わたしの“おとうさん”

谷内 朋

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母の死と因果応報

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 母が死んだ、仕事中事故に巻き込まれたそうだ。

 親族といえば四十歳を過ぎてなお独身である母の妹のみであり、父も祖父母もいやしない。母は未婚で私を産み、一人っ子のため齢十八で天涯孤独の身となった(叔母がいるからそうとも言えないのか)。

 高校生活もあとひと月ほど残っており、間もなくセンター試験も控えているというのに……本音を言えば何ともはた迷惑な話であるが、決して母が悪い訳ではないしこういったアクシデントはいちいち都合なんか考慮しちゃくれないものだ。

 さらに言えば母も叔母も同じような経験をしており、母の時は祖父が、叔母の時は祖母が亡くなっている。しかし皮肉なことにそれなりのお金が代償として入ってきて、母は首都圏の一流私立大学を一流の成績で卒業したと聞いている。

 私が受験する大学は一流ではないが、一応お財布事情を考慮して国公立大学の受験を決めている。それにしてもこのタイミングで親を失うなんて……母娘二代でそんな体験を味わうことになろうとは思ってもみなかった。

 私たち母子は、とある地方都市の住宅街にそびえ立っているまぁまぁ大きなマンションの八階に住んでいる。元は別の場所の出身なのだが、高校入学のタイミングで母の栄転が決まってここに移住した。

 周囲の住民はほとんどが転勤族の単身暮らしのようで、ご近所付き合いはおろか隣に住んでいる人の顔も知らない。その点は気楽であるが、葬儀の準備をするにあたって何をすれば良いのかさっぱり分からない。私はまず叔母へ母の訃報を報せた。県をまたぐ程度には離れている所に住んでいるため、たった一人の縁者ではあるがさほど頻繁に連絡を取り合っていない。

 しかし叔母はふくよかな体型に似合わず、まさに“すっ飛んでくる”に相応しい早さで駆けつけてくれた。ところが彼女は見たことの無い若い男を一人伴っていた。愛人か? とも思ったが独身なんだから自由にしていいのか。私のそんな疑問に気付いたのか、彼はリョウという名の従業員だと言った。

 リョウという男は私をチラと見ただけで会釈もしない。それ自体はどうでも良いのだが、喫茶店の従業員なのに無造作に伸びているクセのある黒髪が顔にかかっていて鬱陶しい。ところが目元まで覆っている髪から覗く瞳の美しさが存在感を放っている、それが彼の第一印象であった。

 叔母は家業を継いで喫茶店を営んでいるのだが、料理が苦手でコーヒーも飲めないのによく引き受けたなと思う。二十歳くらいの時に大学を中退して実家に戻ったと聞いているが、本来であれば長女である母がすることなのだろうと思えば、仕事一筋に生きてきた母の犠牲になったと言えなくもない。
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