マルクが報告を濁したことは、おそらく彼も気づいてはいるだろう。あえて自らイライラする方向へ行かないだけだ。
「で、アリサはクローバー家へ戻ったのか?」
「戻っていないよ」
精神を落ち着かせるために目をつむっていたオリヴァーが、マルクの報告に瞼を上げた。
「……アリサは、王太子の誕生パーティーの会場である王宮の裏庭で、貴族ではなくなった男たちを呼び込み乱交に及んだ。これは貴族としてあるまじき行為である。そう陛下に判断され、伯爵と離縁された後も、クローバー家に戻ることは許されなかった」
「……へぇ」
オリヴァーが楽しそうに口元を緩めた。
「とりあえず、表向きはそうなったよ」
「あんがとな。マルクも、ご苦労さん」
そうマルクを労うと、オリヴァーはようやく組んでいた腕を解いた。
労いを受けて、マルクは目を細めてオリヴァーを見やる。
「……ボクは報告をしただけだよ。調査をしたのは、諜報員の方々さ」
「あぁ、そうだった。間違えた。悪かったな」
「いいや、別に」
素直に間違いを謝罪するオリヴァーに、マルクは「気にしていないよ」とにっこり微笑んだ。
アリサの受けた罰は、全部自業自得であった。
義姉であったミレーにしようとしたことを、全部自分がされただけなのだ。
今回のことはアリサにとって運が悪かったといえば、それも間違いではない。運の悪いことに、アリサが自分で蒔いたトラブルの種が、風で舞い戻ってきて、自分の足元で萌芽してしまったようなものだ。
自分で仕掛けなければ……、王城で必要以上にミレーに絡まなければ……。
仕掛けたにせよ、それ以降で余計なことをしなければ、こうはならなかったのだ。
ゆえに、これはアリサの自業自得なのだ。
だが、それ以上に、マルクとオリヴァーに喧嘩を売ったのが、そもそもの間違いだった。
ミレーを誰よりも大切に想っている二人を怒らせるようなことを、クローバー家はずっとミレーにしてきた。
並木通りで暴漢に襲わせたことが決定打だった。
オリヴァーから報告を受けた後、下町でミレーを看護するオリヴァーに代わり、クローバー家の調査をし、あの家の連中を社会的に抹殺する手立てを企てていたのだ。
今回の王城のトラブルは予期せぬトラブルではあったが、結果的に報復の時期が早まっただけだ。
アリサはこれから貴族として生きることは出来ない。
クローバー家の両親は、アリサを貴族としてではなくとも家で保護しようとしたらしいが、マルクがそうできないよう仕掛けた。
アリサは今頃、貧民街のほうへ向かっているだろう。
そしてオリヴァーも、公爵家へ帰ってきてからクローバー家の調査に戻った。
彼はすぐにでも男爵家を離散させる地獄を見せてやりたいと言っていたが、ミレーの実母であるルイーザの調査もまだ明確に出来ていない以上、ここで証拠ごと消し去るのは良くないとマルクが止めた。
止めはしたが、マルクもオリヴァーと同じ気持ちだ。とっとと爵位をはく奪させるなり、さらし刑にするなり、なんらかの処罰が与えられるべきだと。
理性で思いとどまっているにすぎない。
「……裏でこんなことをしているなんて、ミレーが知ったら軽蔑されるかな」
マルクがぽつりと不安を吐露すると、オリヴァーは軽い口調でその不安に答えた。
「そうだな。それでも、軽蔑されてもオレは……ミレーを守るって決めたから。これ以上、ミレーの心も身体も、傷つけさせないって決めたから」
「……そうだね。ボクには覚悟が足りていなかったみたいだ」
「良いんだよ。マルクの覚悟が決まってることを、オレが知っていれば」
「……なにが良いんだか、わからないよ」
笑いながら、オリヴァーのその言葉に、マルクは安心した。
オリヴァーが知っていてくれるなら、それでいいと。
大切な友人が知っていると言ってくれる。
そんな気がした。
「ふぁぁ。そんじゃ、もう寝るか。マルクも今日は公爵家に泊まっていけよ。部屋を用意させるから」
オリヴァーは椅子から立ち上がって腕を上げ、身体を上へ伸ばした。
「……じゃあ、お言葉に甘えようかな」
他愛のない言葉を交わせる、心許せる友人がいることを、マルクは幸せだと心の底から思った。
オリヴァーの部屋のティーテーブルでお茶を啜りながら、マルクが報告する。
報告を聞いたオリヴァーは、自分の前に置かれたカップに手を付けようとしない。マルクの報告に、なにやら考え込んでいる様子だ。
食堂や庭園のガゼボではなく、オリヴァーの部屋に通されたのは、ミレーがうっかり通ってこの会話を聞いてしまうことがないようにという配慮からだ。
ミレーに、このような話は聞かせられない。
それがマルクとオリヴァーの気持ちであった。
だがこの報告を聞いた時、マルクの脳裏に、エドワードから聞いた言葉がよぎる。
(無自覚であっても、自覚ありであっても、ミレーが『こうなる』ように誘導した……か)
別にその話を悪く捉えるつもりはない。エドワードにも言ったが、それが結果的にミレーの誘導であったとしても、貴族として必要なスキルだからだ。
(まぁ正直、講義を受けただけでミレーにその技術が身についたのだとしたら、驚くべきことだけど?)
