双面の王子に愛されています

八百屋 成美

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 王城の庭園に、白薔薇が咲き乱れる季節が巡ってきた。
 午後の柔らかな日差しの中、ガゼボでくつろぐカイ王子の姿は、一幅の絵画のように美しかった。
 彼は優雅にティーカップを傾け、傍らに控えるルカに視線を投げかける。

「ルカ。茶葉を変えたか?」
「はい、殿下。本日は季節の変わり目ですので、少しスパイスを効かせたブレンドにしております」
「……気が利くな」

 王子は満足げに微笑んだ。
 その微笑みに、ルカもまた、目立たぬように小さく微笑み返す。
 周囲の侍女や護衛たちは、この穏やかな光景を「慈悲深い王子と、優秀な従者」の姿として見ているだろう。
 だが、ルカだけが知っている。
 今、目の前で紅茶を飲んでいるのがカイではなく、イルスであることを。

(カップを持つ指は二本。そして、少し猫舌なのを隠すように、ゆっくりと口をつけていらっしゃる)

 今日の午後は、カイが極秘の公務で城を空けており、イルスが代役を務めているのだ。
 かつては緊張で凍りついていた入れ替わりも、今では三人の日常の一部となっていた。ルカの完璧なサポートと、二人の王子の阿吽の呼吸があれば、誰にも悟られることはない。

「……それにしても、退屈な時間だ」

 周囲に人がいなくなった一瞬の隙を突き、イルスが小声でぼやいた。

「兄上は今頃、馬を駆って視察か。私もたまには外の空気を吸いたいものだ」
「あと少しのご辛抱です、イルス様。……夜になりましたら、特別なお菓子をご用意しておりますので」
「ほう? どんな菓子だ?」
「カイ様がお好きな甘いタルトと……イルス様がお好きな、ビターチョコレートのムースです」

 ルカが耳打ちすると、イルスはふっと表情を緩め、テーブルの下でそっとルカの手を握った。
 冷たく、整った指先。
 その感触だけで、ルカの心臓は甘く跳ねた。

「……私の好みを、よく分かっている」
「当然でございます。私はお二人の、専属従者ですから」

 その時、庭園の入り口が騒がしくなった。
 視察から戻ったカイ本人が、大股でこちらへ歩いてくるところだった。風に靡く金髪、圧倒的な存在感。まさに「太陽」の帰還だ。

「やあ、待たせたな」

 カイがガゼボに入ってくると、イルスは自然な動作で立ち上がり、席を譲るふりをしてすれ違った。
 その一瞬。
 二人の肩が触れ合い、視線が交錯する。
 言葉はない。ただ、信頼と共有された秘密だけが、火花のように散った。

「ふぅ……やはり外は暑いな。ルカ、冷たいものを」
「かしこまりました」

 椅子に座ったのは、今度は本物のカイだ。
 彼はルカが差し出したグラスを豪快に飲み干すと、ニヤリと笑ってルカの腰を引き寄せた。
 護衛たちの死角になる角度で、ルカの首筋に熱いキスを落とす。

「っ、で、殿下……! ここは外です……!」
「構わん。……留守の間、イルスといちゃついていた罰だ」
「いちゃついてなど……!」
「嘘をつけ。お前の顔には『愛されて幸せです』と書いてあるぞ」

 カイは悪戯っぽく笑うと、ルカの耳元で囁いた。

「今夜は寝かせないからな。……二人分溜まっているんだ。覚悟しておけ」

 その言葉に、ルカの顔が沸騰したように赤くなる。
 今夜もまた、あの豪奢なベッドの上で、二つの太陽と月に挟まれ、愛される夜が待っているのだ。
 それは少しハードで、けれど何よりも甘美な約束だった。

「……はい。お待ちしております、私の大切な……王子様たち」

 ルカの小さな呟きは、風にさらわれて消えた。
 白薔薇が咲き乱れる庭園で、三人の秘密は今日も守られている。
 太陽の輝きと、月の静寂。
 相反する二つの光を一身に受け、従者は今日も幸せな溜息をつくのだった。
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