聖女の私にできること往古来今

藤ノ千里

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西ノ宮すみれ

第五話 

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 明君が史上最強におねだり上手になった事には気づいてたけど、まさか日曜の夜にも「帰って欲しくない」なんて可愛く言われるとは思いもしなくて。
 明君のおねだりはヤバい。
 前世の色々言って言いくるめてくるのも危険だったけど、どストレートにおねだりされるのはもう断れるはずがなかった。
 結果、日曜の夜もお泊まりしてイチャイチャして、月曜日の朝はバタバタで仕事に行く事になった。
 しかも、月曜日の夕方、大人バージョンの一松と晴彦に引き合わせてくれたのは凄く嬉しかったのに、何だかんだでやっぱり彼の部屋に泊まる事になってしまったのだ・・・。
 この時のおねだりは「すみれがいない間、ずっと寂しかった」だったっけか?
 少し俯いて、長いまつ毛を伏せながらそう呟かれると、断るなんてもう無理。
 例えこのおねだりに演技が入っていたとしても、ずっと私を探してくれていたという彼が寂しかったのは本当だろうし、前世では恐らく私の方が先に死んだようだし。
 それには触れずにただ「寂しかった」だなんて言う彼を残して部屋に帰るなんて無理。
 なので更に私物を取りに行くべく私の部屋へ寄り、「この男はいいのか?」なんて冗談を言う明君を無視して追加の着替えやらを取り、明君の部屋に行って。
 明君と一緒に湯船に浸かりながら、「このまま何となくの感じで同棲している事にされてしまうんだろうな」なんてため息をついたのだ。


 月曜日の晩ご飯は外食だったのに、火曜日の晩ご飯も外食になった。
 しかも、ラフな格好では来れない感じの、ドレスコードがギリギリないレベルの料亭で。
 一応断っておくけど、明君が馬鹿みたいにお金持ちで毎晩外食しているからってわけじゃない。
 普段は自炊メインの彼が、私を連れて外食する。その理由はごく一般的なものだった。
「待たせてしまい失礼しました」
 個室に入るなりそう挨拶してくれたのは、明君のお父さん。
 目元が明君とそっくりで、でも渋い髭を蓄えたナイスミドルって感じだった。
 続いて、明君のお母さん、明君の弟さんが入室してくる。
 お義母さんはほんわかした感じの女性で・・・。
「初めまして!貴女が兄さんの婚約者の方ですね・・・!」
 前のめりで握手の手を差し出して来たのは、殿だった。
 明君から、今世でも殿が弟だというのは聞いてたけど、少し若くてさっぱりした感じの殿だった。
将親マサチカ
 お義父さんが静かに言うと、殿・・・というか、将親さん?はすごすごと後ろに下がっていく。
 殿の時よりも威厳を気にしなくてよくなったからなのか、明君の言う通り「可愛い弟」って感じだ。
「ごめんなさいね、お兄ちゃんの事大好きな子だから」
「あ、いいえ」
 ぽやぽやした感じのお義母さんは、「どうぞ」と着席を促してくれた。
 すかさず明君が椅子を引いてくれたので、ありがたく座らせてもらう事にした。
「本当に時間を作れたんですね」
 隣に座りながら明君が口を開く。
「当たり前だろう。こういう時に時間を作らなくていつ作るんだ」
 お義父さんもお義母さんの椅子を引いて、一番最後に着席した。
 どこぞの企業の社長さんだということだし、一見して分かる程威厳はあるのに偉ぶってはいないのか。
 ザ殿様!みたいな人が出て来るんじゃないかってちょっとだけ心配してたから、思った以上に普通の人で安心。
「料理が来る前に紹介をしても?」
「あぁ」
 家族の前ではちょっとクールぶっている感じの明君と雰囲気が似ているから、もしかしたら性格は似ているのかも。
「すみれ、あちらが俺の父」
志野原シノハラ 将信マサノブです。よろしく」
「あちらが俺の母」
「道明の母の真珠シンジュです。よろしくね」
「あれが俺の弟」
「将親です!まさか兄の婚約者の方とお会いできる日が来るなんて感動です!兄が選んだのであれば素晴らしい方であると」
「失礼します。お料理をお持ちいたしました」
 将親さんのお兄ちゃん愛溢れる演説を遮ったのはお店の女将さん。
 失礼な感じのタイミングだったけど、明君が苦笑してるし、入店した時もお店の人と顔見知りみたいだったから、わざとだったりして。
 料理が並び出してムッと口を閉じた将親さんは、隣のお義母さんに何やら窘められているようだし・・・やっぱりわざとなのかも。
 笑ってしまうのもかわいそうなのでいったん視線をテーブルの上に落とす。
 流石に会席料理みたいな感じではないみたいだけど、彩り豊かなおかずが何種類もある高価そうな料理。
 この、庶民が年に1回食べるかどうかの豪華なディナーを、昼前に予約して仕事帰りに食べに来るなんて、やっぱり明君「普通のサラリーマン」なわけない。
 今夜こそ聞き出そう。私の金銭感覚が正常な内に。
「何かございましたらお呼びくださいませ」
 そう言って、女将さんが下がっていくまでに5分もかからなかった気がする。
 テーブルいっぱいの料理を並べたはずなのに、驚くべき手際の良さだ。
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