閻魔大王の判決

みゆたろ

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出会い

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それは真冬の寒い日の事だった。
一部では雪が降っていると、天気予報が伝えている。
ゆう気はその時、場末のクラブで働いていた。
そこにお客さんとして、飲みに来たのが山田大介だった。
彼はいつも疲れた顔をしていた。
簡単に料金の説明をしていると、ゆう気に聞いた。
「ーー指名なんてあるの?」
「はい。ありますよ」
「じゃ君でいいよ。指名するからおいで」
「ありがとうございます」
一目見た瞬間から、変わっている。
仕事じゃなければ関わりたくない人だ。それがゆう気の中で、彼の第一印象だった。

「こんばんは」
物珍しいものを見るようにして、彼の顔を見上げた。
「よかったら何か飲み物持っておいでよ」
「ありがとうございます」
席を離れ、ゆう気はドリンクをオーダーする。
当たり障りのないところから、共通する会話を探していく。
彼は疲れきった顔をしているだけで、話してみると、意外にも普通の人のようだった。
会話も普通に繋がるし、イヤなお客様ではない事がその日のうちにわかった。
「彼女はいるんですか?」
なんて興味もないクセに聞いているのは、ゆう気の方だった。
「彼女なんてそんなーー忙しくて、それどころじゃなくて、、」
彼はうつむいている。
相当忙しいのだろう。座っているそのシルエットがとても淋しそうに見えた。
その姿が妙にゆう気の記憶に刻まれている。それはいつもの事だった。ゆう気は一度席に着いて会話をしたら、人の顔は忘れないーー。
それが二人の出逢いだ。
店で大介と一緒に飲む事が増えていく。
大介と知り合って、3ヶ月ほど経った頃。ゆう気はアフターをするようになった。
そんな時だった。真夜中の飲み屋をはしごして、その帰り道に元恋人の山崎拓海に会ったのはーー。
拓海は泥酔している。
「ーーどうゆう事だ?これは?」
喧嘩口調で拓海が言う。
「ーーどうもこうもないでしょ?あなたとはもう終わったんだから?」
「終わった?よく終わったって言えるな!!俺がまだ納得してないのに?」
ゆう気の右の頬に、鋭い痛みが走った。
痛みが走った方の頬を撫でる。
ーー血だ、、。
突然の事だった。
一体、何が起きたのか?ーー理解するまでに時間がかかったが、私はどうやら切りつけられたようだ。
頬に赤い血が滴り落ちている。
「あんた誰だ?」
突然、ゆう気を切りつけられた事で、普段は温厚な大介が感情を露にしている。
「ーーこいつの彼氏だよ」
チラッとゆう気を見ながら、拓海が言う。
「ーーへぇ。彼氏ねぇ、、」
まったく興味なさそうな表情。
大介は続けて言った。
「彼氏ってのは好きな女をどこまで護れるか?ーーだろ?好きな女を傷つける男に、彼氏を語る資格はねー」
そう言って、拓海の胸ぐらを掴み馬乗りになって大介は思い切り殴り続けた。
拓海の手からナイフが転がり落ちる。
すかさずそれを拾った大介は、拓海の首筋にそれを押し付けると言った。
「ーーいいか、もう二度と彼女に近づくな。次はお前を殺す」
大介のその表情は冷静で、残酷に見えた。
「覚えてろよ」
捨て台詞を残して、拓海は弱々しく走り去っていく。
「ーーごめんね。それとありがとう」
ゆう気は小さく頭を下げる。
「気にしなくていい。ゆう気は悪くない。俺の方こそ感情的になって、怖い思いをさせてしまってすまない、、」
そう言って、大介は優しくゆう気を抱き寄せた。
「こんなタイミングで言うのもなんだけど、、俺はゆう気の事が好きだ。もし、特定の人がいないのなら、俺と付き合ってほしい」
「ありがとう」

