平凡な女には数奇とか無縁なんです。

谷内 朋

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dix-neuf

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「もう邪魔しねぇでくれよみんな」
 サクはもうげんなりしてる。まぁまだ話の本質見えてないからね。はいもう邪魔しませんよ、冬樹は話を急かしておきながら割り箸持って晩御飯食べようとしてるけどもうちょっとだけ待ちなさい。
「ミトの腹ん中の子、俺の子じゃねぇんだわ」
 あ~、まさかの前彼の子ですか? 確かサクと出逢う三日前にポイ捨てされてどうとか言ってたなぁ。
「十三週目だって、その頃俺まだアイツと出逢ってねぇもん」
「避妊しなかったの~? もぐもぐ」
 冬樹、あんたいつの間に食い始めてたの?
「前彼のヤロー一遍も避妊しなかったらしいんだ。子供がどうとか考えてなかったからアフターピルは飲んでたらしいけど……」
 まぁあれだって避妊率百パーセントじゃないからね、責任取れないなら竿にゴムを付けやがれ。二十歳の女の子なんだから結婚して子供出来たらとか考えてる子の方が少ないでしょ、実際ピルを処方してたって言うんだから。
「ミトちゃん的にはどうなのさ? 産む産まないの話はしてんのかい?」
「アイツは産む気でいる。母ちゃんも父ちゃんも全面協力するっつってる。けど俺……」
 つまりサクは前彼との子を可愛いと思える自信が無いんだね。いくら夫婦だからとは言え何でもかんでも愛しなさいはちょっと違うと思うし。かと言ってミトちゃんだって前彼さんと別れる心づもりは無かったとも思うのよ、別れる前提の男とセックスするのは心情的に無理だわ。
「何かの拍子で子供虐待しちまったりとか……したくねぇけど自分の子じゃねぇと分かってる以上、何と言うかどっか喜べねぇんだよ」
 正直かなりビビってる、サクは一つ大きなため息を吐いた。
「かと言って産む気のある女に『堕ろせ』なんて言えねぇし……俺どうしたら良いんだよぉ~!」
 サクはテーブルに突っ伏してしまう。その丸まった背中を秋都が優しく擦っていた。普段のサクならあっさり離婚しそうだけど……だって最初の嫁さんの時なんて同窓会の帰りに同級生の男の子に送ってもらったってだけで離婚したからね。自分の浮気性を棚に上げて結構独占欲強いのよコイツ。
「じゃあ腹括って親父になるんだね」
 小百合さんは明快な意見を出す。多分それが出来てたらこんなにウジウジ悩んでないと思うけど……でもその間にも子供はすくすくと育っていく。産むにしろ堕ろすにしろリミットがあるので悠長にもしていられない。
「ねぇねぇ、その事前彼さんは知ってるの~?」
「多分言ってねぇと思う。捨てられた途端連絡取れなくなっちまったっつってたから」
 まぁそやつの事はどうでもいいんじゃない? ただ問題なのはサクが親父の自覚を持てないのであればミトちゃんと夫婦関係してる意味は無い訳で。
「腹括れないなら離婚しなさい。いくらおしどり夫婦のが全面協力してくれても旦那がそれじゃあ産むの不安でしょうね」
「なつ姉それちょっとキツすぎないか?」
 秋都がギョッとした顔って私を見る。ちょっと辛口過ぎたかな? でも新しい命を授かってるミトちゃんの不安も分かってやってほしい。きっとおしどり夫婦は身寄りの無いミトちゃんが安心して子供を産んで育てられる環境を作る事を最優先にしたんだと思う。多分二人が離婚したってそこは変えないんじゃないかな?それにサクには女癖の悪さも懸念材料となる、しばらくはセックス出来ないのに本能的な欲求不満に耐えられるのか?彼女の不安材料が増えるくらいなら離婚した方がよっぽどマシだ。
「いくらアンタが性懲りの無い浮気性でも離婚する気は無いんだろ? だったらとっとと腹括れ! それとも前彼探して差し出す気かい?」
