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十二
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「それは……どうゆうことかしら?」
突然やって来た明琳の言葉に翠季の美しい柳眉がピクンと跳ね上がる。
純白の扇で口元を隠してはいるが、声には戸惑いや訝るような声色が混ざっている。
「淑妃様が毒を盛られたことについて、暗殺ではない可能性が考えられる……ということですわ」
どうも合点がいかない翠季はこめかみを微かにヒクヒクさせていた。
夏の宴の場で起きたこととはいえ、皇帝の四夫人の一人である淑妃の命が狙われたのだ。
未だに目を覚ましておらず、もし最悪なことにでもなれば、後宮……ひいては皇后である翠季に責任の矛先が向きかねない事態である。
忠誠を誓いながら裏ではつけ入る隙を狙っている人間は五万といるのだ。今回のことを無理やりこじつけて皇后の責任問題などと言い出さない輩がいないとも限らない。
翠季としてもつけ込まれる前に事の顛末を知る必要があったのだ。
「暗殺でなければ……何だというの!?間違えて口にしたとでも……まさか!!」
……自ら毒を盛った。
翠季の顔がみるみる青ざめていく。想像していることはおそらく明琳と同じだろう。
「わたくしも、そう思いたくはありません……ですが、そう考えるとしっくりくる……というのか、合点がいくのです」
「そ、それが本当だとしても……」
また信じられないといった翠季は言葉を詰まらせた。
「正直、何が原因なのか……何が淑妃様を追い詰めたのかはわかりません。これは……あくまでわたくしの推測なのですが、淑妃様は後宮をお出になりたかったのではないでしょうか?淑妃様本人に訊いてみなければ何とも言えませんが……」
皇帝の妃になれるのは美しさと運を持った娘。その中で上級妃に選ばれるのは家柄、容姿の美しさ、教養、人間性といったものを兼ね備えた者のみ。そういった者は大概が皇帝の妃になるべくして育てられた者ばかりで、本人の意志とは関係なく後宮入りさせられるのがほとんどである。
それでも矜持が高く、皇帝の妃になることに自分の価値を見出だそうとする者なら後宮でも強かに暮らしていけるのだろうが、そうでない者であれば後宮という檻は地獄でしかないだろう。淑妃は後者なのだと明琳は思った。
特に他国から嫁いできた淑妃にとって、全てが異なる国での生活は想像以上に辛いものだったに違いない。しかも唯一の心の拠り所である皇帝に自分は愛されていないのではないか……という不安が、さらに淑妃を苦しめ追い詰めたのかもしれない。
今回の件が淑妃にどれだけ影響をもたらすのか……明琳にもわからない。
内々に処理され何もなかったことにされるのか。
上級妃という地位を取り上げられるのか。追放……なのか。
これらのどれでもないのか……それは皇帝の御心次第。
真実がどうであろうと皇帝がどのような判断を下そうと、淑妃が目を覚ましたら明琳は教えてあげたいと思う。
“政治的な結びつきであっても、陛下は好きでもない者に優しくはしない”とーー
突然やって来た明琳の言葉に翠季の美しい柳眉がピクンと跳ね上がる。
純白の扇で口元を隠してはいるが、声には戸惑いや訝るような声色が混ざっている。
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どうも合点がいかない翠季はこめかみを微かにヒクヒクさせていた。
夏の宴の場で起きたこととはいえ、皇帝の四夫人の一人である淑妃の命が狙われたのだ。
未だに目を覚ましておらず、もし最悪なことにでもなれば、後宮……ひいては皇后である翠季に責任の矛先が向きかねない事態である。
忠誠を誓いながら裏ではつけ入る隙を狙っている人間は五万といるのだ。今回のことを無理やりこじつけて皇后の責任問題などと言い出さない輩がいないとも限らない。
翠季としてもつけ込まれる前に事の顛末を知る必要があったのだ。
「暗殺でなければ……何だというの!?間違えて口にしたとでも……まさか!!」
……自ら毒を盛った。
翠季の顔がみるみる青ざめていく。想像していることはおそらく明琳と同じだろう。
「わたくしも、そう思いたくはありません……ですが、そう考えるとしっくりくる……というのか、合点がいくのです」
「そ、それが本当だとしても……」
また信じられないといった翠季は言葉を詰まらせた。
「正直、何が原因なのか……何が淑妃様を追い詰めたのかはわかりません。これは……あくまでわたくしの推測なのですが、淑妃様は後宮をお出になりたかったのではないでしょうか?淑妃様本人に訊いてみなければ何とも言えませんが……」
皇帝の妃になれるのは美しさと運を持った娘。その中で上級妃に選ばれるのは家柄、容姿の美しさ、教養、人間性といったものを兼ね備えた者のみ。そういった者は大概が皇帝の妃になるべくして育てられた者ばかりで、本人の意志とは関係なく後宮入りさせられるのがほとんどである。
それでも矜持が高く、皇帝の妃になることに自分の価値を見出だそうとする者なら後宮でも強かに暮らしていけるのだろうが、そうでない者であれば後宮という檻は地獄でしかないだろう。淑妃は後者なのだと明琳は思った。
特に他国から嫁いできた淑妃にとって、全てが異なる国での生活は想像以上に辛いものだったに違いない。しかも唯一の心の拠り所である皇帝に自分は愛されていないのではないか……という不安が、さらに淑妃を苦しめ追い詰めたのかもしれない。
今回の件が淑妃にどれだけ影響をもたらすのか……明琳にもわからない。
内々に処理され何もなかったことにされるのか。
上級妃という地位を取り上げられるのか。追放……なのか。
これらのどれでもないのか……それは皇帝の御心次第。
真実がどうであろうと皇帝がどのような判断を下そうと、淑妃が目を覚ましたら明琳は教えてあげたいと思う。
“政治的な結びつきであっても、陛下は好きでもない者に優しくはしない”とーー
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