平凡な女には数奇とか無縁なんです。

谷内 朋

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cinqante

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 そんなこんなで県立公園に到着した私たちは、それなりに人がいる中で少し早めの紅葉を観賞する。冬樹はケータイの電源を入れてバシャバシャと写真を撮りまくり、先輩と秋都はさほど写真を撮るタイプではなく冬樹と三人景色を愛でであちこちをうろついている。
 一方姉と私は近くのベンチに座ってゆったり紅葉を眺めていた。姉は気に入った一本を決めてじっくりと楽しむタイプなのでこういう時はほとんどうろつかない。
「今日はちょっと冷えるわね」
 姉は掛けているストールを肩まで持ち上げる。十一月の内陸部の気温なめてんのか? だって首元のバックリ開いたチュニックワンピにストッキング一枚でパンプスよ、姉にとっては割と定番スタイルではあるけど公園に行くスタイルではないと思う。
「お姉ちゃんは薄着過ぎるのよ」
「至君にも同じような事言われたわ、『せめてスニーカーは準備するもんだろ?』って」
 姉は唇を尖らせてそう言った。私はその表情に思わず笑ってしまった。
先輩・・じゃなくてもそう思うってば」
 しかしその一言で空気がピッと張り詰める。姉は一瞬だけ寂しそうな顔付きをしたがすぐに元の笑顔に戻した。
「なつ、まだ慣れない?」
 えっ? 最初は何の事を言っているのか分からず、先程の会話を思い出してようやっと気付く有様だった。
「うん、やっぱり私の中では先輩・・だなぁ」
「そっか、それもそうね」 
 姉は一人納得するかのように小さく頷いてみせた。
「それとねなつ」
「ん?」
「一昨日はその場の感情任せな言い方しちゃったけど、なつは自分の気持ちに嘘を吐く必要無いからね」
 えっ? 正直その言葉は意外だった。このところ不穏な出来事が立て続いているからもっと手厳しいことを言われるかと思っていた私はついつい姉を凝視してしまう。
「どうしたの急に?」
 何か心境の変化でもあったのだろうか?
「急でもないわよ。ただね、舵はなつ自身できってほしい」
「えっ?どういうこと?」
「舵取りを他人に任せちゃダメよ。真剣に考えに考え、どうしても揺るぎないものであれば思った通りにしたらいいと思うの。それが例え私たちと意見が違えてたとしても、本当に心の底からの決断であればみんなきちんと送り出すから」
「うん、ありがとう」
 思えば私の返答はあまりにも軽かった様に思う。姉は重苦しい雰囲気にならぬようにこやかに話したせいか、その言葉が後々重くのし掛かるなんて考えもしなかった。
「こんにちは」
 とそれなりに真面目な話をしていたところを割って入る見知らぬ男三名、何ぞお前ら?
「君たち二人? 俺たちとデートしない?」
「ごめんなさい、生憎二人ではないので」
 その辺さすが姉は慣れてらっしゃる、三人とも私の事は見ていないから黙っておこう。
「二人にしか見えないけど?」
「近くに居るはずですよ、連れがその辺りをうろついているんじゃ……」
 姉がそう言って辺りを見回すと背後に気配が。
「二人とも隙だらけじゃな~いナンパなんかされちゃってさぁ」
 その声に振り返ると案の定連れの三人が男たちを見てニヤっと笑う。男共は三人を見て……と言うか見上げてぽかんとしている、まぁ見てくれだけでもランクが桁違いですもんね。
「この二人に何か?」
 先輩は座っている姉の肩を抱くと男共に問う……と言うか凄んでるレベルですな、彼も秋都と身長が同じくらいなので完全に見下ろしてるもの。
「っ!連れってコイツラかよっ!」
 うんうん、見た目だけでも勝ち目無いもんねあんたらじゃ。ってか『お前もかよ?』的な視線を私に向けるのやめてくれない? 先輩はともかく二人は弟だ、悪いのは私ではない。
