わたしの“おとうさん”

ぎこちない合格祝い

　千葉さんは見た目通り堅実な生活をなさっていてこれといった借金も無いらしい。ただ奥さんとの離婚は考えているみたいで、それ次第では纏まったお金を用立てる必要があるかもといった程度だそうだ。ただご実家もそれなりに裕福だから保険金を狙う理由が無いらしい。

　長野さんは企業経営者だから借金はある、しかしそれは付きもので人様の保険金を狙うほどひっ迫した経営状態でもないらしい。現にここ十年くらいはキチンと黒字を出していてむしろ優良企業だと言っていた。

　神戸さんは最近さほど活動はしていないが、昨年引退したミレーという女性歌手のＣＤセールスやカラオケの印税で十分暮らしていけるらしい。それどころかこれまでのプロデュース活動で億万長者レベルに稼いでおり、借金どころか投資や寄附をしてもお金が余るという羨ましい財政事情だそうだ。

　金銭事情でないのなら尚更『何故今になって？』である。小さい頃はお父さんがいないという理由であれやこれやと色眼鏡で見られたものだ、可哀想と意味もなく虐げてくるのもいたし。けど母は誰にも頼らずたった一人で私をここまで育ててくれた。たとえ母がいなくなった現状でも、取ってつけたような親父など今の私には必要ない。

「取り敢えず乾杯でもしとく？　はるなの合格祝いってことで」

　叔母の音頭でぎこちない乾杯が執り行われ、イマイチ盛り上がらない夕食が始まった。おっさんたち……長野さんと神戸さんは酒好きなようで調子良くビールを消費している。千葉さんは飲めないらしく、私と同じ烏龍茶を飲んでいらっしゃる。

　母曰く叔母は酒乱気味らしいので一杯だけ付き合って烏龍茶に切り替えており、リョウは焼酎をロックで飲んでる。へぇ、お酒強いんだ……なんて思っていると視線に気付いたのかこっちに顔を向けてきた。

「何だよ？」

　そこまで嫌そうにするか？　随分と嫌われたものだ、別にいいけど。

「焼酎好きなんだって思っただけ」

「まぁ……嫌いじゃない」

　リョウはそれだけ言ってそっぽを向く。完全に嫌われているようにしか見えないのに、何故か叔母は私たちを微笑ましく見つめていた。