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第一章 聖女としての生活
第九話 告白
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「ここのせいで聖女ちゃんの評判が落ちたらどうすんの」
幸太郎がお父さんに食ってかかった理由。それは、私のためだった。
・・・ただ父親に反抗したいだけに見えなくもなかったが、まぁ私のためということにしておく。
ここでの治療の成功率は5割だと聞いていた。成功しても先程の患者のように麻痺が残る可能性もある。
確かにイメージという点ではあまり良くないのだろう。
「我々も、治療の成功率を上げるために努力はしている」
幸太郎先生の反抗を幸太郎父は真正面から受け止める。正直、揉めるのは他所でやって欲しいのだが・・・。
「上がってないから駄目なんじゃん!」
「幸太郎、父さんにそんな口の利き方はないだろ!」
口喧嘩に幸太郎兄が加わって、怒声が凄い。収まるまで放っておこうと、郷広先生の方を見た。
勤勉な郷広先生は「治療の成功率・・・」とブツブツと独り言を言っていた。
「麻酔って局所に出来ないんですかね?」
郷広先生の独り言に加わるつもりで思いつきを口にしてみる。麻酔についてはよく分からないが、全身より局所の方が体へのダメージが少ない気がした。
「局所麻酔ですか、草順先生ならお詳しいですが、脳への局所麻酔となると・・・」
やっぱり、そこはもう検討済みなのだろう。素人意見は役に立ちそうにないなと、幸太郎先生の方を見ると、意外にももう喧嘩は終わったようだった。
幸太郎先生と目が合う。
「あるよ」
独り言のように彼が呟いた。もしかして、私と郷広先生の会話の続きだろうか。
郷広先生と目を合わせて、また幸太郎先生の方を向く。
幸太郎先生はハァと大袈裟にため息を着くと腕を組んだ。
「脳のというか、頭の局所麻酔。草順先生と開発した。手術で使えるかは知らないけど」
明後日の方を見ながら言う幸太郎先生は、なんだか照れてる子どものように見えた。
なんだ、やっぱりただの反抗期だったのかと、年甲斐もない幸太郎先生の姿に心の中で少し笑ってしまった。
治療所に長居しすぎたせいで、医療所に戻る頃には退勤の時間が迫っていた。
郷広先生には医療所内の片付けをお願いし、私は幸太郎先生と厩の掃除に回る。
力仕事は取り上げられてしまったため、私は馬のブラッシングを始めた。
馬たちにはもう顔を覚えてもらったので、大人しく体を触らせてくれて、その体温に凄く癒される。やはり動物はいい。
「聖女ちゃんさー」
餌と水を補充しながら幸太郎先生が口を開く。柱の影で顔は見えなかった。
「なんかすごい聖女って感じだよね」
独特の言い回しでよく意味が分からない。が、返事を貰いたいわけではなさそうだった。
「俺、実家すっごい嫌でさ飛び出したんだけど、ここで働いてると色々考えちゃってさ」
1頭目のブラッシングが終わり2頭目に移る。幸太郎先生の顔はまだ見えない。
「治してもらうつもりもなかったし、麻酔の話もするつもりなくてさ。でも、聖女ちゃん見てると、なんかその意地みたいなのがどうでもよくなってきちゃって」
いつものヘラヘラした口調の中に真剣な色が混ざっていく感じがした。
これは多分、茶化しちゃいけない話だ。
「聖女ちゃんってさ、凸凹の道で上りも下りもあるのにいつも全力疾走してる感じ?転ぶの分かってて走ってて、転んでもまたすぐ起き上がって走る、みたいな」
凄くわかりにくいが、褒めてくれてるのが何となく伝わってくる。
私は3頭目のブラッシングに移ったが、幸太郎先生の手はいつの間にか止まっているようだった。
「だから、見てるとすげー俺も頑張らなきゃって気になって、んで頑張ったら全部いい方向に転んじゃうのよ」
幸太郎先生の声のトーンがだんだん落ちてくる。いつもと違う、初めて聞く真剣な声だった。
「・・・聖女ちゃんって好きな人とかいたりする?」
ちょうど3頭目のブラッシングが終わったタイミングだった。
