双面の王子に愛されています

八百屋 成美

文字の大きさ
12 / 14

12.

しおりを挟む
 小鳥のさえずりが、朝の訪れを告げていた。
 ルカは重いまぶたを持ち上げ、自分が温かく、そして重苦しい何かに挟まれていることに気づいた。
 右側には、高い体温を放つ逞しい腕。
 左側には、ひんやりと心地よい滑らかな腕。
 ルカは、天蓋付きの広大なベッドの中央で、カイとイルス、二人の王子にサンドイッチのように挟まれて眠っていたのだ。

(……昨夜は、凄かった……)

 記憶を反芻し、ルカは顔を赤らめた。
 目隠しをされたまま、二人の王子に同時に愛された夜。
 競い合うようだった二人の愛撫は、次第に互いを補完し合うような絶妙な連携へと変わり、ルカを未知の快楽の頂へと連れ去った。
 その余韻が、身体の奥にまだ甘く残っている。

「……目覚めたか、ルカ」

 左側から、静かな声が降ってきた。
 イルスだった。彼はすでに目を覚ましており、頬杖をついてルカの寝顔を見つめていたようだ。その紫がかった碧眼は、朝の光の中でガラス細工のように透き通って見えた。

「おはようございます、イルス様。……よく眠れましたか?」
「ああ。お前が間にいてくれたおかげでな。……こんなに安らかに眠れたのは、生まれて初めてかもしれない」

 イルスの指先が、ルカの前髪を優しく梳く。その表情は穏やかだったが、ふと、どこか寂しげな陰りが差した。

「……だが、この穏やかな時間もいつまで続くか」
「え?」
「父上の病状が思わしくないという情報が入った。……そう遠くない未来、譲位が行われるだろう」

 ルカは息を呑んだ。
 国王の崩御、そして新国王の即位。それは国中が待ち望む慶事であると同時に、この「双子の秘密」にとって最大の危機が訪れることを意味していた。
 即位の儀式、戴冠式、そして終わりのない公務。
 衆人環視の中で「一人」を演じ続ける負担は激増する。そして何より――。

「カイが王になれば、光はより強く輝く。そうなれば、影である私の存在意義は薄れる」

 イルスは自嘲気味に笑った。

「不要になった影は、歴史の闇に消されるのが定石だ。……あるいは、私自身が消えるべきなのかもしれないな」
「イルス様、何を仰いますか!」

 ルカは思わず身を乗り出し、イルスの冷たい手を両手で握りしめた。

「貴方様がいなくては、カイ様も……そして私も、生きてはいけません!」
「ルカ……」
「影などではありません。私にとっては、貴方様もまた、かけがえのない光なのです。どうか……消えるなどと仰らないでください」

 必死に訴えるルカの瞳に、イルスの瞳が揺れる。
 その時、ルカの右側から伸びてきた腕が、ルカごとイルスを力強く引き寄せた。

「……朝から湿っぽい話をするな、イルス」

 不機嫌そうな、しかし力強い声。カイが目を覚ましていた。
 彼は半身を起こすと、太陽のような金髪を乱したまま、真っ直ぐに弟を見据えた。

「俺が王になる? ああ、なってやるとも。だがな、俺一人でこの国を背負うつもりなど毛頭ない」
「兄上……しかし、王は唯一無二の存在でなければ……」
「知ったことか。俺たちはずっと二人で生きてきた。これからもだ」

 カイはイルスの顎を掴み、強引に自分の方へ向かせた。

「俺にはお前の冷徹な判断力が必要だ。そしてお前には、俺の決断力が必要だろう? ……それに、俺たちには今、共通の『心臓』がある」

 カイの視線が、二人の間にいるルカへと落ちる。

「ルカ。お前が俺たちを見分けたあの時、俺たちの運命は変わったんだ。……俺たちはもう、ただの鏡写しの虚像じゃない。お前という存在を通して、初めて『二つの太陽』になれたんだ」

 カイの言葉に、ルカの胸が熱くなった。
 二つの太陽。
 もし空に太陽が二つあれば、世界は灼熱に焼かれてしまうかもしれない。けれど、この小さな寝室の中――三人だけの閉じた世界でなら、それは互いを照らし合う希望の光になり得る。

