48 / 82
面影
48
しおりを挟む
「これはどこの写真ですか?」
「ああ、これはね、プラネタリウムだよ」
「プラネタリウム!」
驚く結々の反応が予想外だったのか、葵は首をかしげた。
「プラネタリウム、行ったことないの?」
「はい。地元にいた頃は家からずっと離れたところにしかなかったから」
「そうなんだ」
結々はそこであることに思い当たると、まるで重大発見をしたかのように笑顔になった。
「この晴那さんとのデート、先輩から誘ったんでしょ。プラネタリウムに行こうって」
「え、どうしてわかったの」
実際に見たことも行ったこともないけれど、そこはとても葵に似合うと思った。
満天の星を見上げるとき、彼はこの写真のようにわくわくとした表情をしていたに違いない。
結局あれからアルバムを見続け、そのたびに説明をもらい、気がつけば外はすっかり暗くなっていた。
送って行くと申し出た葵の横を歩きながら、家までの帰り道、結々は明日プラネタリウムに行ってみましょうと提案した。
「いいの?」
「私も一度行ってみたかったんです」
冷えて赤くなった指先が、二人の間でちらちらと揺れる。
「それに、私から言ったんですよ。先輩の思い出の場所に行ってみようって」
葵が記憶を取り戻すのはあの厚いアルバムに詰められた思い出をいくつ辿った時だろうか。
その時思い出すのは、晴那を失った当時の状況とその後の苦しみだけなのだろう。
今のまま立ち止まっても、歩みを進めて思い出しても彼の前には辛い現実しかない。
それでも記憶を開く時に今の思い出が、写真の地を歩いた自分との思い出が、少しでも葵の痛みを和らげるものになってくれれば。
純粋にそう願ってもやはりどこか残る痛みに、結々は息を吐き出す。
それは白く空気にかすれて、凍てついた空気に消えていった。
「ああ、これはね、プラネタリウムだよ」
「プラネタリウム!」
驚く結々の反応が予想外だったのか、葵は首をかしげた。
「プラネタリウム、行ったことないの?」
「はい。地元にいた頃は家からずっと離れたところにしかなかったから」
「そうなんだ」
結々はそこであることに思い当たると、まるで重大発見をしたかのように笑顔になった。
「この晴那さんとのデート、先輩から誘ったんでしょ。プラネタリウムに行こうって」
「え、どうしてわかったの」
実際に見たことも行ったこともないけれど、そこはとても葵に似合うと思った。
満天の星を見上げるとき、彼はこの写真のようにわくわくとした表情をしていたに違いない。
結局あれからアルバムを見続け、そのたびに説明をもらい、気がつけば外はすっかり暗くなっていた。
送って行くと申し出た葵の横を歩きながら、家までの帰り道、結々は明日プラネタリウムに行ってみましょうと提案した。
「いいの?」
「私も一度行ってみたかったんです」
冷えて赤くなった指先が、二人の間でちらちらと揺れる。
「それに、私から言ったんですよ。先輩の思い出の場所に行ってみようって」
葵が記憶を取り戻すのはあの厚いアルバムに詰められた思い出をいくつ辿った時だろうか。
その時思い出すのは、晴那を失った当時の状況とその後の苦しみだけなのだろう。
今のまま立ち止まっても、歩みを進めて思い出しても彼の前には辛い現実しかない。
それでも記憶を開く時に今の思い出が、写真の地を歩いた自分との思い出が、少しでも葵の痛みを和らげるものになってくれれば。
純粋にそう願ってもやはりどこか残る痛みに、結々は息を吐き出す。
それは白く空気にかすれて、凍てついた空気に消えていった。
0
あなたにおすすめの小説
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
隣人はクールな同期でした。
氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。
30歳を前にして
未婚で恋人もいないけれど。
マンションの隣に住む同期の男と
酒を酌み交わす日々。
心許すアイツとは
”同期以上、恋人未満―――”
1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され
恋敵の幼馴染には刃を向けられる。
広報部所属
●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳)
編集部所属 副編集長
●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳)
本当に好きな人は…誰?
己の気持ちに向き合う最後の恋。
“ただの恋愛物語”ってだけじゃない
命と、人との
向き合うという事。
現実に、なさそうな
だけどちょっとあり得るかもしれない
複雑に絡み合う人間模様を描いた
等身大のラブストーリー。
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる