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quarante-six
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「ちょっと飲まね? 最上階にバーがあるんだと」
秋都は私に向けて何かをポンと放り投げてきた。お前ちゃっかりしてんな、それは普段愛用している財布だったからだ。
「うん、いいよ」
私たちは本館に続く渡り廊下を渡ってエレベーターに乗ると、どこからともなく悲鳴というか歓声というかはしゃぐ女性数人の声。
「キャーッ! ナルセジョウよーっ!」
えっ? ナルセジョウって最近人気急上昇中の俳優じゃないの! どこよ? どこどこ? 私はミーハー根性丸出しで思わず頭を出して周りをきょろきょろと見回してしまう。
「イヤーッ! 女連れてるじゃない! しかもブスだし!」
えっ? ナルセジョウって既婚だよ、女連れてたら大問題じゃないの! いや、嫁さん一般人だから顔なんて知らないけど失言だよその発言、嫁さんの可能性だってある訳だから……なんて思ってたら黄色い声の集団が私たちの乗っていたエレベーターに乗り込んできて秋都を囲んでしまった。当然私は隅に追いやられて満員電車の再現をさせられている気分だ。
「やっぱり本物って素敵だわ~」
「テレビより実物の方が格好いいわね」
おいあんたら人違いなんだが。本物にもそれをするのか?
「ちょっと待ってくれ! ひとち……」
「既婚なのは良いけど女の趣味悪過ぎですよ~」
それ人違いでも感じ悪いぞ女ども。
「いやだから俺はナルセジョウじゃねぇ」
「そんなので騙される訳無いじゃないですかぁ、一旦は否定するのよね芸能人って」
「マジで別人なんだって!」
秋都は財布から免許証を取り出し女どもに見せた。そいつらは秋都の免許証をガン見していたが一人がとんでもないことを言い出した。
「あぁ、本名が別にあるパターン?」
いや待て、お前ら本当にファンか? ナルセジョウは本名で活動してるし秋都とは歳も違うはず、公式ホームページ見た事ないのか? 私も無いけど睦美ちゃん彼の大ファンだから多少の事は知っている。
「違うっ! 俺は一般人だ! 何でこうなるんだよ!」
「素直に認めればいいんですよ、ね~」
「んなこと出来るか! 詐欺罪でしょっ引かれるわ!」
「へ~ナルセさん意外と面白~い」
この不毛な会話いつになったら終わるんだ?と思ったらお客様、と声を掛けられる。
「如何なさいました?」
「何でもありませ~ん」
おい、勝手に従業員さんを追っ払わないでくれ。
「何でもなくねぇ! 俺らバーに行きてぇのに俳優と間違えられて足止め食らってんだよ!」
アルコール切れの秋都は不機嫌全開で誰彼問わずバーに行きたいと訴えかける。従業員さんは秋都の顔をじっと見て、確かに似てらっしゃいますねと呑気そうだ。
「その方でしたら今頃北海道で映画の撮影中と昼間ワイドショーで……」
は? 従業員さんの言葉で女どもが一斉に固まる、まさに瞬間冷却レベルだな。女どもは何を思ったかケータイをチェックし始め、一人また一人とエレベーターを降りていく。全員がエレベーターを降りたところで店員さんが秋都に目配せをしてきたのだが、その意図が分かっていない秋都はキョトンとしている。私が慌てて閉ボタンを押してようやくエレベーターが動き出し、それでやっと従業員さんの心遣いに気付く鈍感っ振りだ。
「さっすが高級旅館の従業員さんだな、客のあしらいがスマート……」
「ってあんた気付いてなかったじゃないの」
「俺がそれに気付けるほど賢いと思ってんのか?」
えぇそうでしたね。
ひと悶着あったものの最上階のバーに到着した私たちは、カウンター席でゆっくりとお酒を飲む。そう言えば秋都とこうしてお酒を飲むってそう無かったように思う、旅ならではの貴重な時間かも知れないな。
