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宝物
その二
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その事は取引先への搬入作業に追われている赤岩と村木の元にもすぐ報せが入る。二人共まどかの緊急事態に多少の動揺はあったものの、今は香世子と角松に任せようととにかく仕事に集中した。当然角松の両親にもこの事が伝えられ、二人はすぐさま病院に向かって嫁の無事を祈っているところだ。
「おはようさ~ん、『赤岩青果店』でーす!」
最後の搬入先となる『オクトゴーヌ』に到着した村木は、いつもの様に食材の入った段ボール箱を厨房に入れていく。この日小野坂は昼からの勤務でこの場には居なかった。
幸い顔見て勘付く奴はいない、ここが終われば病院に……と思っていたところに堀江がそのままでええよ、と声を掛けた。
「これで搬入終わりやろ?あとは自分らでやるから病院行ってき」
香世子さんから連絡があった。堀江は村木の作業を止めさせる。
「カヨちゃんと正が付いてるしたから仕事はちゃんとすっぺ」
村木は無理のある営業スマイルを見せて作業を続けようとする。
「今日くらい家の事優先し、今の時間なら全員……」
『礼っ!これ全部出すのか!?』
と外から聞こえてきた小野坂の声が堀江の言葉の続きを遮り、それとほぼ同時に段ボール箱を抱えた小野坂が半開きのドアを足蹴りして厨房に入る。
「智君、ドア蹴るんやめて……」
「しょうがねえだろ、手ぇ塞がってんだからさ。それより車ん中の箱全部ウチの分か?」
「おっ、おぅ……」
珍しく気圧されてしまった村木は辿々しく頷く事しか出来ずにいると、一番下っ端であるはずの小野坂がその場にいる先輩たちに指示を飛ばし始めた。
「仁はそこの荷物冷蔵庫に入れる!悌っ!テーブルの方まだか!?」
「今終わりましたよぉ……どうしたんです智さん?」
テーブルメイクを終えて厨房に入ってきた根田は、いつになく慌ただしく動く後輩を不思議そうに見つめている。
「なら仁と一緒にそれ片せ!義、そこに置いてくからその辺のやつ別んとこにどかしてくれ」
「うん」
調理を一段落付けた川瀬は素早く通路になりそうな場所を片付け始める。それにつられるように堀江と根田も入荷されたばかりの食材入りの段ボール箱を冷蔵庫に入れ始める。
「お前はこっち、さっさと搬入済ますぞ」
この中では何だかんだで経験値と年齢が上の小野坂がこの場を仕切り、妹の容態に内心動揺していた村木も、どうにか気持ちを奮い立たせて目の前の仕事を片付ける事に気持ちを向けていた。
同じ頃、別の車で搬入作業を行っていた赤岩もまた最後の搬入先である『アウローラ』で作業を進めていた。
「おはようごさいます、『赤岩青果店』です!」
毎度どうもと『アウローラ』の調理班はいつも通り言葉は返すも作業の手は休めない。接客担当の従業員は雪路も含め女性ばかりなので、青果の入荷がさほど多くない事もあり赤岩が勝手知ったるとばかり冷蔵庫に入れていく。
まどかは無事かい?赤岩もその事が脳内を支配していた。かと言ってあくまでこれは個人的事情であり、顧客にとっては全く関係の無い事である。
仕事に私情は挟めない……五十歳が見えている彼にとって未経験の事ではないものの、自身よりも遥かに年下である姪っ子の生命の危機ともなると些か気の持ちようも変わってしまうものだ。
「おはようございます遠さん、まどかちゃん今日から入院なんですよね?」
あっという間に搬入を終えた赤岩に雪路がいつもの様に声を掛ける。
「おはようさん、さっきちょべっと早目に病院に行ったって連絡があったべ」
ひょっとすると香世子が気を利かせて雪路には連絡してるかも知れないと思い、詳細は割愛して事実を伝える。
「らしいですね、陣痛が始まったって……十日ほど早いですよね?」
「んだな……これから一旦帰ってから病院に寄ってみんべ、何かあったら連絡すっから」
「はい、宜しくお願いします。落ち着きましたらお祝いさせてくださいね」
