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小鳥のさえずりが、朝の訪れを告げていた。
ルカは重いまぶたを持ち上げ、自分が温かく、そして重苦しい何かに挟まれていることに気づいた。
右側には、高い体温を放つ逞しい腕。
左側には、ひんやりと心地よい滑らかな腕。
ルカは、天蓋付きの広大なベッドの中央で、カイとイルス、二人の王子にサンドイッチのように挟まれて眠っていたのだ。
(……昨夜は、凄かった……)
記憶を反芻し、ルカは顔を赤らめた。
目隠しをされたまま、二人の王子に同時に愛された夜。
競い合うようだった二人の愛撫は、次第に互いを補完し合うような絶妙な連携へと変わり、ルカを未知の快楽の頂へと連れ去った。
その余韻が、身体の奥にまだ甘く残っている。
「……目覚めたか、ルカ」
左側から、静かな声が降ってきた。
イルスだった。彼はすでに目を覚ましており、頬杖をついてルカの寝顔を見つめていたようだ。その紫がかった碧眼は、朝の光の中でガラス細工のように透き通って見えた。
「おはようございます、イルス様。……よく眠れましたか?」
「ああ。お前が間にいてくれたおかげでな。……こんなに安らかに眠れたのは、生まれて初めてかもしれない」
イルスの指先が、ルカの前髪を優しく梳く。その表情は穏やかだったが、ふと、どこか寂しげな陰りが差した。
「……だが、この穏やかな時間もいつまで続くか」
「え?」
「父上の病状が思わしくないという情報が入った。……そう遠くない未来、譲位が行われるだろう」
ルカは息を呑んだ。
国王の崩御、そして新国王の即位。それは国中が待ち望む慶事であると同時に、この「双子の秘密」にとって最大の危機が訪れることを意味していた。
即位の儀式、戴冠式、そして終わりのない公務。
衆人環視の中で「一人」を演じ続ける負担は激増する。そして何より――。
「カイが王になれば、光はより強く輝く。そうなれば、影である私の存在意義は薄れる」
イルスは自嘲気味に笑った。
「不要になった影は、歴史の闇に消されるのが定石だ。……あるいは、私自身が消えるべきなのかもしれないな」
「イルス様、何を仰いますか!」
ルカは思わず身を乗り出し、イルスの冷たい手を両手で握りしめた。
「貴方様がいなくては、カイ様も……そして私も、生きてはいけません!」
「ルカ……」
「影などではありません。私にとっては、貴方様もまた、かけがえのない光なのです。どうか……消えるなどと仰らないでください」
必死に訴えるルカの瞳に、イルスの瞳が揺れる。
その時、ルカの右側から伸びてきた腕が、ルカごとイルスを力強く引き寄せた。
「……朝から湿っぽい話をするな、イルス」
不機嫌そうな、しかし力強い声。カイが目を覚ましていた。
彼は半身を起こすと、太陽のような金髪を乱したまま、真っ直ぐに弟を見据えた。
「俺が王になる? ああ、なってやるとも。だがな、俺一人でこの国を背負うつもりなど毛頭ない」
「兄上……しかし、王は唯一無二の存在でなければ……」
「知ったことか。俺たちはずっと二人で生きてきた。これからもだ」
カイはイルスの顎を掴み、強引に自分の方へ向かせた。
「俺にはお前の冷徹な判断力が必要だ。そしてお前には、俺の決断力が必要だろう? ……それに、俺たちには今、共通の『心臓』がある」
カイの視線が、二人の間にいるルカへと落ちる。
「ルカ。お前が俺たちを見分けたあの時、俺たちの運命は変わったんだ。……俺たちはもう、ただの鏡写しの虚像じゃない。お前という存在を通して、初めて『二つの太陽』になれたんだ」
カイの言葉に、ルカの胸が熱くなった。
二つの太陽。
もし空に太陽が二つあれば、世界は灼熱に焼かれてしまうかもしれない。けれど、この小さな寝室の中――三人だけの閉じた世界でなら、それは互いを照らし合う希望の光になり得る。
