わたしの“おとうさん”

谷内 朋

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三者三様の贈り物

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 「そうだはるなちゃん、これ合格祝い」

 と千葉さんが小さな紙袋を差し出した。それはちょっと厚手の紙袋で見るからに高級そうな出で立ちをしており、【stationery KAITO】と小さく書かれている。

「はるなちゃんって左利きだよね? ここの文具店左利き事業に力入れてるんだって」

 確かに私は左利きだがよくそんなの見てたなと思う。しかも食事と習字は右手を使うので、葬儀中左利きを見せる場などほぼ無かったはずだ。現に今だってお箸は右手、食器は左手に持っている。

「ありがとうございます」

 別に祝われる筋合いはないのだが、わざわざ場を乱す必要性を感じないので礼を言って受け取っておく。

「僕からはこれ」

 次いで長野さんは打って変わって大きな紙袋を差し出した。

「良かったら学校行く時にでも使ってよ、ちょっと重いけどめちゃくちゃ丈夫だから」


「ホントに重いですね」

 それは軽量化とは真逆をいく重厚感溢れる代物で、ちょっと気になって中を覗いてみるとバッグっぽかった。

「A4サイズが入るショルダーバッグ、シートベルトの再利用で作られた鞄だから雨にも強いよ」

「ありがとうございます」

「いやぁ上等なの用意してんじゃんお二人さん」

 神戸さんはポケットをごそごそと漁ってから私の前にグーの状態にしている右手を置いた。

「俺からはコレ、まぁあげるというより返すっつった方がいいんだけど」

 彼はそう前置きしてからグーの手を緩めるとコトンと固い音がした。優男げな顔とは似合わず節くれだった大きな手を退けると金色の懐中時計が静かに佇んでいる。

「どおりで見つからないと思った、これ大学の合格祝いでお父さんが生前に買い置いてたやつだ」

 叔母は久し振りに見たといった感じでそれに顔を近付けてる。

「うん。俺気付かずに持って帰っててさ、いつか返そうと思いながらずっと忘れてたわ」

「要は借りパクしてたんだな、他にもあるんじゃないだろうね?」

「かも知れない、探しとく」

 神戸さんは目尻を下げてへらっと笑う。私はその目元にちょっとした懐かしさを感じたが、やっぱり今更感が抜けなくてその気持ちを否定するかのように心の奥底へ追いやった。

 今のところ何の解決もしていないのだが、時間が経ってくると気持ちの方もだいぶ落ち着いてきた、。ただここへきて共同生活? これまで母一人子一人の生活の慣れてしまっていて、こんな大人数しかも他人だらけの雑多な環境に身を置いたことが無い。

 一体どうしたらいいんだ? 個人部屋はあるけど身の振り方が分からない。それにアレだ、赤の他人のいい歳した男が四人もいるんだ、私は男のいる環境というものを経験していないので何というか怖さもある。叔母がいるから問題は起きないだろうがそういうことではない、こんなことなら今からでも部屋を探そう。うん、そうする。

 防犯として鍵付きのドアノブに換えてもらい、部屋に入ると必ず内鍵をかけた。食事の時間も極力ずらし、顔を合わせそうな時は入学前の準備を理由に部屋で食事を摂った。三人のおっさんたちもリョウも一定の気遣いを見せて必要以上に近付いてこず、そうこうしている間に四月になった。

 なるべく家にいる時間を減らし、キャンパスライフというやつに必死に溶け込もうとした。それがどうにか実を結んでサークル活動に顔を出すようになり、親しくしてくれる人たちも徐々に増えていった。そうなると自然と大学生活が忙しくなり、気付けば叔母を除く同居人がさほど気にならなくなっていた。
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