聖女の私にできること往古来今

藤ノ千里

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西ノ宮すみれ

第四話 

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「明君、お仕事って何してるの?」
「普通のサラリーマンだよ」
「・・・社名と役職を聞くまでは信じません」
 ジト目で見ると、彼は喉の奥でククッと笑った。
 男らしい目を細めて少し首を傾けて、いたずらに微笑む顔は可愛くて、キュンとしちゃう。
 いや駄目だ。話を誤魔化されてなるものか。
 気を引き締めて、緩みそうになる頬も引き締めた。でも・・・。
「俺の事より先にすみれの事を聞きたい、駄目?」
 でも、この上目遣いのおねだりは駄目だった。無理だった。理性が限界だった。
 だってさ、無理でしょ。
 道明様からの可愛いおねだりとか、無理でしょ・・・!
「ちょ、っと・・・そのいちいちえっちな顔するの止めてくれませんか・・・!」
 顔を反らしながら、ソファの端へ移動した。
 道明様の現職はきっとホストか何かだ。そうに決まってる。
 こんな、こんなに色気があって人の誘惑に長けた普通のサラリーマンなんて、存在するわけがないんだから・・・!


 その後は、私の今世の事を話したり、一緒に晩ご飯を作ったり、一緒に食べながらお酒を飲んだり、いちゃついたり。
 あっという間に土曜日が終わって、日曜日になって。朝から元気な明君といちゃついた後、少し休憩してからリビングに行くときちんとした朝食が完成していた事に驚いて。
「すみれ、一緒に住もう。費用は全部出すから」
 なんて、明君がプロポーズみたいに言ってきたタイミングでスマホの通知音がした。
「ちょ、ちょっと待っててください」
 そう言われるだろうと予想はしていたけど、どう断ろうかとも考えていたから中断されて助かった。
 いったん返事を保留にしてスマホを手に取ると、母からのメッセージだった。
「それなら今から受け取りに行っても良い?ちょうど近くに来ていたのよ」
 ちなみに私が昨晩送ったメッセージは「誕生日プレゼント買ったから渡しに行っていい?」だ。
 そして母は「ちょうど近くに」来るってタイプではなくて、どちらかというとサプライズで遊びに来ちゃうタイプだ。
 なので恐らくプレゼントを受け取る為だけに朝一の電車に乗って来た可能性が限りなく高いのだ。
 断るのはできないけど、渡してすぐ終わりって事はないだろう。
 「ついでに一緒に遊びましょう」くらい言われて長くて半日観光に付き合わされるだろう。
 私単身ならば全く問題ない。けど、この場合問題になるのは・・・。
「どうした?」
「あの、もう帰っていいですか?って聞いたらどうします?」
「何か急用ができたか?」
 質問に質問で返される辺り、「帰さない」もしくは「着いて行く」の二択を考えてらっしゃるんだろう。
 この愛の重さを好ましく思える私も私ではあるが・・・。
「昨日買ったプレゼントを母が受け取りに来てしまったみたいで」
「食べたらすぐ出る?」
「じゃないと多分待たせちゃいますね」
「分かった。すぐに済ませて出る支度をしよう」
 まぁ、そうなるよね。
 着いてくる気満々で準備を始める明君を横目に見ながら、母には「ちょっと今外だから駅前のカフェで待ってて」と返信した。
 私も急がなきゃと、席に着いて「いただきます」をして、一口目を頬張ったところで気付いた。
 今世の母親、前世で見た事ある人じゃない・・・?


 1時間もせずに着いた、私の部屋の最寄りの駅前の、カフェ。
 母は私を見て、明君を見て、固まった。
「お待たせー」
 言いつつ母の向かいに座ると、明君は「こんにちは」と微笑みつつ隣に来て。
 当然のように買ってくれた、私と彼2人分のドリンクを机の上に置いてから、彼は隣の席に座った。
 そこでようやく母が金縛りから開放される。
「え?え?イケメンすぎない?彼氏?ホスト?犯罪?」
「彼氏」
「初めまして、志野原道明と申します」
「えー!初耳!」
 キャとでも言うように口元に手を当てて驚く姿は女子高生みたい。
 でも母はもう50歳だし、若々しいとはいえ年相応の装いだし、それに顔が、似ていた。
「出会いは?どっちから告白したの??」
 とても楽しそうに恋バナをする姿が、前世の記憶にある皇后様と完全に一致して、とても複雑な気分になった。
 昨日までは普通に普通の母親だと思っていた人が、まさか前世でお世話になった人だったなんて。
 しかも、前世でめちゃくちゃ偉い人だったなんて・・・!
「八ツ笠の商店街で私から声をかけました」
 えー、母皇后様だったのか・・・。
 え、じゃあ、父ってもしかして・・・。
 あ、でも、前世で天子様のお顔を拝見した事ないから、父が天子様だったかどうかは分からないのか。
「告白も??」
「はい」
 今世の父、一般企業のサラリーマンなのに、元天子様なのか。
 あ、違った。今世と前世は違う世界だから、父の前世が天子様って訳じゃないのか。
 だったとしても、複雑だなぁ・・・。
「結婚前提の交際をさせて頂いております。お母様さえよろしければ、改めてご挨拶の場を設けさせていただきたいです」
 考え込んでいる間に話が進んでしまっていたらしい。
 隣で調子よく喋る明君は生き生きとしていた。
「え、あの、ちなみに、うちの子のどこが好きか聞いても・・・?」
「すみれの全てを愛しています」
 顔を赤くして絶句する母と、大層優しげな笑みを浮かべる明君。
 ロマンス詐欺系の犯行現場みたいだなぁなんて思いながら、私はただ2人のやり取りをボーッと眺めていた。
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