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あの奇跡のような一夜が明けてから、季節は何度か巡った。
エリオットは、結局「ただの弟」に戻ることも、「兄たち」が「ただの兄」に戻ることもなかった。あの夜の儀式は、彼らの関係を終わらせるどころか、誰にも壊すことのできない、歪で、しかし絶対的な絆で結びつけてしまったのだ。
そして訪れた、運命の社交界デビューの日。
完璧な貴公子として王宮の大ホールに現れたエリオットの姿に、会場中の人々が息をのんだ。色素の薄い髪はシャンデリアの光を受けて銀糸のように輝き、以前の儚げな雰囲気はそのままに、どこか憂いを帯びた色気が加わっている。その危ういまでの美しさに、誰もが目を奪われた。
しかし、人々がそれ以上に注目したのは、彼の周囲を固める三人の兄たちの姿だった。
エスコート役として、片時もエリオットの側を離れない長兄アレクシス。その怜悧な青い瞳は、弟に近づこうとする者すべてに、「それ以上近づけば、家門ごと社会的に抹殺する」という無言の警告を送っている。彼の完璧主義は、今やエリオットを外部の脅威から守るための、絶対的な城壁となっていた。
護衛役として、少し下がった位置に控えながらも、常に周囲に鋭い視線を光らせる次兄クリス。彼の快活な笑みの裏には、弟に馴れ馴れしく触れようものなら、その腕を切り落としかねないほどの殺気が漲っている。彼の太陽のような明るさは、エリオットだけを照らすためのものであり、それ以外の者にとっては、目を焼く灼熱の光でしかなかった。
そして、少し離れた柱の影から、静かに弟の姿を見守る三兄ゼム。彼の指先では、目には見えない強力な守護魔術が常に編み上げられており、エリオットに悪意を抱く者がいれば、その者は原因不明の不幸に見舞われ、二度と夜会に姿を見せることはないだろう。彼の探究心は、エリオットを脅かすあらゆる可能性を予測し、排除するための、完璧な術式を構築していた。
エリオットの美しさに惹かれて近づこうとする若い貴族たちは、この鉄壁の布陣を前に、誰一人として彼に声をかけることすらできない。彼らはただ、遠くからため息をつくことしか許されなかった。
エリオットは、誰にも触れさせてもらえない息苦しさと、絶対的に守られているという歪んだ安心感の中で、差し出されたシャンパンのグラスを静かに受け取った。
グラスを持つその指に、別の指がそっと絡められる。アレクシスだ。背後からは、クリスの温かい体温が伝わってくる。そして、視線の先の柱の影で、ゼムが自分だけに向けて、小さく微笑んだのが見えた。
「義兄たちに愛されているのだが……」
彼の唇が、誰にも聞こえないほどの小さな声で、そう呟いた。
あの夜、「これで終わりにする」と誓ったはずだった。しかし、三つの愛が一つになったあの夜の記憶は、終わりではなく、始まりの儀式となってしまった。兄たちは決して彼を手放さず、彼もまた、その愛なしでは生きていけなくなってしまったのだ。
硝子の箱は、以前よりもさらに堅牢に、そして美しく作り変えられた。
その中で咲く白薔薇は、外の世界の風に触れることを許されず、ただ三人の庭師たちだけに愛でられ、その蜜を与え続ける。
それは、エリオットが自ら望み、そして受け入れた、永遠に続く甘やかな牢獄だった。
エリオットは、結局「ただの弟」に戻ることも、「兄たち」が「ただの兄」に戻ることもなかった。あの夜の儀式は、彼らの関係を終わらせるどころか、誰にも壊すことのできない、歪で、しかし絶対的な絆で結びつけてしまったのだ。
そして訪れた、運命の社交界デビューの日。
完璧な貴公子として王宮の大ホールに現れたエリオットの姿に、会場中の人々が息をのんだ。色素の薄い髪はシャンデリアの光を受けて銀糸のように輝き、以前の儚げな雰囲気はそのままに、どこか憂いを帯びた色気が加わっている。その危ういまでの美しさに、誰もが目を奪われた。
しかし、人々がそれ以上に注目したのは、彼の周囲を固める三人の兄たちの姿だった。
エスコート役として、片時もエリオットの側を離れない長兄アレクシス。その怜悧な青い瞳は、弟に近づこうとする者すべてに、「それ以上近づけば、家門ごと社会的に抹殺する」という無言の警告を送っている。彼の完璧主義は、今やエリオットを外部の脅威から守るための、絶対的な城壁となっていた。
護衛役として、少し下がった位置に控えながらも、常に周囲に鋭い視線を光らせる次兄クリス。彼の快活な笑みの裏には、弟に馴れ馴れしく触れようものなら、その腕を切り落としかねないほどの殺気が漲っている。彼の太陽のような明るさは、エリオットだけを照らすためのものであり、それ以外の者にとっては、目を焼く灼熱の光でしかなかった。
そして、少し離れた柱の影から、静かに弟の姿を見守る三兄ゼム。彼の指先では、目には見えない強力な守護魔術が常に編み上げられており、エリオットに悪意を抱く者がいれば、その者は原因不明の不幸に見舞われ、二度と夜会に姿を見せることはないだろう。彼の探究心は、エリオットを脅かすあらゆる可能性を予測し、排除するための、完璧な術式を構築していた。
エリオットの美しさに惹かれて近づこうとする若い貴族たちは、この鉄壁の布陣を前に、誰一人として彼に声をかけることすらできない。彼らはただ、遠くからため息をつくことしか許されなかった。
エリオットは、誰にも触れさせてもらえない息苦しさと、絶対的に守られているという歪んだ安心感の中で、差し出されたシャンパンのグラスを静かに受け取った。
グラスを持つその指に、別の指がそっと絡められる。アレクシスだ。背後からは、クリスの温かい体温が伝わってくる。そして、視線の先の柱の影で、ゼムが自分だけに向けて、小さく微笑んだのが見えた。
「義兄たちに愛されているのだが……」
彼の唇が、誰にも聞こえないほどの小さな声で、そう呟いた。
あの夜、「これで終わりにする」と誓ったはずだった。しかし、三つの愛が一つになったあの夜の記憶は、終わりではなく、始まりの儀式となってしまった。兄たちは決して彼を手放さず、彼もまた、その愛なしでは生きていけなくなってしまったのだ。
硝子の箱は、以前よりもさらに堅牢に、そして美しく作り変えられた。
その中で咲く白薔薇は、外の世界の風に触れることを許されず、ただ三人の庭師たちだけに愛でられ、その蜜を与え続ける。
それは、エリオットが自ら望み、そして受け入れた、永遠に続く甘やかな牢獄だった。
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