幸太郎先生の表情が見える位置に移動すると、困ったような真剣な顔で私を見つめる顔があった。
「俺、君のこと好きになってもいい?」
幸太郎がお父さんに食ってかかった理由。それは、私のためだった。
・・・ただ父親に反抗したいだけに見えなくもなかったが、まぁ私のためということにしておく。
ここでの治療の成功率は5割だと聞いていた。成功しても先程の患者のように麻痺が残る可能性もある。
確かにイメージという点ではあまり良くないのだろう。
「我々も、治療の成功率を上げるために努力はしている」
幸太郎先生の反抗を幸太郎父は真正面から受け止める。正直、揉めるのは他所でやって欲しいのだが・・・。
「上がってないから駄目なんじゃん!」
「幸太郎、父さんにそんな口の利き方はないだろ!」
口喧嘩に幸太郎兄が加わって、怒声が凄い。収まるまで放っておこうと、郷広先生の方を見た。
勤勉な郷広先生は「治療の成功率・・・」とブツブツと独り言を言っていた。
「麻酔って局所に出来ないんですかね?」
郷広先生の独り言に加わるつもりで思いつきを口にしてみる。麻酔についてはよく分からないが、全身より局所の方が体へのダメージが少ない気がした。
「局所麻酔ですか、草順先生ならお詳しいですが、脳への局所麻酔となると・・・」
やっぱり、そこはもう検討済みなのだろう。素人意見は役に立ちそうにないなと、幸太郎先生の方を見ると、意外にももう喧嘩は終わったようだった。
幸太郎先生と目が合う。
「あるよ」
独り言のように彼が呟いた。もしかして、私と郷広先生の会話の続きだろうか。
郷広先生と目を合わせて、また幸太郎先生の方を向く。
幸太郎先生はハァと大袈裟にため息を着くと腕を組んだ。
「脳のというか、頭の局所麻酔。草順先生と開発した。手術で使えるかは知らないけど」
明後日の方を見ながら言う幸太郎先生は、なんだか照れてる子どものように見えた。
なんだ、やっぱりただの反抗期だったのかと、年甲斐もない幸太郎先生の姿に心の中で少し笑ってしまった。
治療所に長居しすぎたせいで、医療所に戻る頃には退勤の時間が迫っていた。
郷広先生には医療所内の片付けをお願いし、私は幸太郎先生と厩の掃除に回る。
力仕事は取り上げられてしまったため、私は馬のブラッシングを始めた。
馬たちにはもう顔を覚えてもらったので、大人しく体を触らせてくれて、その体温に凄く癒される。やはり動物はいい。
「聖女ちゃんさー」
餌と水を補充しながら幸太郎先生が口を開く。柱の影で顔は見えなかった。
「なんかすごい聖女って感じだよね」
独特の言い回しでよく意味が分からない。が、返事を貰いたいわけではなさそうだった。
「俺、実家すっごい嫌でさ飛び出したんだけど、ここで働いてると色々考えちゃってさ」
1頭目のブラッシングが終わり2頭目に移る。幸太郎先生の顔はまだ見えない。
「治してもらうつもりもなかったし、麻酔の話もするつもりなくてさ。でも、聖女ちゃん見てると、なんかその意地みたいなのがどうでもよくなってきちゃって」
いつものヘラヘラした口調の中に真剣な色が混ざっていく感じがした。
これは多分、茶化しちゃいけない話だ。
「聖女ちゃんってさ、凸凹の道で上りも下りもあるのにいつも全力疾走してる感じ?転ぶの分かってて走ってて、転んでもまたすぐ起き上がって走る、みたいな」
凄くわかりにくいが、褒めてくれてるのが何となく伝わってくる。
私は3頭目のブラッシングに移ったが、幸太郎先生の手はいつの間にか止まっているようだった。
「だから、見てるとすげー俺も頑張らなきゃって気になって、んで頑張ったら全部いい方向に転んじゃうのよ」
幸太郎先生の声のトーンがだんだん落ちてくる。いつもと違う、初めて聞く真剣な声だった。
「・・・聖女ちゃんって好きな人とかいたりする?」
ちょうど3頭目のブラッシングが終わったタイミングだった。
幸太郎先生の表情が見える位置に移動すると、困ったような真剣な顔で私を見つめる顔があった。
「俺、君のこと好きになってもいい?」
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