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約束
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10分もすると、夕夏の腕の傷口も塞がりつつあった。
血も少しずつ止まってきている。
「ーーもー大丈夫だよ」
ペロペロと舐められた腕に消毒液をかけてから、夕夏が言う。
その姿を翔大は黙って見つめている。
傷口は対した事のないモノだったが、人の言葉が話せる賢い犬でも、心配なようだ。
大丈夫だ。
そう言っているのに、不安そうにじっとそれを見つめている。
ーーほんとに?
ーーほんとに大丈夫?
何度も夕夏に問いかけてみるが、言葉にならない。
初めてだ。
人を引っ掻いてしまったのも、その相手が一番大切にしてくれてる夕夏だったのも、そのすべてが自責の念に囚われる原因になっていた。
しばらくすると赤い液体は、変な皮になった。
それが何なのか?わからないけど、液体が滴り落ちる事がないから、ちょっとだけ安心する。
「ーークゥーン」
遠慮がちに少し甘えてみる。
嫌われていないだろうか?
まだ可愛がってくれるだろうか?
不安だけで心が一杯になっていく。
ワンッ。
後ろから翔大の声がした。
「ーーそこどいて」
夕夏を傷つけた母に対して、翔大は怒っている。
「ーーやだ」
柴ちゃんが精一杯の抵抗をしている。
ワンッ。
両方で犬が喧嘩を始めた。
「ーーまぁまぁ」
夕夏は少しだけ嬉しい気分になる。
犬と戯れるこんな時間が欲しかったんだ。
「ーー柴ちゃんはここにいて」
夕夏が言った。
「ーー翔大はこっち」
望み通りになっているようで、警戒していた翔大がおとなしくなる。
犬たちの背中をなでながら、夕夏は静かに語った。
「ありがとうね。いつも一緒にいてくれて。ーーでもね、喧嘩はしてほしくないんだ。わかってくれる?」
夕夏の静かな口調に、つい、犬後で答えていた。
「ーークゥーン」
「よしよし。分かる?」
「ーーうん。わかる」
二匹の犬の声が重なった。
「じゃ喧嘩はしないって約束して」
「ーーもう喧嘩はしない」
柴ちゃんの言葉に、翔大が同意の意を示す。
「約束してくれてありがとう」
血も少しずつ止まってきている。
「ーーもー大丈夫だよ」
ペロペロと舐められた腕に消毒液をかけてから、夕夏が言う。
その姿を翔大は黙って見つめている。
傷口は対した事のないモノだったが、人の言葉が話せる賢い犬でも、心配なようだ。
大丈夫だ。
そう言っているのに、不安そうにじっとそれを見つめている。
ーーほんとに?
ーーほんとに大丈夫?
何度も夕夏に問いかけてみるが、言葉にならない。
初めてだ。
人を引っ掻いてしまったのも、その相手が一番大切にしてくれてる夕夏だったのも、そのすべてが自責の念に囚われる原因になっていた。
しばらくすると赤い液体は、変な皮になった。
それが何なのか?わからないけど、液体が滴り落ちる事がないから、ちょっとだけ安心する。
「ーークゥーン」
遠慮がちに少し甘えてみる。
嫌われていないだろうか?
まだ可愛がってくれるだろうか?
不安だけで心が一杯になっていく。
ワンッ。
後ろから翔大の声がした。
「ーーそこどいて」
夕夏を傷つけた母に対して、翔大は怒っている。
「ーーやだ」
柴ちゃんが精一杯の抵抗をしている。
ワンッ。
両方で犬が喧嘩を始めた。
「ーーまぁまぁ」
夕夏は少しだけ嬉しい気分になる。
犬と戯れるこんな時間が欲しかったんだ。
「ーー柴ちゃんはここにいて」
夕夏が言った。
「ーー翔大はこっち」
望み通りになっているようで、警戒していた翔大がおとなしくなる。
犬たちの背中をなでながら、夕夏は静かに語った。
「ありがとうね。いつも一緒にいてくれて。ーーでもね、喧嘩はしてほしくないんだ。わかってくれる?」
夕夏の静かな口調に、つい、犬後で答えていた。
「ーークゥーン」
「よしよし。分かる?」
「ーーうん。わかる」
二匹の犬の声が重なった。
「じゃ喧嘩はしないって約束して」
「ーーもう喧嘩はしない」
柴ちゃんの言葉に、翔大が同意の意を示す。
「約束してくれてありがとう」
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