10 / 10
1/1
しおりを挟む
まぶたの裏が明るい。
恐る恐る目を開けると、カーテンの隙間から、突き刺さるような冬の朝日が差し込んでいた。
一月一日。朝。
僕は、生きている。
「……っ!」
ガバッと跳ね起き、隣を見る。
そこには、穏やかな寝息を立てるシエルの姿があった。
透けていない。消えていない。
朝日を浴びて輝く黒髪も、長い睫毛も、布団から覗く白い肩も、すべて確かな質量を持ってそこにある。
「……よかった……」
安堵で涙が滲んだ。
そっと彼の手を取り、自分の頬に寄せる。温かい。昨夜の儀式で感じた熱が、彼の体内にしっかりと根付いているのが分かる。
僕の動きに気づいたのか、シエルの睫毛が震え、ゆっくりと蒼い瞳が開かれた。
「……騒々しいな、レン。もっと静かに起きられないのか」
「あ、ごめん……生きてるか、確認したくて」
「誰に向かって言っている。私は元・死神だぞ」
シエルは不満げに鼻を鳴らしたが、その声には以前のような冷徹な響きはない。
彼は半身を起こすと、僕の腰を引き寄せ、慣れた手つきで抱きしめた。
「おはよう、レン。……そして、明けましておめでとう」
「うん。……あけましておめでとう、シエル」
新年の挨拶を交わせることが、こんなに嬉しいなんて知らなかった。
シエルは僕の首筋――昨夜、彼が何度も噛み付いて跡を残した場所に、愛おしげに唇を寄せた。
「身体の具合はどうだ? 痛みはないか」
「少し、腰が重いけど……でも、すごく元気だよ。身体中から力が湧いてくるみたいだ」
「当然だ。私の魂の半分が、貴様の中で燃えているのだからな」
シエルは得意げに笑った。
彼の中にも、僕の命が流れている。
僕たちはもう、どちらか片方が欠ければ生きていけない「共犯者」なのだ。
「ほら、口を開けろ」
リビングでは、またしてもピンク色のエプロンを着けたシエルが、僕に雑煮を振る舞っていた。
出汁の効いたすまし汁に、焼いた餅と鶏肉、そして彩りの三つ葉。完璧な見た目だ。
「自分で食べられるってば」
「駄目だ。病み上がりの管理は徹底する」
「病気じゃないのに……」
ぶつぶつ言いながらも、差し出された餅をパクリと食べる。
美味しい。
一週間前、コンビニ弁当の味もしなかった僕が、今は出汁の繊細な風味に感動している。
生きているからこそ味わえる、幸せの味だ。
「美味いか?」
「うん。最高に美味しい」
「ならいい。……これから毎日作ってやる」
シエルは満足げに自分の分のお椀に口をつけた。
毎日。
その言葉の響きに、胸が熱くなる。
期間限定じゃない。終わりが見えているカウントダウンでもない。
これから先、何十年と続く「日常」が約束されているんだ。
「ねえ、シエル。食べ終わったら初詣に行こうよ」
「初詣? 昨夜の神社か?」
「うん。ちゃんとお礼を言いたいんだ。僕たちを巡り会わせてくれた場所に」
「……フン。神頼みなど柄ではないが、貴様が行きたいなら付き合ってやる」
素直じゃない相棒に、僕は思わず吹き出した。
外は快晴だった。
冷たい風も、今の僕たちには心地よい。
シエルは黒いコート姿で、人間離れした美貌にすれ違う人々が振り返るが、彼は僕の手を絶対に離そうとしなかった。
繋いだ手から、互いの脈動が伝わってくる。
「……なあ、レン」
「ん?」
神社の長い石段を登りながら、シエルがふと足を止めた。
一週間前、ここで死のうとしていた僕を止めた場所。
そして昨夜、永遠の愛を誓い合った場所。
「貴様は今、幸せか?」
真剣な瞳で問われ、僕は大きく頷いた。
「うん。幸せだよ。……死ななくてよかったって、心から思う」
「そうか」
シエルは目を細め、背景の青空よりも澄み切った笑顔を見せた。
かつて「死神」と呼ばれた彼は、もうどこにもいない。
ここにいるのは、僕を愛し、僕と共に生きることを選んでくれた、ただ一人の大切な人だ。
「これからも覚悟しておけよ、レン。私は貴様が爺になるまで、いや、魂が次の輪廻へ旅立つまで、徹底的に貴様を愛し、管理し続けてやる」
「お手柔らかにお願いします、管理官殿」
僕たちは顔を見合わせ、笑い合った。
そして、新しい一年への一歩を踏み出す。
もう、「明日」が来ることは怖くない。
隣にはいつだって、彼がいるのだから。
恐る恐る目を開けると、カーテンの隙間から、突き刺さるような冬の朝日が差し込んでいた。
一月一日。朝。
僕は、生きている。
「……っ!」
ガバッと跳ね起き、隣を見る。
そこには、穏やかな寝息を立てるシエルの姿があった。
透けていない。消えていない。
朝日を浴びて輝く黒髪も、長い睫毛も、布団から覗く白い肩も、すべて確かな質量を持ってそこにある。
「……よかった……」
安堵で涙が滲んだ。
そっと彼の手を取り、自分の頬に寄せる。温かい。昨夜の儀式で感じた熱が、彼の体内にしっかりと根付いているのが分かる。
僕の動きに気づいたのか、シエルの睫毛が震え、ゆっくりと蒼い瞳が開かれた。
「……騒々しいな、レン。もっと静かに起きられないのか」
「あ、ごめん……生きてるか、確認したくて」
「誰に向かって言っている。私は元・死神だぞ」
シエルは不満げに鼻を鳴らしたが、その声には以前のような冷徹な響きはない。
彼は半身を起こすと、僕の腰を引き寄せ、慣れた手つきで抱きしめた。
「おはよう、レン。……そして、明けましておめでとう」
「うん。……あけましておめでとう、シエル」
新年の挨拶を交わせることが、こんなに嬉しいなんて知らなかった。
シエルは僕の首筋――昨夜、彼が何度も噛み付いて跡を残した場所に、愛おしげに唇を寄せた。
「身体の具合はどうだ? 痛みはないか」
「少し、腰が重いけど……でも、すごく元気だよ。身体中から力が湧いてくるみたいだ」
「当然だ。私の魂の半分が、貴様の中で燃えているのだからな」
シエルは得意げに笑った。
彼の中にも、僕の命が流れている。
僕たちはもう、どちらか片方が欠ければ生きていけない「共犯者」なのだ。
「ほら、口を開けろ」
リビングでは、またしてもピンク色のエプロンを着けたシエルが、僕に雑煮を振る舞っていた。
出汁の効いたすまし汁に、焼いた餅と鶏肉、そして彩りの三つ葉。完璧な見た目だ。
「自分で食べられるってば」
「駄目だ。病み上がりの管理は徹底する」
「病気じゃないのに……」
ぶつぶつ言いながらも、差し出された餅をパクリと食べる。
美味しい。
