わたしの“おとうさん”

谷内 朋

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迷路を進めば行き止まり

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 その時のやり取りのせいで叔母宅に更に足が向かなくなり、後期の授業も始まって学校、バイト、デートが主だった日課になっていた。たまに叔母からメールはあったが、テキトーに受け流してマトモなやり取りすらしていない。

「実は起業してみようと思うんだ」

 既に内定をもらい、卒業まであと半年となっている萩君が突然そんなことを言い出した。

「えっ? 急にどうしたの?」

 何故急にそんなことを言い出したのか、私には皆目見当がつかなかった。

「急な話でもないんだよ、実は前々から自分で何かをしたいって思いはあったんだ」

「そう、なんだ」

 これまでそんな素振りを全く見せてこなかった彼が少しだけ遠退いたような気分になった。

「でも就職はどうするの? 内定もらってるよね?」

「一応副業は禁止されてないから大丈夫だよ、初めから大々的にする訳じゃないし。経験できることは若いうちに色々とやっておきたいんだ」

 彼はそう言って爽やかな笑顔を見せた。それがとても頼もしく感じて更に素敵に見えた。この日も私を愛してくれる……けどやっぱり“ナイショ”のままの関係で、あっても無いようなものなのかと寂しさも燻っていた。


 この話が出たのを境に叔母宅の住民が家を訪ねるようになった。ほとんどが抜き打ちで、彼だと思って玄関を開けるとさくらだった時は物凄いダメージを食らった。

「あのさぁ、余計なお世話なのは承知だけど連絡くらいちゃんとしなさいよ」

 相変わらず厚かましい女だ、ちょっとキレイな顔してれば何でも許されると思うな。

「分かっているのであれば放っておいてください」

「そうはいかないのよ、なつひさん今日から入院だから」

「えっ⁉」

 その言葉が私にはショックだった。聞けば子宮内にしこりが見つかったため検査入院をすることになったのだが、悪性であれば摘出手術をすることになりそうなので身内である私の同意が必要になってくると言った。

「それとコレ、リョウ君から」

 さくらは手に持っている紙袋を押し付けて帰っていった。叔母が入院……その事実に母が死んだ時に似た穴が新たにできたような気がして、疼くような痒いような気持ち悪さが胸元を支配する。どうしたらいいんだろう……? 何をしてよいのかなんて全く思いつかなかったが、取り敢えずケータイを掴んで叔母のケータイ番号に通話を試みていた。
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