「……お二人が、二人でいてくださること。それが私の生きる全てです」

 ルカは、カイの熱い手と、イルスの冷たい手を重ね合わせ、その上に自分の手を置いた。

「たとえ世界中を欺くことになっても、私はこの秘密を守り抜きます。カイ様が表で輝き、イルス様が裏で支え……そして、お二人が疲れた時は、私がこの場所で癒やしとなります」
「ルカ……」
「共犯者、ですから」

 ルカが涙ぐみながら微笑むと、カイとイルスは顔を見合わせ、やがて同時に吹き出した。

「ははっ、まったく。従者にここまで言われては、王太子の名が廃るな」
「違いない。……覚悟を決めるしかなさそうだ」

 イルスの瞳から、先ほどの迷いは消えていた。
 カイはニヤリと笑い、ルカの頬をつねった。

「いいだろう。俺たちは三人で生きていく。王位も、国も、この秘密も……すべて三人で背負ってやる」
「はい、カイ様」
「そして夜は、三人で愛し合う。……昨夜のようにな」

 カイが悪戯っぽく付け加えると、場の空気は一気に弛緩し、甘やかなものへと変わった。
 ルカは顔を真っ赤にし、イルスは呆れたように、しかし愛おしげに溜息をついた。

「兄上はすぐにそうやって話を下世話な方向へ持っていく」
「大事なことだぞ? なあ、ルカ」
「あ、あの……お二人とも、そろそろお着替えを……」

 窓の外から、新しい朝の光が差し込んでいた。
 それは、三人が選んだ「いばらの道」を祝福するように、明るく、力強く降り注いでいた。
 もう迷いはない。
 表向きは一人の王と、一人の従者。
 けれどその実態は、二つの魂とそれを繋ぐ一つの愛。
 彼らの本当の物語は、ここから始まるのだ。

「さて、今夜は満月だ。……ルカ、夜にまた、準備をしておけ」
「……はい。お待ちしております」

 ルカは二人の王子の顔を交互に見つめ、深く、幸せな一礼をした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断られるのが確定してるのに、ずっと好きだった相手と見合いすることになったΩの話。

叶崎みお
BL
ΩらしくないΩは、Ωが苦手なハイスペックαに恋をした。初めて恋をした相手と見合いをすることになり浮かれるΩだったが、αは見合いを断りたい様子で──。 オメガバース設定の話ですが、作中ではヒートしてません。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

捨てられた花屋のオメガは、雨の日に現れたスパダリ社長に溺愛される~抑制剤をやめたら、運命の番に捕まりました~

水凪しおん
BL
花屋『フルール・リリエン』で働くオメガの藍沢湊は、かつて家柄を理由に番(つがい)に捨てられたトラウマから、アルファを頑なに拒絶して生きてきた。 強力な抑制剤でフェロモンを隠し、ひっそりと暮らす湊。しかしある雨の日、店に現れたIT企業社長のアルファ・橘蓮に見初められてしまう。 「この花、あなたに似ている」 毎日店に通い詰め、不器用ながらも真っ直ぐな愛を注ぐ蓮。その深い森のような香りに、湊の閉ざされた心と、抑え込んでいた本能が揺さぶられ始めて――? 傷ついたオメガ×一途で完璧なスパダリ社長。 雨上がりの紫陽花のように涙に濡れた恋が、あたたかな陽だまりに変わるまでの、救済と溺愛のオメガバース。 ※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。

学園一のスパダリが義兄兼恋人になりました

すいかちゃん
BL
母親の再婚により、名門リーディア家の一員となったユウト。憧れの先輩・セージュが義兄となり喜ぶ。だが、セージュの態度は冷たくて「兄弟になりたくなかった」とまで言われてしまう。おまけに、そんなセージュの部屋で暮らす事になり…。 第二話「兄と呼べない理由」 セージュがなぜユウトに冷たい態度をとるのかがここで明かされます。 第三話「恋人として」は、9月1日(月)の更新となります。 躊躇いながらもセージュの恋人になったユウト。触れられたりキスされるとドキドキしてしまい…。 そして、セージュはユウトに恋をした日を回想します。 第四話「誘惑」 セージュと親しいセシリアという少女の存在がユウトの心をざわつかせます。 愛される自信が持てないユウトを、セージュは洗面所で…。 第五話「月夜の口づけ」 セレストア祭の夜。ユウトはある人物からセージュとの恋を反対され…という話です。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

王子と俺は国民公認のカップルらしい。

べす
BL
レダ大好きでちょっと?執着の強めの王子ロギルダと、それに抗う騎士レダが結ばれるまでのお話。

処理中です...