それから半年後。
早くも二人は男女の関係へと発展していた。
大介は拓海とは正反対の男だ。
拓海といると息苦しい毎日だったが、大介は毎日のように傷ついた心を癒してくれる。
ゆう気には大介との生活が幸せに思える。
そんな風に思いながら毎日を過ごせるのは、ゆう気の人生では初めての事だった。
そんな暮らしが始まって、ちょうど一年目の記念日の前日の事だ。
突然、ケータイが震えた。
ディスプレイには名前は出ていない。
「もしもし」
緊張気味な声で対応する。
「もしもし、こちら××病院ですが、土屋ゆう気さんですか!?」
「はい。そうですが何か?」
「鈴木大介さんの彼女さんですか?」
「ーーはい。大介に何かあったんですか?」
「はい。過労で倒れまして、今意識不明の重体ですーー××病院まで来る事は可能ですか?」
「ーーすぐ行きます」
「お待ちしています」
まだ時刻は夜の八時を回ったばかりだった。
ーー大介が倒れたなんて、、。信じられない、、。
××病院へは、歩いても10分弱で着けるはずだ。急いでゆう気は家を飛び出した。
10分弱の病院までの距離が、すごく遠く感じた。ーー大介が待ってる、、。
病院に到着するとナースセンターに行き、大介の病室を尋ねた。
大介が眠っている病室につくと、ゆう気は何度も大介の名を呼んだ。
涙が溢れてくる、、。
医師が病室内に入ってきた。
「鈴木大介さんの恋人のゆう気さんですね?」
「はい」
「こちらへどうぞ」
医師に誘導されるまま、カンファレンスルームへと入っていく。
「ーー鈴木大介さまですが、意識を失って倒れる前に、あなたの名前を呼んでいたそうなので、あなたにご連絡させて頂きました」
「はい。ご連絡ありがとうございます。もー何が何だかよくわからないんですが、、どうしてこうなったんですか?」
「過労ですね、、働きすぎです」
「今はどうゆう状態なんでしょうか?」
「言いにくい事なんですが、、今、大介さまは心肺停止状態になっていまして、全力を尽くしていますが、それでも今日、明日が危険な状態です」
ーーそんな、、。
ふらついてゆう気は倒れた。
看護師がゆう気に駆け寄る。
「土屋さん、、土屋さん、、大丈夫ですか?」
呼び掛けに応答はない。
脈を計り、医師が診察する。
一気に疲れたようだ。
栄養剤を点滴して彼女を横にならせる。精神的な疲れだろう。
「彼女の方は、すぐに目覚めるだろう」と医師が言った。
30分もすると彼女は目覚める。
「ーーここは?」
意識が呆然としている。
「病院です。もう大丈夫ですよ」
「大介、、大介は?」
「鈴木さんはまだ眠っていますが、大丈夫ですよ」
「さっきの看護師さんは、心肺停止状態で、今日明日が危ないって、、」
まるで口答えする子供のように、ゆう気はボソボソと呟いている。
「ーー大丈夫。あなたが待ってるのは彼も分かってるから、心配しないで」
ゆう気の手を握りながら、看護師は安心させるように言った。
「ーーそう、、ですよね?」
ゆう気は病室を出て、大介の顔を見に言った。
彼は眠っていた。その隣で心電図の音が不気味な音を立てている。
「ーー大介、、目をさましてよ」
ゆう気の大きな目に涙が溢れてきた。
声も発する事もなく、ただ眠り続ける大介の手はまだ温かい気がする。
ーーこのまま消えてしまいそうな程にか細い、大介の命の光が見えた気がした。
「ーーお願い。大介、、戻ってきて」
眠っている大介の横で、彼の顔を見ていると頭がどうにかなってしまいそうだった。
屋上に行って、夜風に吹かれよう。
そう思って、ゆう気は屋上に向かった。
無限大に広がる夜景が、ゆう気を迎えてくれているように思えた。
柔らかい風が吹いてる。
ゆう気はフラッとよろめいた。
足を踏み外し、ゆう気は四階建ての病院の屋上から、地面へ一直線に落ちて行く。
その時、大介の温かい声が聞こえた気がした。
「ーーこっちへおいで」と。

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