「いやぁ参った、ああいうのたま~にあるけどあんなしつこいの初めてだわ」
あれだけ揉みくちゃにされて身分を証明しても信じてもらえないって私なら結構凹むと思うのだが、本人はさほど引きずる性格ではないので既にケロッとしている。私だってああいった扱いは何度となくあるが毎度凹みますよ~、少ないながらも一応乙女のハートを持ち合わせていますから。
「私の添え物人生はいつまで続く事やら……」
「何言ってんだ? なつ姉は無自覚過ぎんだよ」
「何で? この平凡振りは充分自覚アリだけど」
こっちは真面目に答えてんのに秋都ははぁ~っと大袈裟なため息を吐く。
「そういうところが隙を作るんだよ。男は『イケんじゃね?』と思って近付くけどイマイチどう思ってくれてんのかが分かんねぇ、普通の奴はそこで諦めるからなつ姉にはそれそのものが伝わってない」
ん? 言ってることがいまいち分かんないんだけど。
「変な自信家はそこで諦めねぇ、放っておいても女が寄ってくるタイプの男からするとそういう女は落とし甲斐があると喜んでかえって変な火焚き付けてアプローチをかけてくる」
「ねぇそれ何の例え話?」
「例え話でも何でもねぇけど……無自覚って怖ぇな」
秋都は勢い良く酒を引っ掛けておかわりを注文してる。
「宜しければこちらもどうぞ」
バーテンダーさんがつまみとしてナッツを出してくれる。
「「あっ、頂きます」」
私たちが同じタイミングで礼を言って同じタイミングで一粒つまんで口に入れるとバーテンダーさんに笑われる。
「ごきょうだいってどこかしら似るものなんですね」
まぁ話の端々できょうだいなのは分かるのかな? 顔は姉や冬樹も含め誰とも似てないからパッと見では分からないで有名なんだけど。考えてみればマトモに似てるのって姉と冬樹だけなのよね。
「そうですか? あまり似てないと思うんですが」
「いえいえ似てらっしゃいますよ、髪質とか爪の形とか」
そうなのかなぁ……私たちは思わず指先を見つめてしまう。
「似てるか?」
「う~ん、どうだろう?」
秋都の爪はめちゃくちゃデカい、手も大きいから当たり前か。私も女にしては大きいからそういう意味では似てるかな?
「爪の見方、タイミングなんて全く同じでしたよ」
ん? そこ気にしたこと無かったけど……改めて秋都の手元を見ると私と全く同じ形で手の平を上に指を折り曲げていた。
「そうなんですかね? こういうのっていくつかのタイプで分類されそうですけど」
「そこに育った環境や家庭ごとの生活習慣が入ってくると個々で微妙に違いが出るものだと思いますよ。爪の見方でSかMかが分かるなんて話も聞きますがね」
へぇ、私たちはそのまま爪を見つめながら手元にある酒をちびリと飲んだ。
秋都は私に向けて何かをポンと放り投げてきた。お前ちゃっかりしてんな、それは普段愛用している財布だったからだ。
「うん、いいよ」
私たちは本館に続く渡り廊下を渡ってエレベーターに乗ると、どこからともなく悲鳴というか歓声というかはしゃぐ女性数人の声。
「キャーッ! ナルセジョウよーっ!」
えっ? ナルセジョウって最近人気急上昇中の俳優じゃないの! どこよ? どこどこ? 私はミーハー根性丸出しで思わず頭を出して周りをきょろきょろと見回してしまう。
「イヤーッ! 女連れてるじゃない! しかもブスだし!」
えっ? ナルセジョウって既婚だよ、女連れてたら大問題じゃないの! いや、嫁さん一般人だから顔なんて知らないけど失言だよその発言、嫁さんの可能性だってある訳だから……なんて思ってたら黄色い声の集団が私たちの乗っていたエレベーターに乗り込んできて秋都を囲んでしまった。当然私は隅に追いやられて満員電車の再現をさせられている気分だ。
「やっぱり本物って素敵だわ~」
「テレビより実物の方が格好いいわね」
おいあんたら人違いなんだが。本物にもそれをするのか?
