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第一章 時雨ファミリー
時雨ファミリー①
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とある中心街に少し古い建物がある。木造で二階建て、お世辞にも今風の綺麗な建物とは言い難く、築何十年といった外見をしている。一度リフォームをしたのか、その外見とは裏腹に内装は小綺麗にしており、外から見た分は別として、中に住まう分には案外快適そうである。
元は学生寮で、一階には主にダイニングキッチンとリビング、トイレと浴場で構成されている。階段から二階に上がると廊下があり、その廊下からそれぞれの個人部屋へと繋がっている。昔からある様な典型的な学生寮の造りである。
そんな桜荘で、今日も騒がしく過ごす三人の若者がいる。
「はいはーい! 二人共集合!」
リビングに入ってきた少女が、二枚の封筒を手に声を上げる。
少女の名前は雪。十六歳の高校一年生である。
栗色の髪をポニーテールにした活発そうな少女。十六歳という年相応の幼さを残してはいるが、その顔立ちは整っている。同居人が変わり者であるせいでよく怒った顔をしているため、気の強そうな表情ばかりが普段から目立っているが、部屋でぼんやりとしている時や嬉しい時の笑顔などは優しい美少女そのものだ。
「うぃー」
声をかけられて、リビングのソファーにだらしなく寝転がりテレビを見ていた青年が、面倒臭そうに身体を起こす。
覇気のない表情や頭についた寝癖から、寝起きであることが伺える。ソファーでテレビを見ながらうたた寝でもしていたのだろう。眠そうに目を擦りながら身体を伸ばし、寝癖のついた、男にしては少し長めの黒髪を手櫛でなおしている。
この青年の名前は時雨。雪の一つ年上で十七歳だ。
こんな感じだが、一応はこの家の主である。
「どうしたの? 雪」
リビングのソファーの近くにある椅子に座り、時雨と同じくテレビを見ていたもう一人の青年も立ち上がり、雪の元へ歩み寄る。
青年の名前は霧。こちらも時雨と同じ十七歳である。
爽やかな笑顔で寄ってくる姿は愛嬌がある。長い黒髪を後ろで簡単に纏めている上に、非常に整った中性的な顔立ちをしているため、パッと見では男か女か悩む程だ。
ご近所さんの老若男女に愛されているイケメンの常識人なのだが、そこに時雨が絡んでくると少し厄介なことになる。時雨と非常に気が合っているため、面白い事最優先の時雨に付き合って、一緒に無茶な事をする事が多々ある。結果として雪の悩みの種を増やしまくっていた。
「どうしたのって、今日はお小遣いの日よ。忘れたの?」
雪は手に持っている二枚の封筒を見せ、イタズラっぽく笑う。ふーん、いらないんだー? と、そんな表情だ。
「おっとそうだった。忘れてたぜ」
慌てて時雨が駆け寄ってきて、霧の横に並ぶ。
「よかったー。材料買えなくて困ってたんだ」
霧も胸を撫で下ろす。
工作が趣味である霧は、時雨と違い計画的にお小遣いを使っているが、それでもやはり材料費は不足気味である。
「じゃあ、はい。二人とも」
そう言って雪は両手に二人それぞれの封筒を持ち、二人の前に差し出した。
「おう、さんきゅ」
「ありがとう雪」
それぞれお礼の言葉を口にしながら封筒を握る。だが。
「……」
二人が引っ張る封筒はビクともしなかった。
「なんだよ雪」
「えっと……どうしたの?」
「……」
二人がさらに封筒を引っ張るが、メリメリと音を立て封筒のシワが増えるだけである。
「ねえ、二人とも」
雪がにこやかな笑顔で話しかける。笑顔のままだが封筒を握る手は必死で、指先は少し赤らみ腕もプルプルと震えだしてきたことから、やはり少女としての非力さが垣間見える。
「今日がなんの日か知ってる?」