「ありがとう、本人にそう伝えとくべ」
赤岩は雪路の気持ちだけを受け取って運転席に乗り込んだ。どうか無事で……その気持ちだけを胸に車を走らせ、店には戻らず病院に直行した。
「おはようさ~ん、『赤岩青果店』でーす!」
最後の搬入先となる『オクトゴーヌ』に到着した村木は、いつもの様に食材の入った段ボール箱を厨房に入れていく。この日小野坂は昼からの勤務でこの場には居なかった。
幸い顔見て勘付く奴はいない、ここが終われば病院に……と思っていたところに堀江がそのままでええよ、と声を掛けた。
「これで搬入終わりやろ?あとは自分らでやるから病院行ってき」
香世子さんから連絡があった。堀江は村木の作業を止めさせる。
「カヨちゃんと正が付いてるしたから仕事はちゃんとすっぺ」
村木は無理のある営業スマイルを見せて作業を続けようとする。
「今日くらい家の事優先し、今の時間なら全員……」
『礼っ!これ全部出すのか!?』
と外から聞こえてきた小野坂の声が堀江の言葉の続きを遮り、それとほぼ同時に段ボール箱を抱えた小野坂が半開きのドアを足蹴りして厨房に入る。
「智君、ドア蹴るんやめて……」
「しょうがねえだろ、手ぇ塞がってんだからさ。それより車ん中の箱全部ウチの分か?」
「おっ、おぅ……」
珍しく気圧されてしまった村木は辿々しく頷く事しか出来ずにいると、一番下っ端であるはずの小野坂がその場にいる先輩たちに指示を飛ばし始めた。
「仁はそこの荷物冷蔵庫に入れる!悌っ!テーブルの方まだか!?」
「今終わりましたよぉ……どうしたんです智さん?」
テーブルメイクを終えて厨房に入ってきた根田は、いつになく慌ただしく動く後輩を不思議そうに見つめている。
「なら仁と一緒にそれ片せ!義、そこに置いてくからその辺のやつ別んとこにどかしてくれ」
「うん」
調理を一段落付けた川瀬は素早く通路になりそうな場所を片付け始める。それにつられるように堀江と根田も入荷されたばかりの食材入りの段ボール箱を冷蔵庫に入れ始める。
「お前はこっち、さっさと搬入済ますぞ」
この中では何だかんだで経験値と年齢が上の小野坂がこの場を仕切り、妹の容態に内心動揺していた村木も、どうにか気持ちを奮い立たせて目の前の仕事を片付ける事に気持ちを向けていた。
同じ頃、別の車で搬入作業を行っていた赤岩もまた最後の搬入先である『アウローラ』で作業を進めていた。
「おはようごさいます、『赤岩青果店』です!」
毎度どうもと『アウローラ』の調理班はいつも通り言葉は返すも作業の手は休めない。接客担当の従業員は雪路も含め女性ばかりなので、青果の入荷がさほど多くない事もあり赤岩が勝手知ったるとばかり冷蔵庫に入れていく。
まどかは無事かい?赤岩もその事が脳内を支配していた。かと言ってあくまでこれは個人的事情であり、顧客にとっては全く関係の無い事である。
仕事に私情は挟めない……五十歳が見えている彼にとって未経験の事ではないものの、自身よりも遥かに年下である姪っ子の生命の危機ともなると些か気の持ちようも変わってしまうものだ。
「おはようございます遠さん、まどかちゃん今日から入院なんですよね?」
あっという間に搬入を終えた赤岩に雪路がいつもの様に声を掛ける。
「おはようさん、さっきちょべっと早目に病院に行ったって連絡があったべ」
ひょっとすると香世子が気を利かせて雪路には連絡してるかも知れないと思い、詳細は割愛して事実を伝える。
「らしいですね、陣痛が始まったって……十日ほど早いですよね?」
「んだな……これから一旦帰ってから病院に寄ってみんべ、何かあったら連絡すっから」
「はい、宜しくお願いします。落ち着きましたらお祝いさせてくださいね」
「ありがとう、本人にそう伝えとくべ」
赤岩は雪路の気持ちだけを受け取って運転席に乗り込んだ。どうか無事で……その気持ちだけを胸に車を走らせ、店には戻らず病院に直行した。
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