星に名前を

谷内 朋

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廿五

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「ここまで情愛深く温かいあなたの気持ちが彼女に全く伝わらなかったのはどうしてなのか」

「気持ちを伝えたことが無いからですよ」

 藤巻は当然だとでも言いたげに素っ気なく言い返す。

「そうではありません、彼女は信仰してもらおうなんて思ってないんです。女神ではありませんからね」

 彼は松井の言わんとしている事が理解出来ない様子を見せているが、構わずそのまま話を続ける。

「彼女は肉体を持ち、寿命に限りのある生き物なんです。体内に血が通い、ありとあらゆる感覚を持ち合わせ、喜怒哀楽を表現する生身の人間の女性なんです。人を好きになるということは、相手の肌の滑らかさ、体温を直で感じたいはずなんです」

 普段に無く饒舌な松井に藤巻は目を閉じて首を垂れて目を閉じる。

「ところがあなたはそれを彼女に望んでいない。だからいくらでも深くなるし、報われなくても構わないという強さまで出てくるんです。ただそのままそうしているのはさすがに……」

「時間のムダ、ですね」

 藤巻は言葉を予測していたかのように言ってため息を吐いた。

「しっかし参ったな、いちいち腑に落ちてムカつくくらいですよ」

 はぁ~。彼は大きく息を吐いて空を見上げた。

「やはり伝えないおつもりですか?」

「伝えない。ナナが幸せならそれでいい、あなたなら大丈夫でしょう」

「そんなの分かりませんよ」

 松井は、予想以上に信頼されている事に少々むず痒さを感じてしまう。

「どう転んでもあいつは後悔しない、あなたと出逢って強くなりました」

「そうですか。元々頑丈な方なのかと思ってました」

 何だよそれ? 藤巻にはツボだったのか急に笑い出した。

「えっ? 違ってたんですか?」

 キョトンとする松井を見て彼は更に笑う。

「まぁ女って強い生き物だけどさ。今日は絶好の星空日和ですから何かありそうですよ」

 さてと。藤巻はスッキリしたような表情で大きく伸びをしてから屋内に入り、セッティングしている望遠鏡を覗き始める。松井もつられるように中に入り、生中継の星空画像で観測をしていると本の僅かな異変に釘付けとなった。
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