妹の成長を誇らしく思っていると、ようやくオリヴァーが口を開いた。
「ま、いいんじゃねえの? 遅かれ早かれ、ってとこだろ」
「どうする、ミレーに知らせる?」
「絶対に知らせるな。これ以上、クローバー家の人間をミレーに関わらせねえ。あいつらが社交界からつまはじきにされたのは、全部やつらの自業自得だろう。アリサに関しては、さっきも言ったように遅かれ早かれ、だ。それを、ミレーは全部自分の発言のせいだって思うだろう。……これ以上あいつらのせいで、ミレーが追い詰められたら、オレの気がどうにかなる」
「……遅かれ早かれ、そうだね」
バークスファー伯爵は、今年45になる。彼はこの年まで、多数の結婚経歴がある。アリサが初めて妻に迎え入れられた女性というわけではない。
伯爵は、若い女性を好む。
『若ければ若いほど良い』が彼の公言する性癖だ。
産まれたばかりの赤ん坊にさえ性的な感情を持つというので、これに関してはオリヴァーが口にした『変態野郎』という言葉に同意をする。
若い女性を好む彼は、奉仕活動と称して、孤児院に行っては幼い少女ばかり可愛がっていたと聞く。
彼は、結婚にはまだ早いのではないかという少女を娶っては、毎晩、未発達の少女の身体を性的に弄ぶのが趣味だという。
それでも、戸籍上夫婦であるし、夜の営みを毎夜確認できるわけではないから、妻側の少女の意見だけでは虐待の証拠にはならず、法的に伯爵を罰することは出来ない。
そして、少女の見た目が成熟すると、伯爵の妻だった女性たちは皆、原因不明の死に方をしている。
これも証拠がなく、伯爵を処することが出来ていないが、『バークスファー伯爵の下へ嫁いだ女は早死にする』と噂されている。
それでも伯爵に娘を嫁がせるのは、伯爵が財政的に貧窮している家柄を狙って『多額の結納金を渡しているから』だ。
「あんな変態野郎のところにミレーを嫁がせようとしていやがったのが、マジで許せねえ」
オリヴァーは腕を組んで椅子に寄りかかり、必死に怒りを抑えている。
「でも、ミレーじゃバークスファーの条件には合わなかったと思うが、どうやって騙したんだか」
「クローバー家が伯爵に売り込んだんじゃないよ。クローバー家には年齢のわりに幼い見た目の可愛らしい令嬢がいる、って噂を伯爵が聞いたらしい。ミレーは家に幽閉され、存在を秘匿とされていたから、娘はアリサ一人だと思ったんだって。伯爵もまさかミレーを差し出されるとは思っていなかったらしい。……つまり、ミレーが暴漢に襲われたのが原因で破棄されたのではなく、成熟した見た目のミレーを差し出そうとしたクローバー家に、騙されたと思ったかららしい」
「クローバー家は、バークスファー家当主がどんな性癖か知らなかった、なんてわけないよな」
「若い女の子が好き、とだけ知っていたらしい。幼い容姿の子が好き、だとは思わなかったんだろうね。だからミレーの年齢でも間違いではないから、……厄介払いできたうえに、多額のお金まで貰えるのならありがたい、って言っていたって」
「…………」
オリヴァーが手を組んだまま、むすっと顔をしかめて黙った。
マルクは、『厄介払い』と言い換えたが、諜報員の調べによると『ゴミの処分が出来た』と言っていたらしい。
この報告を受けた時、マルクでさえ怒りを抑えられずに、近くにあった椅子へ八つ当たりをしてしまったのだ。
オリヴァーが聞いたら、椅子が宙を舞うだけでは済まないだろう。
マルクが報告を濁したことは、おそらく彼も気づいてはいるだろう。あえて自らイライラする方向へ行かないだけだ。
「で、アリサはクローバー家へ戻ったのか?」
「戻っていないよ」
精神を落ち着かせるために目をつむっていたオリヴァーが、マルクの報告に瞼を上げた。
