聖女の私にできること往古来今

藤ノ千里

文字の大きさ
19 / 28
西原澄恋

第十九話 したい、ですか?

しおりを挟む
 心臓が、苦しいくらいに飛び跳ねて、お腹の奥がギュッと切なくなって。
 もしかしてと思って視線を下げると、ズボンに膨らみがあった。
 私だって、そういう経験はあるのだ。だから、それが何なのかはすぐに分かった。
「見んなって」
 恥ずかしいような気まずいような変な感じ。
 思わず目は逸らしたけど、斉東さんがそういう事をしたいと思ってるんだと、知ってしまった。
 よくよく考えてみれば、男の人の家に来て、2人きりになったのだ。
 完全に油断していたけど、相手によっては無理やりに襲われてしまうかもしれない状況で。
 でも、斉東さんはそんな事しないんだ。
 しない、と言うか、しないように我慢してくれてるんだ。
 私が、嫌がるかもしれない事をしない為に。
 なんかこう、ムズムズする。
 大切にされて嬉しいのに、嬉しいからこそ彼にもっと触れたくて。
 そんな変な、感じ・・・。
「ごめん。ちょっと冷静になるから待ってて」
「私、いない方がいいです?」
「それは駄目」
 冷静さを装いながら、あの斉東さんが必死で性欲を堪えてるんだと思うとやっぱりムズムズして。
 でも、そのうちこのムズムズが、ムラムラだと、気づいてしまった。
 だって、すぐ隣から聞こえる彼の吐息が、凄いエッチなんだもん。
 ムラムラするけど、触りたいし触って欲しいと思うけど、そういう事をするのは怖いの。
 これってわがまま・・・だよね?
「あの・・・」
「何?」
 余裕が無さすぎて返事がぶっきらぼうなのも可愛い。
 好き、だなぁ。
 彼なら、彼となら、したいなぁ。
 したいけど、怖い。
 怖いけど、でも斉東さんなら、この怖さも分かってくれるのかなぁ。
「私と・・・したい、ですか?」
「は??」
 弾かれるようにこちらを見た顔が、怒ってるようにも見えた。
 でも、怒ってるわけじゃないと知ってたから、怖くはなかった。
「お前っ、俺がどんだけ我慢してると思って・・・!」
 彼が、私を求めている。
 あんなにも激しく求めながらも、大切にするために我慢してくれてる。
 あの熱が、欲しいな。
 斉東さんになら、私の全部を愛して欲しいなぁ。
「私、不感症なんです」
「は?」
「だからご満足頂けないかもしれな・・・っ!」
 喋ってる途中だったのに、キスで口を塞がれてしまった。
 その上、キスしながら抱えるように腰を引き寄せられ、口が離れるとソファの上で彼が私に覆いかぶさっていた。
 私の上で、私に欲情した斉東さんが私を見下ろしている。
 私が欲しいと、訴えるような表情で。
「それ、誰に言われたの?」
「誰に、って・・・?」
「元カレ?」
 一瞬だけ、いつか吐き捨てられた言葉が頭をよぎる。
 なんともないはずなのに、心の隅に突き刺さっていた言葉。
 裏切られた痛みと共に、いつの間にかこびりついていた呪いの言葉だ。
「澄恋」
 でも、斉東さんに名前を呼ばれると、そんな誰かの声もどこかに行ってしまうんだ。
 この人は、世界でいちばん安心できる人だから。
「それ、セックスが下手な男が言い訳に使うやつだから」
「そう、なんですか・・・?」
「そうだよ。ちなみに俺、上手いと思うけど?」
「そう、なんですか・・・?」
「澄恋」
「・・・はい」
「澄恋と愛し合いたい」
 降ってくる言葉の全てから、斉東さんの愛が伝わってきていたからだと思う。
 この時にはもう、私の心も体も、彼が欲しくて我慢ができなくなっていたんだ。
「私も・・・斉東さんが欲しいです」


 興奮してはいたけど、ソファから起きて寝室に移動するとどこからか羞恥心が帰ってきてしまっていた。
 ベッドに腰掛けた斉東さんの目の前で、足が止まってしまう。
「怖い?」
 頷くと彼は私に手を差し伸べた。その手を取ると、優しく引き寄せられる。
 抵抗すれば簡単に逃れられるくらいの力。でも、身を預けた。
 身を預けて、促されるままにベッドに体を横たえる。
 さっきもだったけど、こんな風に斉東さんに見下ろされるの、嫌じゃないな。
 と言うか、嫌じゃないどころか、興奮、しちゃうかも。
「や、優しくしてください・・・」
「無理」
「え?」
「嘘。できるだけ優しくはする。でも保証は出来ない」
 覆いかぶさってくる体温が愛おしくて、すがりつきたいような早く触って欲しいような変な感じ。
 まだ何もされてないのに、息が荒くなってきちゃう・・・。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】

恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。 果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

氷の王と生贄姫

つきみ かのん
恋愛
敗戦寸前の祖国を守るため、北の大国へ嫁いだセフィラを待っていたのは「血も涙もない化け物」と恐れられる若き美貌の王、ディオラスだった。 ※ストーリーの展開上、一部性的な描写を含む場面があります。 苦手な方はタイトルの「*」で判断して回避してください。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

処理中です...