31 / 35
西ノ宮すみれ
第三話
しおりを挟む
騒々しい音を立てていた部屋より、突如何やらが衝突する音が聞こえてきたのだ。
明らかに、ぶつかった音だった。
一瞬で、すみれの最期の近く、頻繁に寝るようになったあの姿が思い浮かんだ。
「すみれ・・・!」
靴を脱ぎ捨てながらドアの向こうへ駆け込んだ。
不安だった。
ただただ不安だったんだ。
だと言うのに、すみれは平気そうな顔で「あ、ちょっと!」なんて文句を言うし、その部屋は、とても信じられないような状態だったんだ。
6畳ほどの部屋。ベッドはひとつ。
小さな机と、座椅子がひとつ。
壁際には、天井近くまでの大きな棚がひとつ。
棚の中には、僧侶姿の、何かしらのアニメのキャラクターのフィギュアと、アクスタと、ぬいぐるみと・・・。
「見ないで!見ないでください!!」
数種類のグッズと思しき物。そしてポスター。
アニメのタイトルは「特選美僧図鑑」と言うのか。
「これは?」
「見ないでぇ・・・」
諦めたようにベッドに伏せるすみれを横目に、棚の近くへ行き、1番大きなフィギュアを手に取る。
服装の一部はフィクションのようで、この世界での僧服とも違うようだった。
でも、この男、私に僅かに似ておるか?
「すみれの推し?」
「違うんですぅ、浮気とかじゃなくてぇ・・・」
情けない声を上げるすみれの頭の上にあるのも、この男の抱き枕か。それも、はだけた襦袢姿の。
「この男に、欲情していたのか?」
いたし方のない事であるとは理解しつつ、しかしすみれのしおらしい様子に嗜虐心が疼いた。
いや、嫉妬もしておったのであろうな。
私以外の肌をすみれが1度でも欲したかと思うと、この娘をどうにかしてやりたいと支配欲が頭をもたげたのだから。
それと、男が私に似た出で立ちであったのも、理由のひとつであったのだ。
「記憶がなくとも私を求めておったのか?」
意地悪く聞くと、すみれはゆっくりと顔を上げた。
潤んだ瞳、少し突き出た桃色の唇、高揚したようにも見える頬。
そしてこくりと、頷いたのだこの娘は。
それ故、抱いた。
自制など馬鹿馬鹿しい。己の妻と愛し合うのに、時刻など関係ない。
私の代わりであった男の前で、私の妻をじっくりと抱き、愛を注いだ。
すみれの指にある指輪は、私を求めるようにちらちらと光っていた。
------
明君に見られてしまった推しグッズは、意外にも没収されたり廃棄しろと言われたりしなかった。
でも、最中に明らかに嫉妬してたし、ピロートーク中に法然様の抱き枕を放り投げた姿を見て、「グッズは他のファンの方に譲ろう」と決心した。
散財しながら長年推していた「特選!美僧図鑑」の法然様だけど、明君に似ていると気付いてからはコレジャナイ感が凄かったから。
多分彼が言う通り、記憶がなくても求めていたんだと思う。道明様という存在を。
予想外に時間がかかったせいで、着替えを纏めてから部屋を出るとおやつの時間になってしまっていた。
晩ご飯の食材の買い出しの為にスーパーに寄ると、私に激甘な明君に甘味の誘惑をされ、でも彼の選んだ食材はちょっといいくらいのレベル感の物だった。
例えめちゃくちゃお金持ちだったとしても、普段の生活はそこまで庶民と乖離していないらしく、ちょっと安心。
生活水準違い過ぎると、同棲するにしても結婚するにしても軋轢が産まれちゃうからね。
結婚・・・したいと思ってるんだよね、多分。
記憶が戻ったとたん避妊しなくなったから、子どもも欲しいと思ってそうだし。
明君の部屋に戻って食材を大きい冷蔵庫に仕舞うと、明君は私にソファを勧めてからお茶を入れ始めた。
素直に従ってソファで待っていると、薫り高い緑茶と先ほど買った垂涎物の甘味が出てきた。
「そんなにたくさん食べられないよ」
「知ってる。余ったら俺が食べるから大丈夫」
嬉しそうに笑いながら隣に座る明君は、食べづらいだろうに私にくっついてきて。
甘えているみたいで可愛くて、笑ってしまった。
そして私たちは、たくさん話をした。