「ちょっと待ってくれ! ひとち……」
「既婚なのは良いけど女の趣味悪過ぎですよ~」
それ人違いでも感じ悪いぞ女ども。
「いやだから俺はナルセジョウじゃねぇ」
「そんなので騙される訳無いじゃないですかぁ、一旦は否定するのよね芸能人って」
「マジで別人なんだって!」
秋都は財布から免許証を取り出し女どもに見せた。そいつらは秋都の免許証をガン見していたが一人がとんでもないことを言い出した。
「あぁ、本名が別にあるパターン?」
いや待て、お前ら本当にファンか? ナルセジョウは本名で活動してるし秋都とは歳も違うはず、公式ホームページ見た事ないのか? 私も無いけど睦美ちゃん彼の大ファンだから多少の事は知っている。
「違うっ! 俺は一般人だ! 何でこうなるんだよ!」
「素直に認めればいいんですよ、ね~」
「んなこと出来るか! 詐欺罪でしょっ引かれるわ!」
「へ~ナルセさん意外と面白~い」
この不毛な会話いつになったら終わるんだ?と思ったらお客様、と声を掛けられる。
「如何なさいました?」
「何でもありませ~ん」
おい、勝手に従業員さんを追っ払わないでくれ。
「何でもなくねぇ! 俺らバーに行きてぇのに俳優と間違えられて足止め食らってんだよ!」
アルコール切れの秋都は不機嫌全開で誰彼問わずバーに行きたいと訴えかける。従業員さんは秋都の顔をじっと見て、確かに似てらっしゃいますねと呑気そうだ。
「その方でしたら今頃北海道で映画の撮影中と昼間ワイドショーで……」
は? 従業員さんの言葉で女どもが一斉に固まる、まさに瞬間冷却レベルだな。女どもは何を思ったかケータイをチェックし始め、一人また一人とエレベーターを降りていく。全員がエレベーターを降りたところで店員さんが秋都に目配せをしてきたのだが、その意図が分かっていない秋都はキョトンとしている。私が慌てて閉ボタンを押してようやくエレベーターが動き出し、それでやっと従業員さんの心遣いに気付く鈍感っ振りだ。
「さっすが高級旅館の従業員さんだな、客のあしらいがスマート……」
「ってあんた気付いてなかったじゃないの」
「俺がそれに気付けるほど賢いと思ってんのか?」
えぇそうでしたね。
ひと悶着あったものの最上階のバーに到着した私たちは、カウンター席でゆっくりとお酒を飲む。そう言えば秋都とこうしてお酒を飲むってそう無かったように思う、旅ならではの貴重な時間かも知れないな。
「いやぁ参った、ああいうのたま~にあるけどあんなしつこいの初めてだわ」
あれだけ揉みくちゃにされて身分を証明しても信じてもらえないって私なら結構凹むと思うのだが、本人はさほど引きずる性格ではないので既にケロッとしている。私だってああいった扱いは何度となくあるが毎度凹みますよ~、少ないながらも一応乙女のハートを持ち合わせていますから。
「私の添え物人生はいつまで続く事やら……」
「何言ってんだ? なつ姉は無自覚過ぎんだよ」
「何で? この平凡振りは充分自覚アリだけど」
こっちは真面目に答えてんのに秋都ははぁ~っと大袈裟なため息を吐く。
「そういうところが隙を作るんだよ。男は『イケんじゃね?』と思って近付くけどイマイチどう思ってくれてんのかが分かんねぇ、普通の奴はそこで諦めるからなつ姉にはそれそのものが伝わってない」
ん? 言ってることがいまいち分かんないんだけど。
「変な自信家はそこで諦めねぇ、放っておいても女が寄ってくるタイプの男からするとそういう女は落とし甲斐があると喜んでかえって変な火焚き付けてアプローチをかけてくる」
「ねぇそれ何の例え話?」
「例え話でも何でもねぇけど……無自覚って怖ぇな」
秋都は勢い良く酒を引っ掛けておかわりを注文してる。
「宜しければこちらもどうぞ」
バーテンダーさんがつまみとしてナッツを出してくれる。
「「あっ、頂きます」」
私たちが同じタイミングで礼を言って同じタイミングで一粒つまんで口に入れるとバーテンダーさんに笑われる。
「ごきょうだいってどこかしら似るものなんですね」
まぁ話の端々できょうだいなのは分かるのかな? 顔は姉や冬樹も含め誰とも似てないからパッと見では分からないで有名なんだけど。考えてみればマトモに似てるのって姉と冬樹だけなのよね。
「そうですか? あまり似てないと思うんですが」
「いえいえ似てらっしゃいますよ、髪質とか爪の形とか」
そうなのかなぁ……私たちは思わず指先を見つめてしまう。
「似てるか?」
「う~ん、どうだろう?」
秋都の爪はめちゃくちゃデカい、手も大きいから当たり前か。私も女にしては大きいからそういう意味では似てるかな?
「爪の見方、タイミングなんて全く同じでしたよ」
ん? そこ気にしたこと無かったけど……改めて秋都の手元を見ると私と全く同じ形で手の平を上に指を折り曲げていた。
「そうなんですかね? こういうのっていくつかのタイプで分類されそうですけど」
「そこに育った環境や家庭ごとの生活習慣が入ってくると個々で微妙に違いが出るものだと思いますよ。爪の見方でSかMかが分かるなんて話も聞きますがね」
へぇ、私たちはそのまま爪を見つめながら手元にある酒をちびリと飲んだ。
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