「……アリサは、王太子の誕生パーティーの会場である王宮の裏庭で、貴族ではなくなった男たちを呼び込み乱交に及んだ。これは貴族としてあるまじき行為である。そう陛下に判断され、伯爵と離縁された後も、クローバー家に戻ることは許されなかった」
「……へぇ」
オリヴァーが楽しそうに口元を緩めた。
「とりあえず、表向きはそうなったよ」
「あんがとな。マルクも、ご苦労さん」
そうマルクを労うと、オリヴァーはようやく組んでいた腕を解いた。
労いを受けて、マルクは目を細めてオリヴァーを見やる。
「……ボクは報告をしただけだよ。調査をしたのは、諜報員の方々さ」
「あぁ、そうだった。間違えた。悪かったな」
「いいや、別に」
素直に間違いを謝罪するオリヴァーに、マルクは「気にしていないよ」とにっこり微笑んだ。
アリサの受けた罰は、全部自業自得であった。
義姉であったミレーにしようとしたことを、全部自分がされただけなのだ。
今回のことはアリサにとって運が悪かったといえば、それも間違いではない。運の悪いことに、アリサが自分で蒔いたトラブルの種が、風で舞い戻ってきて、自分の足元で萌芽してしまったようなものだ。
自分で仕掛けなければ……、王城で必要以上にミレーに絡まなければ……。
仕掛けたにせよ、それ以降で余計なことをしなければ、こうはならなかったのだ。
ゆえに、これはアリサの自業自得なのだ。
だが、それ以上に、マルクとオリヴァーに喧嘩を売ったのが、そもそもの間違いだった。
ミレーを誰よりも大切に想っている二人を怒らせるようなことを、クローバー家はずっとミレーにしてきた。
並木通りで暴漢に襲わせたことが決定打だった。
オリヴァーから報告を受けた後、下町でミレーを看護するオリヴァーに代わり、クローバー家の調査をし、あの家の連中を社会的に抹殺する手立てを企てていたのだ。
今回の王城のトラブルは予期せぬトラブルではあったが、結果的に報復の時期が早まっただけだ。
アリサはこれから貴族として生きることは出来ない。
クローバー家の両親は、アリサを貴族としてではなくとも家で保護しようとしたらしいが、マルクがそうできないよう仕掛けた。
アリサは今頃、貧民街のほうへ向かっているだろう。
そしてオリヴァーも、公爵家へ帰ってきてからクローバー家の調査に戻った。
彼はすぐにでも男爵家を離散させる地獄を見せてやりたいと言っていたが、ミレーの実母であるルイーザの調査もまだ明確に出来ていない以上、ここで証拠ごと消し去るのは良くないとマルクが止めた。
止めはしたが、マルクもオリヴァーと同じ気持ちだ。とっとと爵位をはく奪させるなり、さらし刑にするなり、なんらかの処罰が与えられるべきだと。
理性で思いとどまっているにすぎない。
「……裏でこんなことをしているなんて、ミレーが知ったら軽蔑されるかな」
マルクがぽつりと不安を吐露すると、オリヴァーは軽い口調でその不安に答えた。
「そうだな。それでも、軽蔑されてもオレは……ミレーを守るって決めたから。これ以上、ミレーの心も身体も、傷つけさせないって決めたから」
「……そうだね。ボクには覚悟が足りていなかったみたいだ」
「良いんだよ。マルクの覚悟が決まってることを、オレが知っていれば」
「……なにが良いんだか、わからないよ」
笑いながら、オリヴァーのその言葉に、マルクは安心した。
オリヴァーが知っていてくれるなら、それでいいと。
大切な友人が知っていると言ってくれる。
そんな気がした。
「ふぁぁ。そんじゃ、もう寝るか。マルクも今日は公爵家に泊まっていけよ。部屋を用意させるから」
オリヴァーは椅子から立ち上がって腕を上げ、身体を上へ伸ばした。
「……じゃあ、お言葉に甘えようかな」
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