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soixante deux
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野村君との短い対話も終わり、次から次へとは数分置きに入れ替わる男性陣……たかだかこれだけの事でも三十人相手にこれをするのってマジ疲れる。多分小一時間は経過してると思う、大して動いてないのにお腹空いてきたもん。
ここまでの対話では何と言いますか、とにかく部長の余談のおかげで顔と名前は覚えられてしまった。そこを掴みとして母校が同じ方も数名いらっしゃって、全体的に会話はしやすかったように思う。
二十人目の方も過ぎて一桁番号の男性との対話中、斜め前方から少々チャラ目というかアホっぽい笑い声……この声聞き馴染みありすぎて見なくても分かる、お茶屋のおサボり息子ぐっちーだ。この前まこっちゃんに貰ってた婚活パーティーのパンフってここのだったの!?
うわぁ~こんなとこで幼馴染と会おうとは、しかも酸いも甘いも知り尽くしたあいつともコレしなきゃなんないの?名前小口俊明、歳は二十九、身長百六十五、高校卒業後茶葉製造会社で五年間修行を兼ねて就職、んで今は実家で後継者修行(末っ子長男だからね)、年収は何だかんだで五百万……ん?同世代のサラリーマンよか全然収入あるじゃない、多分多少盛ってるだろうけどなコイツの事だから。
それでもその時はやってくる。遂に私の前にぐっちーが座り、のっけから目立つ事しやがってと笑われてしまった。
「あれは私のせいじゃないもの、事故よ事故」
「にしたってお前と話す事なんて無いぞ」
「それはお互い様、アンタ一人で……」
と言いかけて何となく斜め前方を見るとぐっちーの隣にももう一人……これちょっとした同窓会じゃないの。
「……来る訳無いわよね」
「何だ聞いてなかったのか?」
「ここに来る事まで聞いてない、何だかなぁ……」
「それはこっちのセリフだ、よりにもよって何でなつがここに居るんだよ?」
何でお前にげんなりされにゃならんのだ?私以外に二十九人、一人くらい好みに近い方居そうなもんでしょ。
「……面白そうだったから?」
「何だ?その真剣味の無さは。まぁ郡司と手を切るにゃあ悪いやり口ではないわな、相手見つけられればの話だけど」
「何よその『お前には無理』ちっくな言い方?」
「イヤだって好きそうな見た目の奴居ないじゃん、野村が一番近いけどあいつだと多分競争率高いぞ」
物臭なつはそこで引く。向かい席の男にキッパリとそう言われてしまい項垂れるしかない私、いえ野村君の格好良さってタイプじゃないのよ。まぁぐっちーもそこんとこ分かった上で言ってるんだけど。
「いよいよ最後の方ですね!皆様そろそろお疲れでしょうからこの後お食事のご用意をさせて頂きまーす!もちろんフリートークに持ち込んでもらっちゃってもOKですよー!」
部長のアゲアゲテンションに若干イラッとしつつもいよいよ最後の男性……又しても腐れ縁。
「んじゃななつ、武運を祈っててやるよ」
「その言葉そっくりそのまま返してやるわ」
ぐっちーは自分の事を棚に上げて最前列席に向かっていった。そして最後になる一番のバッジを付けた腐れ縁が私の向かいに座る。
「……何やってんだ?」
それはこっちのセリフだ、私はカジュアルスーツを身に着けている男をガン見してやった。
「……どしたの?そのスーツ」
「あぁ、まこっちゃんに仕立ててもらった」
「今日の為にわざわざ?」
あぁ、まぁ……てつこは居心地悪そうな表情を見せてくる。いえ悪くはないですよ、ただ見慣れなさ過ぎてどう接してやってよいのか分からなくなる。
「着慣れなさ全開過ぎ」
「成人式以来だと思う、こんなちゃんとしたスーツ着るの」
うん、コイツ普段ツナギ(仕事着)かTシャツにデニムってスタイルがほとんどだもんね、ファッションにも頓着無くって杏璃に呆れられる勢いで。
「どう?感触は」
「……子持ちなのが引かれる、『小さい子であればともかく十二歳ってのが……』って言われた」
杏璃に罪は無いんだけどさ。娘を思っての行動だから何とも言えない気持ちになるのは分かるけど、席戻る時はその辛気臭い顔は閉まっときなさいよ、いつどこでどんな展開が待ってるか分かんないんだから。
「杏璃には話したの?」
「あぁ、『あのクソババァんとこ行くのだけはゴメンだから』って言われた。なだけにちょっと焦りもあったりする」
「焦るとかえって遠退くよ」
「まぁ……そうなんだろうな。なつはむしろ張り切り過ぎ、はるさんに丸投げしたろ?」
あぁやっぱ分かるんだね、私コーデじゃない事くらいお見通しですかい?