「……お二人が、二人でいてくださること。それが私の生きる全てです」
ルカは、カイの熱い手と、イルスの冷たい手を重ね合わせ、その上に自分の手を置いた。
「たとえ世界中を欺くことになっても、私はこの秘密を守り抜きます。カイ様が表で輝き、イルス様が裏で支え……そして、お二人が疲れた時は、私がこの場所で癒やしとなります」
「ルカ……」
「共犯者、ですから」
ルカが涙ぐみながら微笑むと、カイとイルスは顔を見合わせ、やがて同時に吹き出した。
「ははっ、まったく。従者にここまで言われては、王太子の名が廃るな」
「違いない。……覚悟を決めるしかなさそうだ」
イルスの瞳から、先ほどの迷いは消えていた。
カイはニヤリと笑い、ルカの頬をつねった。
「いいだろう。俺たちは三人で生きていく。王位も、国も、この秘密も……すべて三人で背負ってやる」
「はい、カイ様」
「そして夜は、三人で愛し合う。……昨夜のようにな」
カイが悪戯っぽく付け加えると、場の空気は一気に弛緩し、甘やかなものへと変わった。
ルカは顔を真っ赤にし、イルスは呆れたように、しかし愛おしげに溜息をついた。
「兄上はすぐにそうやって話を下世話な方向へ持っていく」
「大事なことだぞ? なあ、ルカ」
「あ、あの……お二人とも、そろそろお着替えを……」
窓の外から、新しい朝の光が差し込んでいた。
それは、三人が選んだ「いばらの道」を祝福するように、明るく、力強く降り注いでいた。
もう迷いはない。
表向きは一人の王と、一人の従者。
けれどその実態は、二つの魂とそれを繋ぐ一つの愛。
彼らの本当の物語は、ここから始まるのだ。
「さて、今夜は満月だ。……ルカ、夜にまた、準備をしておけ」
「……はい。お待ちしております」
ルカは二人の王子の顔を交互に見つめ、深く、幸せな一礼をした。
ルカは重いまぶたを持ち上げ、自分が温かく、そして重苦しい何かに挟まれていることに気づいた。
右側には、高い体温を放つ逞しい腕。
左側には、ひんやりと心地よい滑らかな腕。
ルカは、天蓋付きの広大なベッドの中央で、カイとイルス、二人の王子にサンドイッチのように挟まれて眠っていたのだ。
(……昨夜は、凄かった……)
記憶を反芻し、ルカは顔を赤らめた。
目隠しをされたまま、二人の王子に同時に愛された夜。
競い合うようだった二人の愛撫は、次第に互いを補完し合うような絶妙な連携へと変わり、ルカを未知の快楽の頂へと連れ去った。
その余韻が、身体の奥にまだ甘く残っている。
「……目覚めたか、ルカ」
左側から、静かな声が降ってきた。
イルスだった。彼はすでに目を覚ましており、頬杖をついてルカの寝顔を見つめていたようだ。その紫がかった碧眼は、朝の光の中でガラス細工のように透き通って見えた。
「おはようございます、イルス様。……よく眠れましたか?」
「ああ。お前が間にいてくれたおかげでな。……こんなに安らかに眠れたのは、生まれて初めてかもしれない」
イルスの指先が、ルカの前髪を優しく梳く。その表情は穏やかだったが、ふと、どこか寂しげな陰りが差した。
「……だが、この穏やかな時間もいつまで続くか」
「え?」
「父上の病状が思わしくないという情報が入った。……そう遠くない未来、譲位が行われるだろう」
ルカは息を呑んだ。
国王の崩御、そして新国王の即位。それは国中が待ち望む慶事であると同時に、この「双子の秘密」にとって最大の危機が訪れることを意味していた。
即位の儀式、戴冠式、そして終わりのない公務。
衆人環視の中で「一人」を演じ続ける負担は激増する。そして何より――。
「カイが王になれば、光はより強く輝く。そうなれば、影である私の存在意義は薄れる」
イルスは自嘲気味に笑った。
