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neuf
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「すみません、お待たせしてしまって」
お会計を済ませた私は慌てて(と言う体で)五階に上がってカフェに入ると、霜田さんも買い物をしていて男性ファッション雑誌がチラッと見えている。その雑誌近所の居酒屋店主で幼馴染のゴローちゃんがよく買ってる雑誌だ……って彼の話は置いておこう。
「いえ。随分とお買い物されたんですね」
「えぇ、昔好きだった文庫本を見つけて懐かしくなってしまいまして」
私は霜田さんの向かいの席に座る。
「そうですか。それはLPレコードですね、お聴きになられるんですか?」
やっぱり気付くよね、この大きさは今で言うアルバム盤だから結構大きい。
「いえ、私ではなく兄が」
「お兄様も居らっしゃるんですか?」
も? やっぱり勘違いと言うか聞いてらっしゃらないわこの人。
「いえ、上のきょうだいは兄だけです。あとは弟二人ですから」
これで流石に気付くでしょ? と思ったけど……。
「そうなんですね、春香さんはご従姉なんですね」
え~、ここまで言ってるのにまだ理解してくれないの?
「いえ、春香は兄です」
これで分かんなかったら私もうお手上げです。
「……」
「まぁ、パッと見で気付く方は殆どいらっしゃいませんが」
我ながら要らんフォローしたかも。でもまぁ良いや、後々揉めるより今のうちに現実見てもらいましょう。
「春香さんって」
「えぇ、男です」
「つまり、そのぉ……」
えぇ、体は未工事で男のシン……コホン、もしっかり付いてますよ。精神的には完全に女性ですけどね。
「はい、体の構造は霜田さんと全く同じですよ」
「……」
あちゃ、霜田さんフリーズしちゃいましたね.なんて思ってたら満田君がオーダーを取りにやって来た。
「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりでしょうか?」
あっ、注文……っと。日替わりランチがあるのね。
「あの、今日の日替わりランチって何ですか?」
「本日は豆腐ハンバーグです」
「私はそれで。霜田さんはお決めになりました? 霜田さん? 霜田さーん」
私は霜田さんの前で手を振ってみるが、視線は明後日の方向を向いていてこっちに意識が戻ってこない。これじゃランチどころじゃない、満田君には一旦下がってもらい、取り敢えずのご帰還を待つことにした。
「春香さんが男。春香さんが……」
あの、本当に大丈夫ですか?
それから霜田さんはしばらく意識が戻りませんでした。っと言ったら大事っぽく聞こえますが、姉が男であることがよほどショックだったのでしょう。今のところ私たちは言葉を交わしておりません。
「夏絵さん……」
「はい」
あっ、やっと喋り出した。
「春香さん……本当に男性なんでしょうか?」
えぇ、さっきそう言いましたよね? まだ疑ってらっしゃるの?
「えぇ。それより私日替わりランチを頼みましたが、霜田さんはどうなさいます?」
「ええっ? いつの間にオーダー取りに来られてたんですかっ?」
「五分ほど前ですよ、店員さん呼びますか?」
私は厨房のほど近くで待機している満田君と視線が合う。彼はすぐに気付いてくれてメニューを持って来てくれた。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「たらこクリームパスタを」
霜田さんはメニューを受け取らずにさっと注文した。この店お気に入りって仰ってたからたらこクリームパスタもきっと食べ慣れてらっしゃるんでしょうね。
「たらこ、お好きなんですか?」
「たらこと言うよりパスタが好きなんです。夏絵さんは?」
ほぅ、ようやく立ち直ったか?