あの前世は、この世界の過去ではなかったようだと明君は教えてくれた。
彼、気になって記憶の中にある場所へ行ったり、史実を調べたりしたんだって。
でも悪名高き聖雅院なんてなかったし、将軍様のお名前も、見聞きした出来事も全然違って、「例え現代で判明している史実の一部が誤認であったとしても、それでは説明しきれないほど違っていた」と言っていた。
でもそれについては正直そこまで重要じゃなかった。この世界の過去だったとしても、大好きだった人達についての情報を集めるのは無理だっただろうから。
それに死ぬ前に道明様に「お願い」していたから、それについては明君に聞けばいいしね。
その後は、明君の今世での色々を聞いた。
明君のご家族はなんと前世と同じ人達らしく、唯一変わっていた事は実のお母さんだった人がお姉さんになっていた事、らしい。
前世と同じでお体が弱かったけど、現代の医療で幸いにもとても元気になったらしく、世界各国を飛び回っているんだとか。
今世でも家族仲が良いのか、家族についてを話す間、彼は始終にこやかだった。
で、いいタイミングだったので一番気になっていた話も、聞き出す事にした。
明らかに、ぶつかった音だった。
一瞬で、すみれの最期の近く、頻繁に寝るようになったあの姿が思い浮かんだ。
「すみれ・・・!」
靴を脱ぎ捨てながらドアの向こうへ駆け込んだ。
不安だった。
ただただ不安だったんだ。
だと言うのに、すみれは平気そうな顔で「あ、ちょっと!」なんて文句を言うし、その部屋は、とても信じられないような状態だったんだ。
6畳ほどの部屋。ベッドはひとつ。
小さな机と、座椅子がひとつ。
壁際には、天井近くまでの大きな棚がひとつ。
棚の中には、僧侶姿の、何かしらのアニメのキャラクターのフィギュアと、アクスタと、ぬいぐるみと・・・。
「見ないで!見ないでください!!」
数種類のグッズと思しき物。そしてポスター。
アニメのタイトルは「特選美僧図鑑」と言うのか。
「これは?」
「見ないでぇ・・・」
諦めたようにベッドに伏せるすみれを横目に、棚の近くへ行き、1番大きなフィギュアを手に取る。
服装の一部はフィクションのようで、この世界での僧服とも違うようだった。
でも、この男、私に僅かに似ておるか?
「すみれの推し?」
「違うんですぅ、浮気とかじゃなくてぇ・・・」
情けない声を上げるすみれの頭の上にあるのも、この男の抱き枕か。それも、はだけた襦袢姿の。
「この男に、欲情していたのか?」
いたし方のない事であるとは理解しつつ、しかしすみれのしおらしい様子に嗜虐心が疼いた。
いや、嫉妬もしておったのであろうな。
私以外の肌をすみれが1度でも欲したかと思うと、この娘をどうにかしてやりたいと支配欲が頭をもたげたのだから。
それと、男が私に似た出で立ちであったのも、理由のひとつであったのだ。
「記憶がなくとも私を求めておったのか?」
意地悪く聞くと、すみれはゆっくりと顔を上げた。
潤んだ瞳、少し突き出た桃色の唇、高揚したようにも見える頬。
そしてこくりと、頷いたのだこの娘は。
それ故、抱いた。
自制など馬鹿馬鹿しい。己の妻と愛し合うのに、時刻など関係ない。
私の代わりであった男の前で、私の妻をじっくりと抱き、愛を注いだ。
すみれの指にある指輪は、私を求めるようにちらちらと光っていた。
------
明君に見られてしまった推しグッズは、意外にも没収されたり廃棄しろと言われたりしなかった。
でも、最中に明らかに嫉妬してたし、ピロートーク中に法然様の抱き枕を放り投げた姿を見て、「グッズは他のファンの方に譲ろう」と決心した。
散財しながら長年推していた「特選!美僧図鑑」の法然様だけど、明君に似ていると気付いてからはコレジャナイ感が凄かったから。
多分彼が言う通り、記憶がなくても求めていたんだと思う。道明様という存在を。
予想外に時間がかかったせいで、着替えを纏めてから部屋を出るとおやつの時間になってしまっていた。
