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朝の散歩、石碑に祈る
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数日後、目が覚めるとミナトの寝顔がすぐ目の前にあった。長い睫毛、整った鼻筋。私は愛しさのあまり、彼の頬にこっそりとキスを落とし、起こさないようにベッドから抜け出した。
(……また、小さくなってる)
部屋の柱には、身長を測るための目印がある。付箋で雑事を書いてあるメモの体を装っているが、実際の用途は違った。倒れ込んでから一気に進んだのだろうか。元々180cm近くあった目線は、今や165cmぐらいだろうか……
(なんとか着れるか)
外に出歩きたい気分だった。早朝は好きだ。一日で一番静かな時間帯。実家にいた頃、男だらけの家族の騒々しさを忘れられる、唯一の安息の時間だったから。
寮の外に出ると、夏の始まりを予感させる生温かい風が頬に感じる。
私は緊張しながら階段を降り、中庭にある広場へと向かった。歩幅が狭くなったせいか、石碑までの道のりが以前よりも長く感じる。ようやくたどり着いた私は、石碑の前に立ち、そっと手を合わせた。
(神様……)
以前ここに来た時は、絶望と孤独の中にいた。「男らしくあれ」という呪縛から逃れたくて、祈っていた。でも今は違う。私は石碑を見上げ、晴れやかな気持ちでただ風と日を浴びる。
祈りを終えて振り返ろうとした時、後ろから馴染みの声が響いた。
「いきなり、ほっつき歩いてどうしたんだ!?」
肩で息をするミナトがそこにいた。寝癖がついたまま、慌てて追いかけてきたようだ。
「……散歩は趣味だから」
「いや、よく出ていたのは知ってるけど!」
寝付きがいいから知らないと思っていたのに。気付いていたのか。
「じゃあ、心配する必要もないよ。外の風を浴びないとカビちゃうでしょ?」
「まぁ早朝ならいいけどさ……今のカケルは女なんだから。不用意に暗い場所に出歩いたりしたら、心配になるだろ」
ミナトは眉を下げて、本気で心配していた。一瞬、「過保護すぎない?」と反発心が湧きかけたが、すぐに嬉しさが勝った。かつては「男なら一人でなんとかしろ」と突き放されるのが当たり前だった。でも今は、こうして私の身を案じてくれる人がいる。
「……まぁ、俺が付いてやるから。そんな悲しい顔して祈るなって」
ミナトが私の頭をポンと撫でる。彼はまだ勘違いしているようだ。私がまた、現状を嘆いて祈っているのだと。
「……もう、夜には出向かないよ」
私はミナトの手を握り返し、精一杯の笑顔を向けた。
「あと、1つ訂正させて。私は悲しいとか、そんな風に思ってないから! むしろ嬉しいと思ってるんだからね」
「え?」
「もう一人寂しく、『女にしてください』なんて祈る必要がないからだよ」
そう伝えると、ミナトは少しだけ顔を赤くして、視線を逸らした。
「……そっか。なら、いいけど」
朝日が差し込み、そこから伸びる影は男女のものとなっていた。
(……また、小さくなってる)
部屋の柱には、身長を測るための目印がある。付箋で雑事を書いてあるメモの体を装っているが、実際の用途は違った。倒れ込んでから一気に進んだのだろうか。元々180cm近くあった目線は、今や165cmぐらいだろうか……
(なんとか着れるか)
外に出歩きたい気分だった。早朝は好きだ。一日で一番静かな時間帯。実家にいた頃、男だらけの家族の騒々しさを忘れられる、唯一の安息の時間だったから。
寮の外に出ると、夏の始まりを予感させる生温かい風が頬に感じる。
私は緊張しながら階段を降り、中庭にある広場へと向かった。歩幅が狭くなったせいか、石碑までの道のりが以前よりも長く感じる。ようやくたどり着いた私は、石碑の前に立ち、そっと手を合わせた。
(神様……)
以前ここに来た時は、絶望と孤独の中にいた。「男らしくあれ」という呪縛から逃れたくて、祈っていた。でも今は違う。私は石碑を見上げ、晴れやかな気持ちでただ風と日を浴びる。
祈りを終えて振り返ろうとした時、後ろから馴染みの声が響いた。
「いきなり、ほっつき歩いてどうしたんだ!?」
肩で息をするミナトがそこにいた。寝癖がついたまま、慌てて追いかけてきたようだ。
「……散歩は趣味だから」
「いや、よく出ていたのは知ってるけど!」
寝付きがいいから知らないと思っていたのに。気付いていたのか。
「じゃあ、心配する必要もないよ。外の風を浴びないとカビちゃうでしょ?」
「まぁ早朝ならいいけどさ……今のカケルは女なんだから。不用意に暗い場所に出歩いたりしたら、心配になるだろ」
ミナトは眉を下げて、本気で心配していた。一瞬、「過保護すぎない?」と反発心が湧きかけたが、すぐに嬉しさが勝った。かつては「男なら一人でなんとかしろ」と突き放されるのが当たり前だった。でも今は、こうして私の身を案じてくれる人がいる。
「……まぁ、俺が付いてやるから。そんな悲しい顔して祈るなって」
ミナトが私の頭をポンと撫でる。彼はまだ勘違いしているようだ。私がまた、現状を嘆いて祈っているのだと。
「……もう、夜には出向かないよ」
私はミナトの手を握り返し、精一杯の笑顔を向けた。
「あと、1つ訂正させて。私は悲しいとか、そんな風に思ってないから! むしろ嬉しいと思ってるんだからね」
「え?」
「もう一人寂しく、『女にしてください』なんて祈る必要がないからだよ」
そう伝えると、ミナトは少しだけ顔を赤くして、視線を逸らした。
「……そっか。なら、いいけど」
朝日が差し込み、そこから伸びる影は男女のものとなっていた。
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