「パスタは好きですよ。洒落たのよりはナポリタンの方が好きだったりしますけど」
「因みにお気に入りのお店とかありますか?」
へっ? 私の感覚ではナポリタンをわざわざお店で食べたりしない。たまに食べる事はあっても姉の手料理の方が美味しいと思う。
「ナポリタンをわざわざお店では頂かないですね、自宅で食べる方が美味しく感じます」
「それはどなたかの手料理でしょうか?」
「えぇ、兄のです」
「春香さんのですかっ? お料理お得意なんですかっ?」
あれ? 何か変なスイッチ入らなかった? 口調が万年筆談義の時っぽくなってますけど。
「春香さんの得意料理って何でしょうかっ?」
「和食、でしょうか。兄の作る豚汁は弟の友達に大人気です」
「わっ私も食べに行っても宜しいでしょうかっ?」
「構いませんけど、夜のお仕事な上に土日祝日は滅多に休みではありませんので」
そうなんですか……霜田さんは見掛けからは想像できないくらいに子供っぽく落ち込んでらっしゃる。これが所謂ギャップ萌えとか言うやつですか? 昨日までの自分であれば多少ときめいたりするんだろうけど今となっては何とも思わない、人の心は案外変わり易いものなのです。
「それでしたら予め約束しておきませんか?」
ん? 約束? って事はコイツ諦めてないな。意識飛んでた間に男である姉を恋愛対象に出来るか考えてたのか……んで結果“抱ける”と、そういう訳ですな。
「兄の予定を聞かない事には何とも……」
私はこの場での返事をぼやかしておくと、満田君が日替わりランチを持って来てくれた。
「お待たせ致しました、日替わりランチでございます。たらこクリームパスタの方はもうしばらくお待ちくださいませ」
満田君はにこやかな表情で霜田さんにそう伝える。こういう時先に食べちゃって良いものか悩んでしまう質で、早く食べたい! と思う気持ちとは裏腹になかなか箸に手が出せない。
「冷めないうちにお召し上がりくださいね、夏絵さん」
へっ? そんな私の戸惑いに気付いてくれたのか満田君がそっと声を掛けてくれる。霜田さんの前で申し訳無いけど今のはかなりキュンときちゃった! ヤバイ! 私人のこと言えないわ。でも良いわよね? 霜田さんだって姉に夢中なんだから。
「じゃあ、お先に頂きますね」
えぇどうぞ。霜田さんに了承を得てから早速豆腐ハンバーグを頂く。慣れない方との食事はちょっと緊張するけれど、本屋のカフェにしては本格的な味付けで結構美味しい♪ 米もまともに炊けないくせに味覚だけはいっちょ前な冬樹が気に入るだけはある。それから程なくたらこクリームパスタも運ばれてきて、私たちは無言で食事を味わった。
食後、支払いを済ませてお店を出る際に満田君に声を掛けられた。
「落とし物ですよ」
そう言われて私は持ち物チェックをしたけれど何も落としていない。
「僕の連絡先です、気が向いたらで良いので」
とそっと一枚のメモを渡された。えっ? これって誘われてます? 私は落とし物を拾ってもらった体でありがとうございますと返し、メモを受け取ってお店を後にした。
お会計を済ませた私は慌てて(と言う体で)五階に上がってカフェに入ると、霜田さんも買い物をしていて男性ファッション雑誌がチラッと見えている。その雑誌近所の居酒屋店主で幼馴染のゴローちゃんがよく買ってる雑誌だ……って彼の話は置いておこう。
「いえ。随分とお買い物されたんですね」
「えぇ、昔好きだった文庫本を見つけて懐かしくなってしまいまして」
私は霜田さんの向かいの席に座る。
「そうですか。それはLPレコードですね、お聴きになられるんですか?」
やっぱり気付くよね、この大きさは今で言うアルバム盤だから結構大きい。
「いえ、私ではなく兄が」
「お兄様も居らっしゃるんですか?」
も? やっぱり勘違いと言うか聞いてらっしゃらないわこの人。
「いえ、上のきょうだいは兄だけです。あとは弟二人ですから」
これで流石に気付くでしょ? と思ったけど……。
「そうなんですね、春香さんはご従姉なんですね」
え~、ここまで言ってるのにまだ理解してくれないの?
「いえ、春香は兄です」
これで分かんなかったら私もうお手上げです。
「……」
「まぁ、パッと見で気付く方は殆どいらっしゃいませんが」
我ながら要らんフォローしたかも。でもまぁ良いや、後々揉めるより今のうちに現実見てもらいましょう。
「春香さんって」
「えぇ、男です」
「つまり、そのぉ……」
えぇ、体は未工事で男のシン……コホン、もしっかり付いてますよ。精神的には完全に女性ですけどね。
「はい、体の構造は霜田さんと全く同じですよ」
「……」
あちゃ、霜田さんフリーズしちゃいましたね.なんて思ってたら満田君がオーダーを取りにやって来た。
「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりでしょうか?」
あっ、注文……っと。日替わりランチがあるのね。
「あの、今日の日替わりランチって何ですか?」
「本日は豆腐ハンバーグです」
「私はそれで。霜田さんはお決めになりました? 霜田さん? 霜田さーん」
私は霜田さんの前で手を振ってみるが、視線は明後日の方向を向いていてこっちに意識が戻ってこない。これじゃランチどころじゃない、満田君には一旦下がってもらい、取り敢えずのご帰還を待つことにした。
「春香さんが男。春香さんが……」
あの、本当に大丈夫ですか?
それから霜田さんはしばらく意識が戻りませんでした。っと言ったら大事っぽく聞こえますが、姉が男であることがよほどショックだったのでしょう。今のところ私たちは言葉を交わしておりません。
「夏絵さん……」
「はい」
あっ、やっと喋り出した。
「春香さん……本当に男性なんでしょうか?」
えぇ、さっきそう言いましたよね? まだ疑ってらっしゃるの?
「えぇ。それより私日替わりランチを頼みましたが、霜田さんはどうなさいます?」
「ええっ? いつの間にオーダー取りに来られてたんですかっ?」
「五分ほど前ですよ、店員さん呼びますか?」
私は厨房のほど近くで待機している満田君と視線が合う。彼はすぐに気付いてくれてメニューを持って来てくれた。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「たらこクリームパスタを」
霜田さんはメニューを受け取らずにさっと注文した。この店お気に入りって仰ってたからたらこクリームパスタもきっと食べ慣れてらっしゃるんでしょうね。
「たらこ、お好きなんですか?」
「たらこと言うよりパスタが好きなんです。夏絵さんは?」
ほぅ、ようやく立ち直ったか?
「パスタは好きですよ。洒落たのよりはナポリタンの方が好きだったりしますけど」
「因みにお気に入りのお店とかありますか?」
へっ? 私の感覚ではナポリタンをわざわざお店で食べたりしない。たまに食べる事はあっても姉の手料理の方が美味しいと思う。
「ナポリタンをわざわざお店では頂かないですね、自宅で食べる方が美味しく感じます」
「それはどなたかの手料理でしょうか?」
「えぇ、兄のです」
「春香さんのですかっ? お料理お得意なんですかっ?」
あれ? 何か変なスイッチ入らなかった? 口調が万年筆談義の時っぽくなってますけど。
「春香さんの得意料理って何でしょうかっ?」
「和食、でしょうか。兄の作る豚汁は弟の友達に大人気です」
「わっ私も食べに行っても宜しいでしょうかっ?」
「構いませんけど、夜のお仕事な上に土日祝日は滅多に休みではありませんので」
そうなんですか……霜田さんは見掛けからは想像できないくらいに子供っぽく落ち込んでらっしゃる。これが所謂ギャップ萌えとか言うやつですか? 昨日までの自分であれば多少ときめいたりするんだろうけど今となっては何とも思わない、人の心は案外変わり易いものなのです。
「それでしたら予め約束しておきませんか?」
ん? 約束? って事はコイツ諦めてないな。意識飛んでた間に男である姉を恋愛対象に出来るか考えてたのか……んで結果“抱ける”と、そういう訳ですな。
「兄の予定を聞かない事には何とも……」
私はこの場での返事をぼやかしておくと、満田君が日替わりランチを持って来てくれた。
「お待たせ致しました、日替わりランチでございます。たらこクリームパスタの方はもうしばらくお待ちくださいませ」
満田君はにこやかな表情で霜田さんにそう伝える。こういう時先に食べちゃって良いものか悩んでしまう質で、早く食べたい! と思う気持ちとは裏腹になかなか箸に手が出せない。
「冷めないうちにお召し上がりくださいね、夏絵さん」
へっ? そんな私の戸惑いに気付いてくれたのか満田君がそっと声を掛けてくれる。霜田さんの前で申し訳無いけど今のはかなりキュンときちゃった! ヤバイ! 私人のこと言えないわ。でも良いわよね? 霜田さんだって姉に夢中なんだから。
「じゃあ、お先に頂きますね」
えぇどうぞ。霜田さんに了承を得てから早速豆腐ハンバーグを頂く。慣れない方との食事はちょっと緊張するけれど、本屋のカフェにしては本格的な味付けで結構美味しい♪ 米もまともに炊けないくせに味覚だけはいっちょ前な冬樹が気に入るだけはある。それから程なくたらこクリームパスタも運ばれてきて、私たちは無言で食事を味わった。
食後、支払いを済ませてお店を出る際に満田君に声を掛けられた。
「落とし物ですよ」
そう言われて私は持ち物チェックをしたけれど何も落としていない。
「僕の連絡先です、気が向いたらで良いので」
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