傍観者

谷内 朋

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ⅩⅧ

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 二日後の夕方になり、漸く香津が戻ってきた。私は久し振りにアルバイトに出てクタクタだったが、夕飯の当番に当たっているのでキッチンに立って蕎麦を茹でている。今日はスーパーで海老がセールで安くなっていたので張り切って天麩羅を揚げてみた。海老だけではとピーマン、茄子、かき揚げと大盤振る舞いで、折角なら天麩羅蕎麦にしてしまおうと蕎麦を茹でて汁もちゃんと作ってある。
 「麻帆が揚げものなんて珍しいね」
 香津は珍しくキッチンを覗いてくる。
 「そうですね、海老が安かったんです」
 「由梨はしょっちゅう過ぎて萎える、四日に一度揚げものの日ってくらいだもの」
 由梨は揚げものが大好物らしくて彼女が料理をする日は必ずと言っていいほど揚げものがある。唐揚げ、フライ、フリッターなどなど、自炊に限らずスーパーの惣菜品も含まれる。
 「それでダイエットダイエット言ってるんだから。痩せる訳無いっての」
 確かに由梨は中背ぽっちゃり体型だ。色白なので見た目は女の子らしく優しそうな印象だが、実際は粘着質で気も強いしやられたらやり返す性格だと思う。
 「そう言えば郵便物をラックに入れてます」
 「ありがとう、チェックしとく」
 香津は私から離れてリビングとダイニングの境に位置するレターラックへと移動していった。私は郵便物をひとまとめにして新垣仁志が家に来たことを記したメモを挟んでおいた。慰安旅行中に知りたくもない内容だと思ったし、あの様子だとまた訪ねてくる可能性もある。余計なお世話かとも思ったが一応知る権利だか責務だかはあると思う。
 「……アイツ遂に家に来たか」
 香津はチッと舌打ちする。
 「ったくウゼェわ」
 と捨て台詞を吐いて二階に上がっていった。機嫌は損ねたのだろうがそれで私に文句を言ってこなかっただけマシという事にしておく。それから由梨とミカも立て続けに帰宅してきてかなり久し振りに四人で食卓を囲む。隣にはミカ、向かいには香津が座るいつもの光景だが、基本食事中はミカとの会話を控えている。
 何故か?まだ由梨が来る前の時期にたまたま共通の話題で盛り上がってしまった事で香津が食事中にブチ切れたからだ。それから間もなく由梨が転がり込み、仕返しとばかり二人だけで会話を弾ませ爪弾きにしてきたのだ。たちの悪い事に私とミカのどちらかが一人になる日を敢えて狙いすまし、これで分かったでしょ的な被害者面をゴリ押しされて面倒臭くなったからだ。
 今でも香津と由梨は私とミカを放置してよく分からない内輪ネタで盛り上がるのが常なのだが、今日は何故かそれが無い。まぁ静かに飯が食えるので願ったり叶ったりなのだが、そう言えば内輪ネタに辟易としてた私がミカに話し掛けたら「聞いてんの!?」と逆ギレされた事も付け加えておこう。この時はさすがに「内輪ネタは聞いてても分かりませんのでそちらでお好きに盛り上がってください」と言い返しておいたが。
 「……」
 「……」
 ダイニング内では蕎麦の啜る音しか聞こえてこない。まぁそれも良いものだと何食わぬ顔で食事をしていると由梨がねぇねぇと静寂を打ち破ってきた。
 「麻帆ちゃん、取材旅行は楽しかった?」
 「えぇまぁ、仕事の割には」
 私はそれだけ答えて蕎麦を啜る。
 「良いよねぇ、仕事で遊びに行けるなんて」
 そう見えなくはないだろうがこっちは遊びでやってる訳ではない。だからと言って由梨にそれを説明してやる気も無いが。
 「ソウデスネ」
 それだけ答えてあとは無視だ、腹の中ではそれなりにいきり立っているが、それを表面化させたところで何になるのだろうか?由梨は何か言いたそうにこちらを見ている事に気付いてはいたが、私は由梨と一切視線を合わせず天麩羅をかじる。うん、我ながら上出来だ。
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