一週間前、コンビニ弁当の味もしなかった僕が、今は出汁の繊細な風味に感動している。
生きているからこそ味わえる、幸せの味だ。
「美味いか?」
「うん。最高に美味しい」
「ならいい。……これから毎日作ってやる」
シエルは満足げに自分の分のお椀に口をつけた。
毎日。
その言葉の響きに、胸が熱くなる。
期間限定じゃない。終わりが見えているカウントダウンでもない。
これから先、何十年と続く「日常」が約束されているんだ。
「ねえ、シエル。食べ終わったら初詣に行こうよ」
「初詣? 昨夜の神社か?」
「うん。ちゃんとお礼を言いたいんだ。僕たちを巡り会わせてくれた場所に」
「……フン。神頼みなど柄ではないが、貴様が行きたいなら付き合ってやる」
素直じゃない相棒に、僕は思わず吹き出した。
外は快晴だった。
冷たい風も、今の僕たちには心地よい。
シエルは黒いコート姿で、人間離れした美貌にすれ違う人々が振り返るが、彼は僕の手を絶対に離そうとしなかった。
繋いだ手から、互いの脈動が伝わってくる。
「……なあ、レン」
「ん?」
神社の長い石段を登りながら、シエルがふと足を止めた。
一週間前、ここで死のうとしていた僕を止めた場所。
そして昨夜、永遠の愛を誓い合った場所。
「貴様は今、幸せか?」
真剣な瞳で問われ、僕は大きく頷いた。
「うん。幸せだよ。……死ななくてよかったって、心から思う」
「そうか」
シエルは目を細め、背景の青空よりも澄み切った笑顔を見せた。
かつて「死神」と呼ばれた彼は、もうどこにもいない。
ここにいるのは、僕を愛し、僕と共に生きることを選んでくれた、ただ一人の大切な人だ。
「これからも覚悟しておけよ、レン。私は貴様が爺になるまで、いや、魂が次の輪廻へ旅立つまで、徹底的に貴様を愛し、管理し続けてやる」
「お手柔らかにお願いします、管理官殿」
僕たちは顔を見合わせ、笑い合った。
そして、新しい一年への一歩を踏み出す。
もう、「明日」が来ることは怖くない。
隣にはいつだって、彼がいるのだから。
6
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された
あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると…
「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」
気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
初めましてです。お手柔らかにお願いします。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しております
入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?
monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。
そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。
主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。
※今回の表紙はAI生成です
※小説家になろうにも公開してます
学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました
こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。
自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話
あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」
トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。
お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。
攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。
兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。
攻め:水瀬真広
受け:神崎彼方
⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。
途中でモブおじが出てきます。
義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。
初投稿です。
初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
オメガだと隠して魔王討伐隊に入ったら、最強アルファ達に溺愛されています
水凪しおん
BL
前世は、どこにでもいる普通の大学生だった。車に轢かれ、次に目覚めた時、俺はミルクティー色の髪を持つ少年『サナ』として、剣と魔法の異世界にいた。
そこで知らされたのは、衝撃の事実。この世界には男女の他に『アルファ』『ベータ』『オメガ』という第二の性が存在し、俺はその中で最も希少で、男性でありながら子を宿すことができる『オメガ』だという。
アルファに守られ、番になるのが幸せ? そんな決められた道は歩きたくない。俺は、俺自身の力で生きていく。そう決意し、平凡な『ベータ』と身分を偽った俺の前に現れたのは、太陽のように眩しい聖騎士カイル。彼は俺のささやかな機転を「稀代の戦術眼」と絶賛し、半ば強引に魔王討伐隊へと引き入れた。
しかし、そこは最強のアルファたちの巣窟だった!
リーダーのカイルに加え、皮肉屋の天才魔法使いリアム、寡黙な獣人暗殺者ジン。三人の強烈なアルファフェロモンに日々当てられ、俺の身体は甘く疼き始める。
隠し通したい秘密と、抗いがたい本能。偽りのベータとして、俺はこの英雄たちの中で生き残れるのか?
これは運命に抗う一人のオメガが、本当の居場所と愛を見つけるまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる