98 / 117
quatre-vingt-dix-huit
しおりを挟む
楽しい時間はあっという間に過ぎていく、プロジェクションマッピングを終えた私たちは席を立って帰路に向かう。
「今日は家まで送らせて」
えっ?お酒飲んじゃってるから運転はダメだよ。それに送って頂くほど遅い時間でもないし。
「大丈夫よ、方向だって……」
逆じゃないって言おうとしたんだけど、明生君は私の手をそっと握ってきた。
「もう少し一緒にいたい、ダメかな?」
そんなこと言われたら……私は彼の温かい手にドキドキしてしまう。見た目のほっそりとした感じとは違い、意外とガシッとした大きな手が大好きだった。夢でもいい、もう少しだけこのままでいたい。
「ううん、そんなことない」
「代行は頼んであるから、心配しなくていいよ」
車で来てたんだ……お酒を飲むの分かっていたのに、私を送ることを考えて代行さんも手配していた彼の心遣いが嬉しかった。
車はホテルの地下駐車場に停めてあった……のだが、彼の愛用車がまさかのマクラーレンとは意外だった。こっこれに乗るんですか?
「外車、好きだったっけ?」
彼は車にさほど興味が無かった印象なだけに違和感を覚える。マニアックとは言いませんがかなり個性的よこの車、いえどうしたの?何があったの?
「帰国してから買い替えたんだ。しばらく乗ってなかったんだけど」
そうよね?こんなの通勤向けじゃないよね?私も運転は嗜むけどこんなの……もとい高級車に乗りたいとは思わない。しかもこのメーカーイギリス製だけど左ハンドルなのね、まぁ国際基準で考えたら車は右側通行の国の方が多いけど。
「日本じゃ乗りにくくない?」
「韓国では左ハンドルだったからそっちに慣れちゃって」
そっか、そういうのも生活習慣で培われていくものなのね。う~ん何かブルジョワちっくだなぁ、色は真っ黄色だし内装は嫌いじゃないけどウッディーなのはおじさんっぽい(嫌いじゃないんだよ、念押しすると)。それにこれドア開ける時横に開くんじゃなくて上に持ち上げるんだよね。
「お待たせ致しました」
なんて考えてる間に代行さん来られたわ。四の五の悩んでらんないなぁなんだけど、スポーツカーだから二人乗りですよね?あっじゃあこれに乗らなくていいんだ、私は失礼ながらもちょっとほっとしていた。
「これだとお客様方はこっちだね」
とタクシーの方に案内された私たちは、二人並んで後部座席にお邪魔する。うん、この方がいいわ。明生君は運転担当の男性に鍵を預け、先に家の住所を伝えていた。
「畏まりました、安全運転させて頂きます」
さすがはプロのドライバーさん、見事なドライビングテクニックで車を走らせてくれていた。
「今日は来てくれてありがとう」
彼は連絡を滞らせてしまったことを一切責めなかった。
「連絡が遅くなってごめんなさい、ちょっと仕事が立て込んでて」
本当は連絡しようと思っていなかったなんて言えず、当たり障りのない言い訳をする。
「人はそれぞれに都合があるからね、タイミングが合わないこともあるよ」
彼は本当に優しいと思う。こんな人この先そう出会えないような気がする、そう思ったら彼と大学で出会えた私は運が良いと思う。
「夏絵」
彼の甘い声が私の耳をくすぐる、この声を聞くだけであの時の甘酸っぱい思いが蘇ってくる。
「ん?」
「また誘ってもいいかな?今度はドライブにでも行こう」
「うん」
ってことはあの車に乗るんですか?という思いも浮かんだのだが、それ以上に彼との時間をもっと過ごしたいという気持ちの方が勝っていた。
「送ってくれてありがとう」
私は車を降りて家に入ろうとしたが、何を思ったか明夫君も付いてくる。
「もう大丈夫よ、家の前だし」
「今日はご家族の皆さんにご挨拶だけどさせて頂こうと思って」
もうあの時とは違うから。彼は私の隣に立って玄関のチャイムを鳴らした。
『はぁい』
あっ、姉の声だ。今日はお休みだったんだね。私は姉の出迎えを待たずに玄関を開けてただいまと言った。
「あらお帰り……っと佐伯君ね」
「先日はお邪魔しました」
えっ?私に会うより先に会ってたの?
「謝罪を兼ねてお店に寄らせて頂いたんだ」
そうだったのね、相当気に病んでたんだ。
「オカマバーに一人で来られたのよ、勇気あるわよね……本日は送って頂いてありがとうございます、お急ぎでなければ……」
「いえ、車を待たせていますのでこれで失礼します」
「そうですか、わざわざありがとうございます」
姉の礼の言葉には会釈を返し、私にはまたねと言って彼は帰っていった。私はしばらく立ち止まったまま見えぬ彼の姿を見送る。
「お帰りなつ、遅かったね」
あれ?杏璃まだいたの?
「今日はお泊りさせることにしたの、もうじきてつこが着替えと勉強道具を持ってきてくれるはず」
てつこが来たらご飯にしましょ。姉はそう言ってキッチンに入っていく。
「あっ、お姉ちゃん!私ご飯食べちゃってるの」
今日はてつこと顔を合わせたくない。
「おつまみも要らないの?」
「うん、お腹いっぱい食べてきたから。早めに休んじゃうね」
「そう、お休み」
私もお休みと返し、さっさとお風呂に入って床に着く。それからすぐに眠ってしまったようで、てつこが来たことすら気付かぬままぐっすりと眠っていた。
「今日は家まで送らせて」
えっ?お酒飲んじゃってるから運転はダメだよ。それに送って頂くほど遅い時間でもないし。
「大丈夫よ、方向だって……」
逆じゃないって言おうとしたんだけど、明生君は私の手をそっと握ってきた。
「もう少し一緒にいたい、ダメかな?」
そんなこと言われたら……私は彼の温かい手にドキドキしてしまう。見た目のほっそりとした感じとは違い、意外とガシッとした大きな手が大好きだった。夢でもいい、もう少しだけこのままでいたい。
「ううん、そんなことない」
「代行は頼んであるから、心配しなくていいよ」
車で来てたんだ……お酒を飲むの分かっていたのに、私を送ることを考えて代行さんも手配していた彼の心遣いが嬉しかった。
車はホテルの地下駐車場に停めてあった……のだが、彼の愛用車がまさかのマクラーレンとは意外だった。こっこれに乗るんですか?
「外車、好きだったっけ?」
彼は車にさほど興味が無かった印象なだけに違和感を覚える。マニアックとは言いませんがかなり個性的よこの車、いえどうしたの?何があったの?
「帰国してから買い替えたんだ。しばらく乗ってなかったんだけど」
そうよね?こんなの通勤向けじゃないよね?私も運転は嗜むけどこんなの……もとい高級車に乗りたいとは思わない。しかもこのメーカーイギリス製だけど左ハンドルなのね、まぁ国際基準で考えたら車は右側通行の国の方が多いけど。
「日本じゃ乗りにくくない?」
「韓国では左ハンドルだったからそっちに慣れちゃって」
そっか、そういうのも生活習慣で培われていくものなのね。う~ん何かブルジョワちっくだなぁ、色は真っ黄色だし内装は嫌いじゃないけどウッディーなのはおじさんっぽい(嫌いじゃないんだよ、念押しすると)。それにこれドア開ける時横に開くんじゃなくて上に持ち上げるんだよね。
「お待たせ致しました」
なんて考えてる間に代行さん来られたわ。四の五の悩んでらんないなぁなんだけど、スポーツカーだから二人乗りですよね?あっじゃあこれに乗らなくていいんだ、私は失礼ながらもちょっとほっとしていた。
「これだとお客様方はこっちだね」
とタクシーの方に案内された私たちは、二人並んで後部座席にお邪魔する。うん、この方がいいわ。明生君は運転担当の男性に鍵を預け、先に家の住所を伝えていた。
「畏まりました、安全運転させて頂きます」
さすがはプロのドライバーさん、見事なドライビングテクニックで車を走らせてくれていた。
「今日は来てくれてありがとう」
彼は連絡を滞らせてしまったことを一切責めなかった。
「連絡が遅くなってごめんなさい、ちょっと仕事が立て込んでて」
本当は連絡しようと思っていなかったなんて言えず、当たり障りのない言い訳をする。
「人はそれぞれに都合があるからね、タイミングが合わないこともあるよ」
彼は本当に優しいと思う。こんな人この先そう出会えないような気がする、そう思ったら彼と大学で出会えた私は運が良いと思う。
「夏絵」
彼の甘い声が私の耳をくすぐる、この声を聞くだけであの時の甘酸っぱい思いが蘇ってくる。
「ん?」
「また誘ってもいいかな?今度はドライブにでも行こう」
「うん」
ってことはあの車に乗るんですか?という思いも浮かんだのだが、それ以上に彼との時間をもっと過ごしたいという気持ちの方が勝っていた。
「送ってくれてありがとう」
私は車を降りて家に入ろうとしたが、何を思ったか明夫君も付いてくる。
「もう大丈夫よ、家の前だし」
「今日はご家族の皆さんにご挨拶だけどさせて頂こうと思って」
もうあの時とは違うから。彼は私の隣に立って玄関のチャイムを鳴らした。
『はぁい』
あっ、姉の声だ。今日はお休みだったんだね。私は姉の出迎えを待たずに玄関を開けてただいまと言った。
「あらお帰り……っと佐伯君ね」
「先日はお邪魔しました」
えっ?私に会うより先に会ってたの?
「謝罪を兼ねてお店に寄らせて頂いたんだ」
そうだったのね、相当気に病んでたんだ。
「オカマバーに一人で来られたのよ、勇気あるわよね……本日は送って頂いてありがとうございます、お急ぎでなければ……」
「いえ、車を待たせていますのでこれで失礼します」
「そうですか、わざわざありがとうございます」
姉の礼の言葉には会釈を返し、私にはまたねと言って彼は帰っていった。私はしばらく立ち止まったまま見えぬ彼の姿を見送る。
「お帰りなつ、遅かったね」
あれ?杏璃まだいたの?
「今日はお泊りさせることにしたの、もうじきてつこが着替えと勉強道具を持ってきてくれるはず」
てつこが来たらご飯にしましょ。姉はそう言ってキッチンに入っていく。
「あっ、お姉ちゃん!私ご飯食べちゃってるの」
今日はてつこと顔を合わせたくない。
「おつまみも要らないの?」
「うん、お腹いっぱい食べてきたから。早めに休んじゃうね」
「そう、お休み」
私もお休みと返し、さっさとお風呂に入って床に着く。それからすぐに眠ってしまったようで、てつこが来たことすら気付かぬままぐっすりと眠っていた。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる