聖女の私にできること往古来今

藤ノ千里

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西原澄恋

第二十話 知らなかったの

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「嫌な時は嫌って言えよ?理性が残ってたら止めるから」
 理性が残ってたら?
 残ってなかったら、どうなるの?
 だって斉東さん、私より息が荒くて。それに目が、怖いくらいに私に愛を訴えてるのに?
 何かを答えようとした私の口が、斉東さんの唇に塞がれた。
 キスされると、何を言おうと思ってたかも分かんなくなって、恥ずかしさも忘れてしまって、ただ彼のキスに溶かされていって・・・。
 あ、胸を、揉まれてる。
 胸を触られるのはそんなに好きじゃないのに、キスが気持ちいいからか彼の手も気持ちいい。
 気持ちよくてぼーっとしてきて、なのに唇が離れたと思ったら、彼も離れて行ってしまった。
「服、邪魔」
「あ、待って」
 私の服を掴んだ手が、少し強引に脱がせにかかるのを流石に押しとどめた。
 今の彼に任せるとビリッといってしまいそうな予感がしたからだ。
 なので上体を起こして、シャツ脱ぐ。ついでにキャミも脱げてしまったけど、どうせ脱ぐんだし、いっか。
 ブラも、外した方がいいかな?
 そう思って斉東さんの方を伺うと、彼も服を脱ぎ捨てていたところだった。
 初めて見る、斉東さんの素肌。
 ガッシリとして筋肉がついた、男の人の体だ。
 でも、男の人だし、上裸なんて珍しいものでもないはずなのに、それが斉東さんの体だと言うだけでエッチな気分になってきちゃう。
 なのに、彼はズボンも脱ぎ始めて・・・。
 耐えられなくて目を逸らした。
 初めじゃないのに、初めての時より緊張しちゃう。
 だって、今から彼と、斉東さんとセックスするんだ。
 あの斉東さんと、私の彼氏と。
 今から愛し合うことができるんだ。
 彼を、この体で、受け入れることができるんだ。
 どうしよう、凄く嬉しい。
 怖さも少しある。緊張もしてる。でもそれより何より嬉しくて泣いちゃいそう。
「脱がないの?」
 そちらを見なくても、言いながら私の隣に来た彼が裸だと言うのが分かった。
 彼から視線を外したまま、覚悟を決めて、ズボンを脱ぐ。
 あぁ、駄目。やっぱり恥ずかしくて下着は脱げない。
「で、電気消してください」
「駄目」
「あっ、待っ、て・・・」
 斉東さんの手が、私の太ももを撫でていた。
「駄目」
 触られて嬉しいけど、心の準備がまだ出来てないのに。
 なのに、肩を押されて、私の体はまた布団に投げ出されてしまう。
 さっきと同じ体制で、でも今度はすぐに彼の手が私の胸を鷲掴んだ。
 力強く少し痛いくらいの力で揉まれて、気持ちいいわけじゃないけどゾクゾクしちゃう。
「着痩せし過ぎだろ」
 斉東さんが私の体に興奮していることに、興奮してしまう。
 彼がブラを強引にずらしてくるのすら、余裕が無いんだと思うと嬉しくて、だから、彼が私の胸に口をつけた時には思わず声が出てしまった。
 セックスって痛いものなんだと思ってて、だから気持ちいいとかイクとかそういうのもほとんど演技なんだと思ってて。
 本気で、思ってたの。こんなにも気持ち良くて幸せな行為があるなんて、知らなかったの。
 それから、彼は何度も私を求めたけれど、求められるがままに私たちは何時間も愛し合った。
 何時間って言っても、さすがに何度か休憩は挟んだし、ご飯だって挟んだんだけど、それでも22時過ぎて眠りにつく時は2人ともクタクタで、泥のように眠りについて。
 そして、朝になった。
 目を開けると、先に起きていたらしい斉東さんの顔がすぐそこにあって、その目からちょうど涙が流れるところだった。
「おはようございます」
「おはよう澄恋」
 裸同士で、しかも腕枕で、体が密着してるから彼の体温が心地よい。
 ふわりと汗の匂いがして昨夜お風呂に入らなかったことを思い出したけど、不思議と不快な匂いじゃなかった。
「これ、夢じゃないよね?」
「寝ぼけてるんですか?」
 素面しらふだった上にあんなに何度も体を重ねたし、その上この状況で、なのに「夢」だなんておかしな話だ。
 変な事を言う彼に、私を分からせてやろうと思って抱き着いた。がっしりした胸板に顔を摺り寄せると、高鳴る心音が聞こえてきて、それが、凄く嬉しい。
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