余命一週間の社畜は、死神の甘やかな管理下に堕ちる

八百屋 成美

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 雨音はもう聞こえない。
 世界には今、互いの荒い呼吸音と、衣擦れの音、そして濡れた水音だけが支配していた。

「ん……ぁ……っ」

 貪るような口づけが、永遠に続くかと思われた。
 シエルの唇は氷のように冷たいはずなのに、そこから流れ込んでくる熱量は、溶岩のように熱い。彼が舌を絡め、僕の唾液を吸い上げるたびに、口の中だけでなく、肺の奥、胃の腑、さらには魂の輪郭までもが彼に侵食されていく錯覚に陥る。
 酸素が欠乏し、頭がクラクラする。けれど、シエルは唇を離そうとしない。
 まるで、僕の吐き出す二酸化炭素さえも、彼にとっては生きるための糧であるかのように、必死に、飢えた獣のように吸い尽くそうとしてくる。

「ぷはっ……はぁ、はぁ、シエ、ル……!」

 ようやく唇が離れた時、二人の口元には銀色の糸が引いていた。
 シエルの顔は、今まで見たことがないほど妖艶で、切迫していた。蒼白だった頬には、微かに紅潮が差している。僕のエネルギーが、彼の中に流れ込み始めている証拠だ。

「……甘いな」

 シエルが親指で、僕の唇に残った唾液を拭い、それを自身の舌で舐め取った。

「貴様の魂の味だ。……これほど濃く、甘露のような味は、長い時を生きてきた中でも味わったことがない」
「……全部、あげるよ。君が生きられるなら」
「ああ。もらおう。一滴残らず、骨の髄まで」

 シエルは僕を抱き寄せると、そのまま背後の社殿の縁側――濡れ縁へと押し倒した。
 背中に硬い木の感触と、冷気が伝わる。けれど、すぐにシエルの身体が覆いかぶさり、その冷たさを遮断した。

「ここでするの……? 神様の前だよ」
「構わん。我々が行うのは、神の理に背く『命の共有』だ。これ以上の背徳はない」

 シエルは僕の濡れたシャツのボタンに手をかけた。
 白く長い指が、震えながらボタンを一つずつ外していく。布がはだけるたびに、冷たい空気が肌を撫でるが、直後にシエルの熱い視線がそこを焼き尽くす。
 シャツが脱がされ、ベルトが緩められる。
 やがて僕は、神聖な神社の境内で、生まれたままの姿を晒していた。
 恥ずかしさよりも、彼に見られているという高揚感が勝っていた。彼の瞳の奥に宿る、暗く重い独占欲が、僕の存在価値を肯定してくれている気がしたからだ。

「美しい……」

 シエルが、聖遺物に触れるような手つきで、僕の喉仏をなぞった。

「一週間前、駅のホームで見た時は、今にも壊れそうな硝子細工のようだった。だが今は……こんなにも強く、命の光を放っている」

 指先が鎖骨を滑り、胸の突起を愛おしげに摘む。

「ひっ……!」
「感じるか、レン。ここには私の魔力を重点的に注いだはずだ」

 コリ、と爪先で弾かれるだけで、脳髄に電撃が走った。
 数日前の「治療」の記憶が蘇る。あの時、彼に開発された身体は、彼の接触を待ちわびるように作り変えられてしまっていたのだ。

「シエル……触って、もっと……」
「焦るな。儀式は丁寧に行わねば、魂が混ざり合わない」

 シエルは僕の両足首を掴むと、ゆっくりと左右に割り開いた。
 シエルはその間に跪き、まるで神に祈りを捧げる信徒のように、僕の太腿に額を押し当てた。そして、そのまま吸い付くように内腿へと口づけを落としていく。

「あ、ん……っ! くすぐった、い……」
「ここは、血管が皮膚に近い。貴様の温かい血が、脈打っているのが分かる」

 チュ、クチュ、という水音が静寂に響く。
 膝の裏、太腿の内側、そして股間の付け根。
 シエルの舌は、僕の下半身を執拗に這い回った。ただの愛撫ではない。彼が唇を寄せた場所から、体内の力が吸い出され、代わりに彼の冷やりとした霊力が注ぎ込まれていく感覚がある。
 循環しているのだ。僕の「生」と、彼の「死」が。

「ぁ……あ……そこ、は……ッ!」

 不意に、シエルの舌先が、僕の昂った自身の先端を掠めた。
 ビクリと腰が跳ねる。だがシエルは逃がさない。両手で僕の腰をしっかりと固定し、その熱い塊を口の中に含んだ。

「ひぐっ……!?」

 温かく湿った口腔内の感触。巧みに動く舌。そして時折当たる鋭い犬歯の刺激。
 死神に奉仕されているという背徳感が、快楽を何倍にも膨れ上がらせる。
 視界が白く明滅する。
 目の前で、僕のものを咥えながら上目遣いに見つめてくるシエルの瞳が、妖しく光っていた。彼は僕の快楽を啜っているのだ。僕が感じれば感じるほど、そのエネルギーが彼を癒やしていく。

