平凡な女には数奇とか無縁なんです。

谷内 朋

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soixante et un

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 姉の運転で会場となる多目的ホール(余談だが有砂の勤務先でもある)に到着し、会場前には現在地である県庁所在地出身の東さんが一人で待っている。やっぱり水無子さんと睦美ちゃんよりは早く着いたみたい。
 ‎「お待たせしました、駅に間に合わなくて姉に送ってもらいました」
 ‎「私もさっき来たところ……夏絵ちゃん普段からそうしてればいいのに、巻髪とってもよく似合ってる」
 ‎お~さすがは姉、褒められちった。
 ‎「う~ん、毎日となるとスタイリングが……」
 ‎「だよねぇ。結局元の慣れた髪型に戻っちゃう」
 ‎東さんは細身の色白、小顔で頭の形がきれいなのでショートヘアがよく似合う。髪の毛にかなりのクセがあるそうで、基本はワックスで敢えてクセを出すスタイリングにしてる。
 ‎「東さんってずっとショートのイメージありますけど」
 ‎「社会人になってからはそうね。実は学校行ってた頃はずっとロングヘアだったの、その方がくせっ毛も目立たないから。ただ朝って時間との戦いになるじゃない、さすがに大人になって三つ編みお下げって訳にもいかないし」
 ‎「ですよね、私も学生時代はほとんどお下げでしたよ」
 ‎「あの時代でも多少『ダッセ』ってところはあったけど、寝ぐせ直すよりそっちの方が早いもの」
 ‎「ですよね~」
 ‎「「面倒臭いし~」」
 ‎なんて話をしてる間に電車移動組の二人がお待たせ~、と手を振ってやって来た。
 ‎「あ~、夏絵さんの方が早く着いてる~」
 ‎「ゴメン睦美ちゃん、ちょっとしたアクシデントで駅に間に合わなくなっちゃって……」
 ‎「道空いてて良かったじゃない、ちょっと早いけど中に入っちゃおう」
 ‎水無子さんツルのひと声に従い、私たちは間もなく始まる婚活パーティー会場となる多目的ホールに入る。この後何やかんやで驚きの連続となる事など知る由もなく。

 ……で、入場手続きを済ませて女性用控室で待つ私たち。同じようにグループで応募してきた方やお一人で来られた方など、総勢三十人ほどが用意された椅子に座っているとスタッフさんからお声が掛かる。見たところ有砂と同じ制服の方ではない、多分イベント会社側の方だろうな。
 ‎「今から会場へとご案内致します。バッジに書かれている番号順でのご入室となりますので、一番の方から順に並んでください」
 ‎因みに私のバッジには【30】と書かれていて、少なくともこの四人の中では一番後ろ……と思いなるべく入り口から離れるように立つ。
 ‎「私たち最後尾グループみたいですよぉ」
 ‎【27】のバッジを付けている睦美ちゃんが、前に並んでいる女性に声を掛けてからそう言ってきた。その言葉の通り他の皆様は全員私の遥か前方で列を作っており、後ろには誰一人いやしない。ほぉガチの最後尾ですかい、だからって何がどうって事もないけど。
 ‎スタッフさんの案内で女三十人が列を作っての大移動、その最後尾にいる私からは最前列にいらっしゃるスタッフさんの姿は見えていない。特に階段を使う事もなく本会場に到着したようで、ぞろぞろと一つの部屋に列が吸収されていく。私も例に漏れず中に入ると、用意されていた長ーいテーブル席に一列に並んで座っている男性陣多分三十名。
 ‎『最後の晩餐』かよ?と言うツッコミはさておき、若い番号の男性陣の姿はまだ判別出来ないけど見たところ知り合いっぽい方は……いたよ。二十番代前半辺りに推定中学の同級生が一人、右隣の方と一緒に来てるみたいでその方と軽く言葉を交わしている。頼む気付くなもしくは忘れててくれ……なんて思いながら長テーブル一番手前の椅子に収まった。
 ‎「お待たせ致しました、先ずは進行役のタカシナから内容の説明をさせて頂きます」
 ‎ん?タカシナ?部長と同姓だし結婚相談所のイベントではあるけど違うよね?ただこの辺りではあまり聞かない姓なだけにちょっと嫌な予感がする。私は顔を前方に向けて進行役の“タカシナ”を待ち受けていると、マイクを持って出てきたのは案の定……。
 ‎「ご紹介に預かりました高階尊です、ここからは私が進行訳を努めます」
 このガテン男遠目でも見間違えないわ、にしても異動早々大仕事お疲れ様です。出来れば気付かないでくれ……って多分無理だな、この人人の顔と名前覚えるのめちゃくちゃ得意だもの。
 ‎「……以上で説明を終わります。因みに余談なんですが女性三十番、高校大学時代の後輩でーす!」
 ‎そっそれを言うなクソ部長!私は要らぬ注目を集めてしまい、軽いノリでここに来てしまった事を本気で後悔した。それでも今更逃げ出せない……まぁいい何かあったらあのおっさんのせいにしてやる!先程のざわめきが若干残る中、先ずはテーブルに置かれてある封書から書類を取り出す。ご丁寧にボールペンもバインダーも用意されてて、それに目を通すと男性陣全員のプロフィールが記載されていた。さっきの説明でもあったけど終了後には回収するとの事。向かいの男性は……三十六歳銀行員、手堅いですなぁ。軽く自己紹介とか聞かれた事に答えたりなんてのを数分してから次の方のチェンジ。男性陣が動く事になっていて、向かいの方が席を立って最前列席に移動、隣の男性が向かいの席に座る。
 ‎これ三十人もすんのかよ……と二人目で早くも気疲れする私、二人目の方から三人目の方にチェンジする途中、ちょっと脇目に視線をそらしたところで推定中学時代の同級生と目が合った。たまたまだろうと視線をもとに戻そうとするとその彼軽く手を上げてきたんだけど……別の知り合いでもいるのかな?と周囲を見ても彼に反応してる方はいない。ん?コレ思い出されたちっく?ん~流石に無視は出来ぬと会釈だけ返し、三人目、四人目と同じ事を繰り返していくうちに八人目の男性として彼が私の前に座ってきた。
 ‎「お久し振り五条、俺の事憶えてる?」
 ‎えぇえぇ、あなた中学時代生徒会長なんぞやってたカーストグループトップの男じゃないですか。名前は確か野村拓哉のむらたくや、一年と三年の時同じクラスになっている。私はもちろんカーストグループではなかったけど、彼は誰にでも気さくに声をかけるタイプのようで割と普通に話してた記憶がある。
 ‎「えぇ、あなた有名人だったから。正直私を憶えてたってのはかなり意外」
 ‎「そうか?俺の中では仲の良い女友達って位置付けだったんだけど」
 ‎「そうなの?もっと仲の良い子一杯いたじゃない」
 ‎「あんなのただの挨拶だって」
 挨拶ってそんなに時間掛けてするものなのか?と言いたくなったのを堪えて軽く近況報告、彼は今司法書士をしているそうで既にバツイチ、子供はいないらしいけど……。
 ‎「二十二で一度結婚してるんだけど、資格取るのに忙しくしてる間に不倫されちゃって」
 ‎三年前に離婚、その直後に資格を取得出来たらしい。司法書士って結構良いお仕事だと思うけど……って似たような話まこっちゃんがしてたような。
 ‎「でもまぁアレだな、過去の未練というやつは視界を美しく霞めさせるものらしい。流石にそうなった女に今更用は無いさ」
 ‎野村君、今その話ちょっと重いわ……。
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