平凡な女には数奇とか無縁なんです。

谷内 朋

文字の大きさ
62 / 117

soixante deux

しおりを挟む
 野村君との短い対話も終わり、次から次へとは数分置きに入れ替わる男性陣……たかだかこれだけの事でも三十人相手にこれをするのってマジ疲れる。多分小一時間は経過してると思う、大して動いてないのにお腹空いてきたもん。
 ‎ここまでの対話では何と言いますか、とにかく部長の余談のおかげで顔と名前は覚えられてしまった。そこを掴みとして母校が同じ方も数名いらっしゃって、全体的に会話はしやすかったように思う。
 ‎二十人目の方も過ぎて一桁番号の男性との対話中、斜め前方から少々チャラ目というかアホっぽい笑い声……この声聞き馴染みありすぎて見なくても分かる、お茶屋のおサボり息子ぐっちーだ。この前まこっちゃんに貰ってた婚活パーティーのパンフってここのだったの!?
 ‎うわぁ~こんなとこで幼馴染と会おうとは、しかも酸いも甘いも知り尽くしたあいつともコレしなきゃなんないの?名前小口俊明、歳は二十九、身長百六十五、高校卒業後茶葉製造会社で五年間修行を兼ねて就職、んで今は実家で後継者修行(末っ子長男だからね)、年収は何だかんだで五百万……ん?同世代のサラリーマンよか全然収入あるじゃない、多分多少盛ってるだろうけどなコイツの事だから。
 ‎それでもその時はやってくる。遂に私の前にぐっちーが座り、のっけから目立つ事しやがってと笑われてしまった。
 ‎「あれは私のせいじゃないもの、事故よ事故」
 ‎「にしたってお前と話す事なんて無いぞ」
 「それはお互い様、アンタ一人で……」
 ‎と言いかけて何となく斜め前方を見るとぐっちーの隣にももう一人……これちょっとした同窓会じゃないの。
 ‎「……来る訳無いわよね」
 ‎「何だ聞いてなかったのか?」
 ‎「ここに来る事まで聞いてない、何だかなぁ……」
 ‎「それはこっちのセリフだ、よりにもよって何でなつがここに居るんだよ?」
 ‎何でお前にげんなりされにゃならんのだ?私以外に二十九人、一人くらい好みに近い方居そうなもんでしょ。
 ‎「……面白そうだったから?」
 ‎「何だ?その真剣味の無さは。まぁ郡司と手を切るにゃあ悪いやり口ではないわな、相手見つけられればの話だけど」
 ‎「何よその『お前には無理』ちっくな言い方?」
 「イヤだって好きそうな見た目の奴居ないじゃん、野村が一番近いけどあいつだと多分競争率高いぞ」
 ‎物臭なつはそこで引く。向かい席の男にキッパリとそう言われてしまい項垂れるしかない私、いえ野村君の格好良さってタイプじゃないのよ。まぁぐっちーもそこんとこ分かった上で言ってるんだけど。
 ‎「いよいよ最後の方ですね!皆様そろそろお疲れでしょうからこの後お食事のご用意をさせて頂きまーす!もちろんフリートークに持ち込んでもらっちゃってもOKですよー!」
 ‎部長のアゲアゲテンションに若干イラッとしつつもいよいよ最後の男性……又しても腐れ縁。
 ‎「んじゃななつ、武運を祈っててやるよ」
 ‎「その言葉そっくりそのまま返してやるわ」
 ‎ぐっちーは自分の事を棚に上げて最前列席に向かっていった。そして最後になる一番のバッジを付けた腐れ縁が私の向かいに座る。
 ‎「……何やってんだ?」
 ‎それはこっちのセリフだ、私はカジュアルスーツを身に着けているてつこをガン見してやった。
 ‎「……どしたの?そのスーツ」
 ‎「あぁ、まこっちゃんに仕立ててもらった」
 ‎「今日の為にわざわざ?」
 ‎あぁ、まぁ……てつこは居心地悪そうな表情を見せてくる。いえ悪くはないですよ、ただ見慣れなさ過ぎてどう接してやってよいのか分からなくなる。
 ‎「着慣れなさ全開過ぎ」
 ‎「成人式以来だと思う、こんなちゃんとしたスーツ着るの」
 ‎うん、コイツ普段ツナギ(仕事着)かTシャツにデニムってスタイルがほとんどだもんね、ファッションにも頓着無くって杏璃に呆れられる勢いで。
 ‎「どう?感触は」
 ‎「……子持ちなのが引かれる、『小さい子であればともかく十二歳ってのが……』って言われた」
 ‎杏璃に罪は無いんだけどさ。娘を思っての行動だから何とも言えない気持ちになるのは分かるけど、席戻る時はその辛気臭い顔は閉まっときなさいよ、いつどこでどんな展開が待ってるか分かんないんだから。
 ‎「杏璃には話したの?」
 ‎「あぁ、『あのクソババァ・・・・・んとこ行くのだけはゴメンだから』って言われた。なだけにちょっと焦りもあったりする」
 ‎「焦るとかえって遠退くよ」
 ‎「まぁ……そうなんだろうな。なつはむしろ張り切り過ぎ、はるさんに丸投げしたろ?」
 ‎あぁやっぱ分かるんだね、私コーデじゃない事くらいお見通しですかい?
 ‎「私がしたら仕事の時と変わらないんだもん」
 ‎「けど相手と会う度にはるさん任せにすんのか?そんなメッキすぐ剥がれるぞ」
 ‎「う~んそこなんだよねぇ……こんなの自分で出来ないしさぁ」
 ‎私は何となくくるくるにキープされてる毛先を軽くいじる。てつこは私の後方を見るかのように体を少しずらしてる。
 ‎「それ、おばさんのバレッタだろ?」
 ‎「えっ!?よく憶えてんねそんな事」
 ‎部長ほどでは無いと思うけどてつこの記憶力もなかなかのものである。そう言えば幼稚園年長の時……ちょっと長くなるから後にしよ。
 ‎「だって『黒蝶』モチーフって自体珍しいだろ?」
 ‎「『黒蝶』?」
 ‎「ダリアの品種の一つ。球体みたいな花咲かせるんだ、そのモチーフみたいに」
 ‎「へぇ、ダリアとは聞いてたけど……アンタ植物詳しかったっけ?」
 ‎「兄貴が図鑑持ってたんだ……杏璃もそこは似たらしくて」
 ‎そこはやっぱり親子だよ。てつこの表情がようやっと緩んだような気がした、子持ちってのを気にしないで向き合ってくれる女性が現れるといいんだけどねぇ……。
 「ここで一対一のトークは終了とさせて頂きます。只今からビュッフェの支度のためお時間頂きますので隣の部屋でお待ちください。ドリンクとお菓子もいくらかご用意してますのでご自由にお召し上がりください」
 はぁ~やっと終わったぁ……私は椅子の背もたれに身を預けて大きく伸びをする。てつこはもうちょい我慢出来なかったのか?と苦笑いを浮かべながら最前列席に戻っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...