「あ、だめ、シエル……いっ、ちゃう……!」

 限界が近いことを告げると、シエルは口を離し、銀色の糸を引かせながら妖艶に微笑んだ。

「まだだ。ここから出すわけにはいかない。……本来の場所で繋がらなければ」

 彼は懐から、小さな小瓶を取り出した。
 蓋を開けると、ふわりと甘く、どこかスパイシーな香りが漂う。
 中に入っていたのは、透き通るような青い液体だった。

「これは……?」
「私の魂の一部を液状化したものだ。これを潤滑剤として使い、貴様の深奥へ道を拓く」

 シエルはその冷たい液体を自身の指にたっぷりと絡ませると、僕の秘所へとあてがった。
 ヒヤリとした感触。続いて、ヌルリと指が侵入してくる。

「ん、ぅ……!」

 異物感。けれど、それはすぐに熱へと変わった。
 あの液体が、体温に触れた途端にカッと熱を発し、内側の粘膜を溶かすように馴染んでいくのだ。

「熱い……! シエル、中が、熱いよ……!」
「馴染んでいる証拠だ。私の魂が、貴様の身体に受け入れられている」

 シエルは指を増やし、内壁を広げるように優しく、しかし執拗に動かした。
 クチュ、クチュ、という卑猥な音が、鐘の音の合間に響く。
 彼の指が動くたびに、青い液体が白く泡立ち、僕の理性を溶かしていく。敏感な場所を擦られ、僕は縁側の板に爪を立てて喘いだ。

「あ、あ、そこ……っ! 深い、すごい……っ!」
「……十分にほぐれたな。……レン、怖くはないか?」

 準備を終えたシエルが、自身のズボンを寛げ、雄々しく猛ったその身を露わにした。
 人間離れした大きさ。そして、青白い燐光を纏ったそれは、まさに神具のような威圧感を放っている。
 これから、あれが僕の中に入る。
 僕の寿命を吸い上げ、彼の存在を僕に刻み込むための楔。

「怖くないよ」

 僕は汗ばんだ手で、シエルの頬に触れた。

「だって、これは僕たちが一つになるための儀式だから。……早く、シエル。僕を君で満たして」
「……愛している、レン」

 シエルは僕の腰を持ち上げると、ゆっくりと、先端をあてがった。
 
「ぐっ……ぅ……!」

 裂けるような感覚と、圧倒的な充足感が同時に襲ってきた。
 シエルの楔が、ミリミリと僕の中を押し広げながら進んでくる。
 物理的な痛みはある。けれど、それ以上に「入ってきている」という魂の震えが凄まじい。
 彼が侵入した部分から、僕の血管に彼の魔力が流れ込み、僕の血液が彼の楔へと吸い込まれていく。
 境界線が消えていく。
 僕と彼が、混ざり合っていく。

「はぁ、くっ……きつい……だが、温かい……」

 根元まで埋め込まれた瞬間、シエルが苦しげに、けれど恍惚とした吐息を漏らした。
 僕たちは繋がったまま、しばらく動けなかった。
 お腹の奥に、彼の脈動が直接響く。ドクン、ドクン、と二つの心臓が同じリズムを刻もうとして、激しく打ち合っている。

「レン……動くぞ」
「うん……っ、お願い……!」

 シエルが腰を引く。そして、勢いよく打ち付ける。
 パンッ! という皮膚がぶつかり合う音と、クチュッという水音が重なる。

「あぁっ! あ、んっ! シエ、ル……ッ!」
「いい声だ……もっと、もっと私を呼べ……!」

 シエルの動きは、最初こそ慎重だったが、すぐに激しさを増していった。
 獣のような荒々しさで、僕の最奥を何度も何度も叩く。
 突かれるたびに、目の裏に星が散る。
 快感が鋭利な刃物となって、思考を切り裂いていく。
 世界の全てが、シエルの与える熱と衝撃だけに集約されていく。

「あ、あ、そこっ! だめ、おかしくなるッ! 溶けちゃう、魂まで溶けちゃうよぉッ!」
「溶けろ! 私と一つになれ! 貴様の寿命も、魂も、未来も、全て私のものだ!」

 シエルの瞳が、青く発光していた。
 人間離れした美貌が、快楽と征服欲に歪んでいる。
 彼は僕の脚を肩に担ぎ上げると、更に深く、逃げ場のない角度で腰を打ち付けた。
 内臓が押し上げられるような感覚。苦しい。でも、気持ちいい。
 彼に喰われている。彼に侵されている。
 その事実が、たまらなく幸せだった。

「シエル……っ、好き、大好きだ……ッ!」
「レン……ッ、私もだ……誰にも渡さん……ッ!」

 何度目かの絶頂を迎え、僕の意識は朦朧としていた。
 けれど、シエルの楔は衰えることを知らない。
 むしろ、僕から吸い上げた寿命をエネルギーに変え、さらに大きく、硬くなっているようにさえ感じる。

「レン、くる……ッ! 受け止めろ、私の全てを!」
「シエルっ、中、中に……っ! いっぱい、出してぇッ!」

 僕たちは互いに強く抱きしめ合い、最後のスパークを迎えた。
 シエルの腰が、限界まで深く押し込まれ、止まる。

「ぐ、ぅおおおおおッ!!」
「あ、ぁぁぁぁあああッ!!」

 ドクン! ドクン! ドクン!
 僕の体内で、シエルの楔が大きく脈打った。
 熱い、灼熱の奔流が、勢いよく注ぎ込まれる。
 それは精液という物質を超えた、高密度の光の塊だった。
 お腹の中から身体全体へ、光が広がっていく。指先まで、髪の毛の一本一本まで、シエルの色が満ちていく。
 同時に、僕の中からも何かが――僕の命の半分が、彼の中へと流れ込んでいくのを感じた。
 失われる感覚ではない。
 共有する感覚。
 僕の半分が彼になり、彼の半分が僕になる。
 視界が真っ白に染まった。
 その白光の中で、僕は確かに見た。
 透けかけていたシエルの身体が、確かな輪郭と色彩を取り戻し、以前よりも力強く輝くのを。
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