「不要になった影は、歴史の闇に消されるのが定石だ。……あるいは、私自身が消えるべきなのかもしれないな」
「イルス様、何を仰いますか!」
ルカは思わず身を乗り出し、イルスの冷たい手を両手で握りしめた。
「貴方様がいなくては、カイ様も……そして私も、生きてはいけません!」
「ルカ……」
「影などではありません。私にとっては、貴方様もまた、かけがえのない光なのです。どうか……消えるなどと仰らないでください」
必死に訴えるルカの瞳に、イルスの瞳が揺れる。
その時、ルカの右側から伸びてきた腕が、ルカごとイルスを力強く引き寄せた。
「……朝から湿っぽい話をするな、イルス」
不機嫌そうな、しかし力強い声。カイが目を覚ましていた。
彼は半身を起こすと、太陽のような金髪を乱したまま、真っ直ぐに弟を見据えた。
「俺が王になる? ああ、なってやるとも。だがな、俺一人でこの国を背負うつもりなど毛頭ない」
「兄上……しかし、王は唯一無二の存在でなければ……」
「知ったことか。俺たちはずっと二人で生きてきた。これからもだ」
カイはイルスの顎を掴み、強引に自分の方へ向かせた。
「俺にはお前の冷徹な判断力が必要だ。そしてお前には、俺の決断力が必要だろう? ……それに、俺たちには今、共通の『心臓』がある」
カイの視線が、二人の間にいるルカへと落ちる。
「ルカ。お前が俺たちを見分けたあの時、俺たちの運命は変わったんだ。……俺たちはもう、ただの鏡写しの虚像じゃない。お前という存在を通して、初めて『二つの太陽』になれたんだ」
カイの言葉に、ルカの胸が熱くなった。
二つの太陽。
もし空に太陽が二つあれば、世界は灼熱に焼かれてしまうかもしれない。けれど、この小さな寝室の中――三人だけの閉じた世界でなら、それは互いを照らし合う希望の光になり得る。
「……お二人が、二人でいてくださること。それが私の生きる全てです」
ルカは、カイの熱い手と、イルスの冷たい手を重ね合わせ、その上に自分の手を置いた。
「たとえ世界中を欺くことになっても、私はこの秘密を守り抜きます。カイ様が表で輝き、イルス様が裏で支え……そして、お二人が疲れた時は、私がこの場所で癒やしとなります」
「ルカ……」
「共犯者、ですから」
ルカが涙ぐみながら微笑むと、カイとイルスは顔を見合わせ、やがて同時に吹き出した。
「ははっ、まったく。従者にここまで言われては、王太子の名が廃るな」
「違いない。……覚悟を決めるしかなさそうだ」
イルスの瞳から、先ほどの迷いは消えていた。
カイはニヤリと笑い、ルカの頬をつねった。
「いいだろう。俺たちは三人で生きていく。王位も、国も、この秘密も……すべて三人で背負ってやる」
「はい、カイ様」
「そして夜は、三人で愛し合う。……昨夜のようにな」
カイが悪戯っぽく付け加えると、場の空気は一気に弛緩し、甘やかなものへと変わった。
ルカは顔を真っ赤にし、イルスは呆れたように、しかし愛おしげに溜息をついた。
「兄上はすぐにそうやって話を下世話な方向へ持っていく」
「大事なことだぞ? なあ、ルカ」
「あ、あの……お二人とも、そろそろお着替えを……」
窓の外から、新しい朝の光が差し込んでいた。
それは、三人が選んだ「いばらの道」を祝福するように、明るく、力強く降り注いでいた。
もう迷いはない。
表向きは一人の王と、一人の従者。
けれどその実態は、二つの魂とそれを繋ぐ一つの愛。
彼らの本当の物語は、ここから始まるのだ。
「さて、今夜は満月だ。……ルカ、夜にまた、準備をしておけ」
「……はい。お待ちしております」
ルカは二人の王子の顔を交互に見つめ、深く、幸せな一礼をした。
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