「私がしたら仕事の時と変わらないんだもん」
「けど相手と会う度にはるさん任せにすんのか?そんなメッキすぐ剥がれるぞ」
「う~んそこなんだよねぇ……こんなの自分で出来ないしさぁ」
私は何となくくるくるにキープされてる毛先を軽くいじる。てつこは私の後方を見るかのように体を少しずらしてる。
「それ、おばさんのバレッタだろ?」
「えっ!?よく憶えてんねそんな事」
部長ほどでは無いと思うけどてつこの記憶力もなかなかのものである。そう言えば幼稚園年長の時……ちょっと長くなるから後にしよ。
「だって『黒蝶』モチーフって自体珍しいだろ?」
「『黒蝶』?」
「ダリアの品種の一つ。球体みたいな花咲かせるんだ、そのモチーフみたいに」
「へぇ、ダリアとは聞いてたけど……アンタ植物詳しかったっけ?」
「兄貴が図鑑持ってたんだ……杏璃もそこは似たらしくて」
そこはやっぱり親子だよ。てつこの表情がようやっと緩んだような気がした、子持ちってのを気にしないで向き合ってくれる女性が現れるといいんだけどねぇ……。
「ここで一対一のトークは終了とさせて頂きます。只今からビュッフェの支度のためお時間頂きますので隣の部屋でお待ちください。ドリンクとお菓子もいくらかご用意してますのでご自由にお召し上がりください」
はぁ~やっと終わったぁ……私は椅子の背もたれに身を預けて大きく伸びをする。てつこはもうちょい我慢出来なかったのか?と苦笑いを浮かべながら最前列席に戻っていった。
ここまでの対話では何と言いますか、とにかく部長の余談のおかげで顔と名前は覚えられてしまった。そこを掴みとして母校が同じ方も数名いらっしゃって、全体的に会話はしやすかったように思う。
二十人目の方も過ぎて一桁番号の男性との対話中、斜め前方から少々チャラ目というかアホっぽい笑い声……この声聞き馴染みありすぎて見なくても分かる、お茶屋のおサボり息子ぐっちーだ。この前まこっちゃんに貰ってた婚活パーティーのパンフってここのだったの!?
うわぁ~こんなとこで幼馴染と会おうとは、しかも酸いも甘いも知り尽くしたあいつともコレしなきゃなんないの?名前小口俊明、歳は二十九、身長百六十五、高校卒業後茶葉製造会社で五年間修行を兼ねて就職、んで今は実家で後継者修行(末っ子長男だからね)、年収は何だかんだで五百万……ん?同世代のサラリーマンよか全然収入あるじゃない、多分多少盛ってるだろうけどなコイツの事だから。
それでもその時はやってくる。遂に私の前にぐっちーが座り、のっけから目立つ事しやがってと笑われてしまった。
「あれは私のせいじゃないもの、事故よ事故」
「にしたってお前と話す事なんて無いぞ」
「それはお互い様、アンタ一人で……」
と言いかけて何となく斜め前方を見るとぐっちーの隣にももう一人……これちょっとした同窓会じゃないの。
「……来る訳無いわよね」
「何だ聞いてなかったのか?」
「ここに来る事まで聞いてない、何だかなぁ……」
「それはこっちのセリフだ、よりにもよって何でなつがここに居るんだよ?」
何でお前にげんなりされにゃならんのだ?私以外に二十九人、一人くらい好みに近い方居そうなもんでしょ。
「……面白そうだったから?」
「何だ?その真剣味の無さは。まぁ郡司と手を切るにゃあ悪いやり口ではないわな、相手見つけられればの話だけど」
「何よその『お前には無理』ちっくな言い方?」
「イヤだって好きそうな見た目の奴居ないじゃん、野村が一番近いけどあいつだと多分競争率高いぞ」
物臭なつはそこで引く。向かい席の男にキッパリとそう言われてしまい項垂れるしかない私、いえ野村君の格好良さってタイプじゃないのよ。まぁぐっちーもそこんとこ分かった上で言ってるんだけど。
「いよいよ最後の方ですね!皆様そろそろお疲れでしょうからこの後お食事のご用意をさせて頂きまーす!もちろんフリートークに持ち込んでもらっちゃってもOKですよー!」
部長のアゲアゲテンションに若干イラッとしつつもいよいよ最後の男性……又しても腐れ縁。
「んじゃななつ、武運を祈っててやるよ」
「その言葉そっくりそのまま返してやるわ」
ぐっちーは自分の事を棚に上げて最前列席に向かっていった。そして最後になる一番のバッジを付けた腐れ縁が私の向かいに座る。
「……何やってんだ?」
それはこっちのセリフだ、私はカジュアルスーツを身に着けている男をガン見してやった。
「……どしたの?そのスーツ」
「あぁ、まこっちゃんに仕立ててもらった」
「今日の為にわざわざ?」
あぁ、まぁ……てつこは居心地悪そうな表情を見せてくる。いえ悪くはないですよ、ただ見慣れなさ過ぎてどう接してやってよいのか分からなくなる。
「着慣れなさ全開過ぎ」
「成人式以来だと思う、こんなちゃんとしたスーツ着るの」
うん、コイツ普段ツナギ(仕事着)かTシャツにデニムってスタイルがほとんどだもんね、ファッションにも頓着無くって杏璃に呆れられる勢いで。
「どう?感触は」
「……子持ちなのが引かれる、『小さい子であればともかく十二歳ってのが……』って言われた」
杏璃に罪は無いんだけどさ。娘を思っての行動だから何とも言えない気持ちになるのは分かるけど、席戻る時はその辛気臭い顔は閉まっときなさいよ、いつどこでどんな展開が待ってるか分かんないんだから。
「杏璃には話したの?」
「あぁ、『あのクソババァんとこ行くのだけはゴメンだから』って言われた。なだけにちょっと焦りもあったりする」
「焦るとかえって遠退くよ」
「まぁ……そうなんだろうな。なつはむしろ張り切り過ぎ、はるさんに丸投げしたろ?」
あぁやっぱ分かるんだね、私コーデじゃない事くらいお見通しですかい?
「私がしたら仕事の時と変わらないんだもん」
「けど相手と会う度にはるさん任せにすんのか?そんなメッキすぐ剥がれるぞ」
「う~んそこなんだよねぇ……こんなの自分で出来ないしさぁ」
私は何となくくるくるにキープされてる毛先を軽くいじる。てつこは私の後方を見るかのように体を少しずらしてる。
「それ、おばさんのバレッタだろ?」
「えっ!?よく憶えてんねそんな事」
部長ほどでは無いと思うけどてつこの記憶力もなかなかのものである。そう言えば幼稚園年長の時……ちょっと長くなるから後にしよ。
「だって『黒蝶』モチーフって自体珍しいだろ?」
「『黒蝶』?」
「ダリアの品種の一つ。球体みたいな花咲かせるんだ、そのモチーフみたいに」
「へぇ、ダリアとは聞いてたけど……アンタ植物詳しかったっけ?」
「兄貴が図鑑持ってたんだ……杏璃もそこは似たらしくて」
そこはやっぱり親子だよ。てつこの表情がようやっと緩んだような気がした、子持ちってのを気にしないで向き合ってくれる女性が現れるといいんだけどねぇ……。
「ここで一対一のトークは終了とさせて頂きます。只今からビュッフェの支度のためお時間頂きますので隣の部屋でお待ちください。ドリンクとお菓子もいくらかご用意してますのでご自由にお召し上がりください」
はぁ~やっと終わったぁ……私は椅子の背もたれに身を預けて大きく伸びをする。てつこはもうちょい我慢出来なかったのか?と苦笑いを浮かべながら最前列席に戻っていった。
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