平凡な女には数奇とか無縁なんです。

谷内 朋

文字の大きさ
43 / 117

quarante-trois

しおりを挟む
 待ち時間の間は外の紅葉を楽しんで全く退屈しなかった。久し振りに四人で写真を撮りまくり、遊園地に誘われていた返事のついでに杏璃に画像を添付して送信した。
「なつ姉ちゃん旅行中はメール禁止ぃ!」
 冬樹はムスッとした顔でそう言ってくる。
「杏璃に用事があったからその返事と今撮った画像を送っただけ。はいもう終わった」
 私はケータイをバッグに放り込む。
「それくらい良いじゃないのふゆ」
 姉はにこやかな表情でふゆをたしなめてる。
「何だ杏璃かぁ、ならいいや」
 と言っている間に早くも返信、時間的にも多分杏璃だな……と思ってメールを開いてみると郡司君からだったので思わずドキッとしてしまう。
【今何してる? 昼休憩?】
 昨夜話さなかったっけ?今日の事。拉致られて腹が立ったのと告られちっくな展開でドキマギしたのがごちゃごちゃになってよく憶えていない。これは返信するべきなのか? ただ冬樹の視線がちょっと痛い。
「なつ姉?」
「ん? 杏璃から返事が来ただけ」
 私は取り敢えずその場を誤魔化し、再びケータイをバックにしまう。昨日の今日だからこのメールが郡司君だと分かると二人とも発狂しそうだ、折角の旅行をこんなことで雰囲気ぶち壊しなんて私だってまっぴらごめんだ。
「お待たせ致しました、天麩羅盛り合わせ蕎麦でございます。今日は比較的暖かいですのでざる蕎麦に致しました」
 四人分の天婦羅盛り合わせざる蕎麦を持って海斗さんと従業員の女性が個室に入ってきた。海斗さんは店長というか経営者だからともかく、この女性は休日出勤なんだよね? う~んウチのワガママで申し訳無いわ。
「うわぁ~い僕ざる蕎麦派~♪」
 さすがは蕎麦好き冬樹、あっさりと機嫌を直していの一番に座席に着く。さっきまで窓に張り付いていた私たちも座席に戻る。
「ありがとうございます、頂きましょうか」
「「「いただきます」」」
 私たちは早速料理を頂くことにする。姉と私はざる蕎麦から、秋都と冬樹は天婦羅から箸を付ける。市販のものとは明らかに違う蕎麦の香り、ん~美味い♪
「いい仕事するじゃ~んアンジェリカぁ」
 冬樹、もうちょいマトモに褒めなさいな。
「やぁねぇジョセフィーヌと呼んでぇ」
 きょうだいってそんなとこまで似るものなのか? でも見たところ双子だよね?
「いつからそんなニックネーム……」
「実は彼女が付けてくれたんですぅ」
 と紹介された女性従業員さん、彼女は少々恥ずかしそうに私たちに会釈してきた。
有働うどうさやかです」
「五条春香と申します、話には聞いてるけど結構な似た者夫婦・・・・・なのね」
 私たちも彼女に会釈を返したが……えっ? 夫婦なの?
「ある程度似たところが無いと夫婦関係なんて続けられませんよぉ」
「まぁバイなオカマとオコゲはアリだものね」
 姉はすぐさま立ち直って一見全く似た者感ゼロの夫婦を生温かく見つめている。
「でさ奥さん、アンジェリカ弟との馴れ初めは?」
 こういう時の秋都は全く遠慮が無い、他人様の恋バナホント好きだよな。
「見た目がどストライクなんです、あとこの喋りとのコントラスト最高じゃないですか!」
 と瞳をキラキラさせて熱弁を振るう奥様。うん、相当惚れてるのは分かったがコントラストってそういう使い方するのか? 仰りたいことはまぁ理解出来るのであまり気にしないでおこう。
「で、何でジョセフィーヌって名付けたんだ?」
大地だいちさんに源氏名があるんなら彼にもあっていいかなぁって、ジョセフィーヌって可愛くないですか?」
 ジョセフィーヌと言う名は可愛いと思うが海斗さんは可愛いというカテゴリーではないと思う。ってかアンジェリカ大地っていう名前なの? 今初めて知りました。
「俺的にはゴンザレスとかカルロスとかいう勇ましいイメージなんだけど」
「それだと彼の性格には合わないんです、女子力の高さは半端ないですから」
「あ~そこはきょうだい似るんだな」
 ですな、アンジェリカの女子力もかなりのものだからね。私も見習わないと……炊事だけ、それさえ身に付けば私の女子力も捨てたもんじゃない……はず。にしても本当に仲睦まじいご夫婦で日々幸せに暮らしてるんだなぁというのがビシビシ伝わってくる。
 私たちは海斗さん夫妻との会話も楽しみ、景色も料理も最高だった。店を出る直前にご両親とまだ生後間もないお子様も姿を見せてご挨拶させて頂いた。さやかさんが嫁いだ事でこの店の再建と初孫の夢が叶った、双子揃ってマイノリティなので孫を抱けるとは思ってもみなかっただけにとても感謝していると仰っていた。
 こういうご夫婦を見ると結婚に憧れてしまうアラサーの私、幸い我が両親も生前とても仲の良い夫婦で何かに付けよく二人で出掛けていたように記憶している。近いか遠いかは分からないが将来私にも幸せな家庭を作れるのだろうか?とふと郡司君の顔を思い出したが、まだお付き合いに至っている訳ではないせいかいまいちピンとこなかった。

 その後さっきのお蕎麦屋さんでの紅葉鑑賞に満足した私たちは、予定していた県立公園には寄らずに高級旅館に直行した。チェックインを済ませて部屋に案内してもらうとここの景色もまた最高で、露天風呂もめちゃくちゃ綺麗だった。この事を知らなかった姉は感激しきり、案内してくれた仲居さんが部屋を出てから涙ぐんでしまっている今。
「一生無理だと思ってた露天風呂……」
「大袈裟だろはる姉、俺らよか全然稼いでんじゃねぇかよ。外湯が無理でもこれなら存分に入れるぞ」
「もうふやけるまで入る、一生分浸かる」
 姉は相当嬉しかったようで、早速裸足になって足を付けてはしゃいでいる。
「ねぇ気持ちいいわよ、皆で足湯しよ♪」
 普段からにこやかにはしてるけどこんなに笑っているのは久し振りに見るかもしれない。
「折角だから普通に入れよ」
「それだとなつが入れなくなるじゃないの」
 あっそっか。秋都は完全に忘れてましたという顔をして私を見た、おい私は兄貴じゃないぞ。ってな訳で私たちは四人揃って靴下を脱いで秋都と冬樹はパンツを折り上げ、私はスカートにはき替えて足湯を楽しんだ。この時の私たちは綺麗な笑顔の裏で立て続く災難に苦悩していたことに全く気付いていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

処理中です...