「えぇ、何か問題でも?」
「いっ!」
 見た目上玉の連れの男共に怯んでるけど姉の美貌のせいかなかなか立ち去ってくれない。
「だっだったらせめて同行させてくれないか!?俺ら地元民だから穴場も知ってるぜ!」
「いえ結構です、寄る所がありますので」
 姉はこれ以上相手にしないという意思表示としてすっと立ち上がる。あら? コイツら姉よりも小柄だったんだね、男共は予想以上に身長の高い彼女にえっ? という表情を見せている。お顔も小さいし細身ですからね、男にしてはってだけで決しておチビちゃんではないのよ。
「えっ? どこ行くの?」
「お教えする義務、あります?」
 姉はくるっと背を向けて先輩に寄り添う。私も後を追って付いて行くと……。
「そのブスはいいからべっぴんさんの方は置いてけよ」
 うん、私がブスなのは合ってるけど姉を置いて行くほど薄情じゃないんだ私たち。自分で言うのも憚られるがその発言地雷なんですわ、姉の表情はすっと変わり男共に歩み寄っていく。敢えて教えてやらないけどどうなっても知りませんから。
「おい誰がブスだって?」
 はい来ましたまずはオス化ですね。
「いやいや君じゃないよ、連れの方だってば……ぐがっ!」
 姉は発言した男の顎を掴む、お爪も長くていらっしゃるからきっと肌にくい込んで……お~痛そう。
「あ”? どの口で吐かしてんだてめぇ」
「あががっ!」
 顎を掴まれてる男は早くも涙目になってる、きっと若干のパワーアップはしてらっしゃるかもですがそこまでの怪力じゃないですようちの姉ってか兄ですね。
「おいあんた男かよ!」
「おい離してやれ……ってなんちゅう力してんだ!」
 男共は姉の急変に焦りまくってる。残り二人で必死に仲間を助けようとしてるけど姉の攻撃力は一向に衰えを見せない、いえさっきも言ったけどあんたら大袈裟なんだって。
「止めなくていいのか?」
 先輩は事の顛末に渋い表情を見せているが幻滅してるって程でもないらしい。
「良いんじゃな~い? なつ姉ちゃん貶すのが悪いんだも~ん」
 冬樹は呑気そうに笑ってる。
「まぁそうなんだが」
「それより間に合わなくなるぞ、おーいはる姉!」
 秋都は時計を見て姉を呼ぶが反応が無い、こりゃ相当お怒りで。
「ダメだこりゃ、完全頭に血が上ってる。なつ姉頼むわ」
 え~もうちょっと見て……じゃなかった、はいはい行けばいいんでしょ。私は現場に向かい姉に声を掛ける。
「お姉ちゃん、お昼間に合わなくなるよ」
「あっ、ゴメンねなつ。待たせちゃったわね」
 姉はころっと態度を変えて男の顎から手を離す。
「手が汚れちゃった、トイレにだけ寄ってもいい?」
「うん、あそこそうなんじゃない?」
 道すがらに木造建築の公衆トイレがあるがあまりキレイじゃなさそうだ。でも手を洗いに行くだけっぽいからまぁいっか。
「じゃ先行ってるね」
 姉は先輩たちとは合流せず直接トイレに向かう。さて戻るかと思って男共に背を向けると肩を掴まれ、強引に振り向かされるといきなり殴りかかろうとしてきた。
「てめぇなめやがって!」
 あぁ私相手ですから別に構いませんが女子にグーパン仕掛けるってどういう神経してんすかね? 私は男の拳をパンと払って胸ぐらを掴み軽く首を締めてやる、この感じだと全開モードじゃ多分死ぬな。
「ぐえっ! 離せっ!」
「あんた俺ら殺す気かよっ!」
 いえいえ仕掛けてきたのそっちでしょ? これあくまでも護身ですよ勘違いなさらないでね。唯一無傷の男は既に戦意喪失してるみたいで今にも泣きそうになってる、これ以上しても何の得もしないので手を離してやると男は膝からぐしゃっと崩れ落ちた。
「おーいなつ姉!」
「はいはーい、今行くー!」
 私は男共を放置してきょうだいたちと合流した。
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