「んな事する訳ねぇだろ! ぶっちゃけ別れるんも嫌だ!」
 もう答え出てるじゃない、さっさと帰ってミトちゃんと一緒に……。
「サクてめぇこんなとこで何してやがるっ!」
 勢い良く入り口の引き戸が開いたと同時におしどり夫婦の夫の方(サクのお父さん)が血相を変えて店内に飛び込んできた。
「どうしたんだいカッちゃん?」
 小百合さんは息を切らしている克雄かつおさんにお冷を渡すと、それを受け取ってものの数秒で飲み切ってしまった。それから呼吸を整えて神妙な顔付きになる。
「ミトちゃんが倒れた」
「マジかよ、病院連れてったのか?」
「おう、露木つゆきんとこの産婦人科だ。今マイちゃんが付き添ってっけど流産の危険性が……」
「んだとっ! そうはさせるかっ!」
 サクは克雄さんの話を最後まで聞かずに外に飛び出していった。因みに『マイちゃん』はサクのお母さんである舞子まいこさんの事で、露木産婦人科はここから徒歩五分程度の所にあるのでサクの足でなら二分程で到着するだろう。
「おい人の話は最後まで聞けっ! ったく流産の危険性があったから何日か入院して様子を見るって」
「そんな血相変えて来たらサクじゃなくても焦っちまうよぉ。こういう時男は役に立たないねぇ」
 小百合さんはサクが飲んでいたビールのジョッキを片付けながら呆れ顔になってる。今度は克雄さんがサクの座っていた椅子に座り、ほうと息をついた。
「すまんかったな、飯の邪魔しちまってさ」
「ホントだよね~、もぐもぐ。最後の踏ん切りが付かなかっただけじゃんか~、もぐもぐ」
 冬樹はちょっと冷めてちょうど食べやすくなった鶏唐定食をもさもさと食べている。まぁそうなんだけど口に出されると見も蓋もねぇな、って感じになってしまう。ってか食いながら喋るな、姉が泣くぞ。
「面目無ぇ、ここのお代は俺が持つよ」
「うわぁ~いやったぁ! なつ姉ちゃんお金浮いたね~」
「「堂々と喜んで集るなっ!」」
 私は秋都とハモって冬樹にツッコミを入れる。そもそも迷惑が掛かってる訳ではなく秋都のお節介でこうなっているのだから。
「お気持ちだけ頂戴するよおっちゃん、誘ったんは俺だからさ」
 うん、最近秋都がマトモに見えてくるようになってきた。そして冬樹のおかしさにどんどん磨きが掛かっていってるような気がするが気のせいか?
「イヤイヤそれが無かったらあいつぁ未だにグズグズ悩んでるさ。やっぱり奢らせてくんねえかな?」
「だってさぁ、もぐもぐ。親切はありがたく受け取ろうよ、もぐもぐ」
「だったらちゃんとお礼くらい言え、たわけ」
 私は冬樹の服を引っ張って食事を中断させる。
「かつおじちゃん、ゴチになりまぁす」
「おう、成長期だからたんと食いな」
 克雄さんは小百合さんに一万円札を手渡してる。イヤイヤそれは多過ぎますって! 私先にお腹いっぱい食べてるから! 秋都もそんなに食べる方じゃないから! 冬樹は十代だけど成長期のピークはもう過ぎてるから!
「うん! お○○ぽ成長させないとだもんね!」
「そういう事を大声で言うなっ!」
 あーっ恥ずかしいったらありゃしないわ。店内を見回す限り知った顔ぶれしか無いからまぁ、良くないけど。
「大丈夫大丈夫、ちゃんと周り見てから発言してるからね~」
「まぁち○この成長は大事なこった、折角だからいっぱい食べろ」
 さすがはスケベ男子、この手の話にはすぐに食いつく。
「あっそう」
 私はげんなりして日本酒をちびりと飲んだ。

 それから翌朝になってサクから秋都経由でミトちゃんの無事が伝えられた。彼女のお腹の子は岩井いわい家総出で育てる事で話がまとまり、その日を境にサクの浮気癖はすっかり鳴りを潜めたのだった。
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