晩ご飯の食材の買い出しの為にスーパーに寄ると、私に激甘な明君に甘味の誘惑をされ、でも彼の選んだ食材はちょっといいくらいのレベル感の物だった。
例えめちゃくちゃお金持ちだったとしても、普段の生活はそこまで庶民と乖離していないらしく、ちょっと安心。
生活水準違い過ぎると、同棲するにしても結婚するにしても軋轢が産まれちゃうからね。
結婚・・・したいと思ってるんだよね、多分。
記憶が戻ったとたん避妊しなくなったから、子どもも欲しいと思ってそうだし。
明君の部屋に戻って食材を大きい冷蔵庫に仕舞うと、明君は私にソファを勧めてからお茶を入れ始めた。
素直に従ってソファで待っていると、薫り高い緑茶と先ほど買った垂涎物の甘味が出てきた。
「そんなにたくさん食べられないよ」
「知ってる。余ったら俺が食べるから大丈夫」
嬉しそうに笑いながら隣に座る明君は、食べづらいだろうに私にくっついてきて。
甘えているみたいで可愛くて、笑ってしまった。
そして私たちは、たくさん話をした。
あの前世は、この世界の過去ではなかったようだと明君は教えてくれた。
彼、気になって記憶の中にある場所へ行ったり、史実を調べたりしたんだって。
でも悪名高き聖雅院なんてなかったし、将軍様のお名前も、見聞きした出来事も全然違って、「例え現代で判明している史実の一部が誤認であったとしても、それでは説明しきれないほど違っていた」と言っていた。
でもそれについては正直そこまで重要じゃなかった。この世界の過去だったとしても、大好きだった人達についての情報を集めるのは無理だっただろうから。
それに死ぬ前に道明様に「お願い」していたから、それについては明君に聞けばいいしね。
その後は、明君の今世での色々を聞いた。
明君のご家族はなんと前世と同じ人達らしく、唯一変わっていた事は実のお母さんだった人がお姉さんになっていた事、らしい。
前世と同じでお体が弱かったけど、現代の医療で幸いにもとても元気になったらしく、世界各国を飛び回っているんだとか。
今世でも家族仲が良いのか、家族についてを話す間、彼は始終にこやかだった。
で、いいタイミングだったので一番気になっていた話も、聞き出す事にした。
20
あなたにおすすめの小説
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
離婚を望む悪女は、冷酷夫の執愛から逃げられない
柴田はつみ
恋愛
目が覚めた瞬間、そこは自分が読み終えたばかりの恋愛小説の世界だった——しかも転生したのは、後に夫カルロスに殺される悪女・アイリス。
バッドエンドを避けるため、アイリスは結婚早々に離婚を申し出る。だが、冷たく突き放すカルロスの真意は読めず、街では彼と寄り添う美貌の令嬢カミラの姿が頻繁に目撃され、噂は瞬く間に広まる。
カミラは男心を弄ぶ意地悪な女。わざと二人の関係を深い仲であるかのように吹聴し、アイリスの心をかき乱す。
そんな中、幼馴染クリスが現れ、アイリスを庇い続ける。だがその優しさは、カルロスの嫉妬と誤解を一層深めていき……。
愛しているのに素直になれない夫と、彼を信じられない妻。三角関係が燃え上がる中、アイリスは自分の運命を書き換えるため、最後の選択を迫られる。
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人
通木遼平
恋愛
アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。
が、二人の心の内はそうでもなく……。
※他サイトでも掲載しています
いつか優しく終わらせてあげるために。
イチイ アキラ
恋愛
初夜の最中。王子は死んだ。
犯人は誰なのか。
妃となった妹を虐げていた姉か。それとも……。
12話くらいからが本編です。そこに至るまでもじっくりお楽しみください。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる