聖女の私にできること第二巻

藤ノ千里

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第二章 医師団

第十二話 聖女として

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「聖女殿には重度の火傷を治してもらう」
 園田先生は重々しく口を開いた。
 火傷は聖女の業で治せる。が、それは中程度までだと言うことを先生が知らないはずがなかった。
 重い火傷、患部の皮膚がすでに死んでしまっている場合、再生することは出来ないのだ。
「これは私の責任の元行う治療になる」
 硬い表情のまま園田先生は続ける。何か恐ろしいことを言われるような予感がして、ごくりと唾を飲み込んだ。
「損傷した皮膚を私が削ぎ取る。それを治してくれ」
 火傷の治療で、あまりにも重い場合は患部を削ぎとる事があるのだと言うことは聞いていた。
 だが、それは患者を死なせてしまうかもしれないとてもリスクのある処置で、滅多にしないとも、聞いていた。
 園田先生が削いだ皮膚を私が再生する。それは、言葉にすれば簡単で理論上は可能だろうが、他の領地で行うにはあまりにもリスクが高すぎる行為に思えた。
「父さん!それは・・・!」
 いつもは黙って従ってくれるお凛さんが堪えきれずに声を上げる。
 園田先生は何も言わない。
 まるで決定事項だと言わんばかりに私を見ていた。
 園田先生と木村先生はきっと最初からそのつもりで私を派遣したのだ。自分たちの命をかけて聖女に患者を救ってもらうために。
 私の命をかけることだってできる。でも、1人でも多くの人を救うためには、私でない他の人の命をかける必要があった。
 殿の言葉を思い出した。「側室に」とは、何かあった時に私だけは助けようという殿の心遣いだったのだ。
 みんな、命懸けで聖女を守ろうとしてくれている。私は、聖女として全力で答えなければならない。
「分かりました」
 ニッコリと笑顔で答える。できるかどうかでは無い、やらねばならないのだ。
 お凛さんは唇を噛んで言いたいことを堪えていた。父親の命が懸けられているなんて知らなかっただろうに、彼女のことを思うと胸が傷んだ。


 5時間ほどの休憩が終わると馬宿を出た。
 身体を拭いてお昼ご飯を食べたあと少しだけ仮眠を取れたので、気持ちには余裕が生まれていた。
 お凛さんのことは心配だったが、「これでも元武家の娘ですから」と気丈に振る舞うので、それ以上何も言えなかった。
 また馬での移動が始まる。予定通りに行けば明け方に川平に着くはずだ。
 私の相棒は最初の茶色い子から真っ白な毛並みの子に変わっていた。
 私の今の服とお揃いの色だ。多分聖女としての演出のためだろうとすぐに気づいた。
 小休憩の頻度を1時間おきに増やしつつだったが、さすがに移動時間が長いため全員の顔に疲労の色が浮かんでいる。
 最後の休憩は2時間とることになった。
 初めての長時間の乗馬に、足も腰も背中も身体中の全てが悲鳴を上げていて、滑り落ちるように馬から降りた。
 疲れは見えてもしっかりと自分の足で立っている先生方の姿に、1番馬に慣れていない足手まといは私だと気付かされる。
「おい」
 座り込む私に声をかけたのは山田先生だった。
 悪い人ではないが万年の仏頂面と無愛想すぎる言い回しは正直得意ではない。
「それくらい治せるだろ」
 撤回しよう。正直苦手だ。
 言われていることは何となく分かりはした。この体のガタガタも聖女の業で治せるだろうと言いたいのだろう。
 だが、これからたくさんの患者を診るのに、業は少しでも温存しておきたかったのだ。
「お前はお飾りなんだよ」
 失礼に失礼を重ねられ、私もさすがにムッとする。
 不器用で済まされるレベルじゃない。これはもう喧嘩を売りに来ていた。
 お凛さんが気づいて間に入ってくれた。私だってこんな時に喧嘩なんてしたくなかったが、売られたものは仕方がないと、口を開こうとした時だった。
「山田先生、それでは伝わらないだろう」
 この医師団の最高責任者、園田先生だ。
 困り顔で苦笑する園田先生にバトンタッチするように山田先生は下がってくれた。正直、助かった。
「これから診る患者は、みな絶望しているのだ」
 私だけじゃなく、全員に聞こえる声で園田先生は説明してくれた。
「絶望の中、希望を欲している。聖女殿が涼しい顔で微笑むだけで、助けられる命がある」
 物凄く分かりづらい山田先生の言いたいことがやっと分かった。
 満身創痍の聖女ではダメなのだ。聖女は毅然と笑みを浮かべながら優雅に登場してこそ、その名の力が生きるのだ。
 私は医師としてでなく聖女として、地獄に光を照らしに行くのだと言う使命が、重く重く身にのしかかるようだった。
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