「は? だから、小遣いの日だろ?」
「さっき雪も言ってたじゃない」
雪はにこやかな笑顔を維持したまま。
「ポスターの期限日よ……」
「……」
「……」
雪の言葉と共に二人の表情は凍りついた。
元は学生寮で、一階には主にダイニングキッチンとリビング、トイレと浴場で構成されている。階段から二階に上がると廊下があり、その廊下からそれぞれの個人部屋へと繋がっている。昔からある様な典型的な学生寮の造りである。
そんな桜荘で、今日も騒がしく過ごす三人の若者がいる。
「はいはーい! 二人共集合!」
リビングに入ってきた少女が、二枚の封筒を手に声を上げる。
少女の名前は雪。十六歳の高校一年生である。
栗色の髪をポニーテールにした活発そうな少女。十六歳という年相応の幼さを残してはいるが、その顔立ちは整っている。同居人が変わり者であるせいでよく怒った顔をしているため、気の強そうな表情ばかりが普段から目立っているが、部屋でぼんやりとしている時や嬉しい時の笑顔などは優しい美少女そのものだ。
「うぃー」
声をかけられて、リビングのソファーにだらしなく寝転がりテレビを見ていた青年が、面倒臭そうに身体を起こす。
覇気のない表情や頭についた寝癖から、寝起きであることが伺える。ソファーでテレビを見ながらうたた寝でもしていたのだろう。眠そうに目を擦りながら身体を伸ばし、寝癖のついた、男にしては少し長めの黒髪を手櫛でなおしている。
この青年の名前は時雨。雪の一つ年上で十七歳だ。
こんな感じだが、一応はこの家の主である。
「どうしたの? 雪」
リビングのソファーの近くにある椅子に座り、時雨と同じくテレビを見ていたもう一人の青年も立ち上がり、雪の元へ歩み寄る。
青年の名前は霧。こちらも時雨と同じ十七歳である。
爽やかな笑顔で寄ってくる姿は愛嬌がある。長い黒髪を後ろで簡単に纏めている上に、非常に整った中性的な顔立ちをしているため、パッと見では男か女か悩む程だ。
ご近所さんの老若男女に愛されているイケメンの常識人なのだが、そこに時雨が絡んでくると少し厄介なことになる。時雨と非常に気が合っているため、面白い事最優先の時雨に付き合って、一緒に無茶な事をする事が多々ある。結果として雪の悩みの種を増やしまくっていた。
「どうしたのって、今日はお小遣いの日よ。忘れたの?」
雪は手に持っている二枚の封筒を見せ、イタズラっぽく笑う。ふーん、いらないんだー? と、そんな表情だ。
「おっとそうだった。忘れてたぜ」
慌てて時雨が駆け寄ってきて、霧の横に並ぶ。
「よかったー。材料買えなくて困ってたんだ」
霧も胸を撫で下ろす。
工作が趣味である霧は、時雨と違い計画的にお小遣いを使っているが、それでもやはり材料費は不足気味である。
「じゃあ、はい。二人とも」
そう言って雪は両手に二人それぞれの封筒を持ち、二人の前に差し出した。
「おう、さんきゅ」
「ありがとう雪」
それぞれお礼の言葉を口にしながら封筒を握る。だが。
「……」
二人が引っ張る封筒はビクともしなかった。
「なんだよ雪」
「えっと……どうしたの?」
「……」
二人がさらに封筒を引っ張るが、メリメリと音を立て封筒のシワが増えるだけである。
「ねえ、二人とも」
雪がにこやかな笑顔で話しかける。笑顔のままだが封筒を握る手は必死で、指先は少し赤らみ腕もプルプルと震えだしてきたことから、やはり少女としての非力さが垣間見える。
「今日がなんの日か知ってる?」
「は? だから、小遣いの日だろ?」
「さっき雪も言ってたじゃない」
雪はにこやかな笑顔を維持したまま。
「ポスターの期限日よ……」
「……」
「……」
雪の言葉と共に二人の表情は凍りついた。
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